2011年11月26日土曜日

炎628

炎628(1985)
Idi i smotri
監督:エレム・クリモフ


ソ連軍の反攻が始まる直前の1943年、ドイツ軍占領下の白ロシアではパルチザンが村から牛を徴発し、村を失った村人たちは隣の村から牛を徴発し、最後にドイツ軍が霧の中から出現してすべてを焼き払う。緑と黒、そして霧の白を基調にした色彩設計が効果的に使われていて、全編が陰鬱で今にも影の中へ消えてしまいそうだ。影が子細を埋め尽くすと輪郭だけが後に残り、輪郭に囲まれた闇はとてつもなく不気味に見える。そこへ炎が点々と散らされていくが、その情景はすでにこの世のものではない。作り手がいかなる意図を抱いていたのだとしても、視覚的な素晴らしさのせいでリアリズムとファンタジーの境界を見定めるのが難しいのだ。そしてその結果、ここに描かれている惨劇はすでに特定の事件としての意味を失っていて思弁的である。もし何かの迷いが見えたとするならば、それは直截な解決へと常に人を傾ける人間の本性に根差した迷いであろう。
炎628 [DVD]

Tetsuya Sato