2015年6月30日火曜日

Plan-B/ 牛

S6-E18
 彼女は彼の執拗な求愛に疲れて家を捨てた。故郷から離れて見知らぬ土地をさまよった。彼は彼女を求めて彼女が残した跡をたどった。彼女の気配を風の中で嗅ぎ取って、彼女の声を風の中で聞き分けた。彼女は悲しみを歌いながら野を駆けた。岩を踏んで傷を負い、血がにじむ足で草を踏んだ。彼女は力尽きて野に倒れた。見知らぬ土地の牛飼いが彼女を見つけて囲いに入れた。彼女は囲いの中で目を覚まして、囲いの外に彼を見つけた。彼が柵を越えて近づいてくる。彼女は牛を持ち上げた。七歳の黒い雄牛を持ち上げて、彼に向かって投げつけた。彼は牛に潰された。彼とともに彼を潰した牛も死んだので、見知らぬ土地の牛飼いは彼女を囲いの中の牛に数えた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月29日月曜日

Plan-B/ 弓

S6-E17
 森の奥で青く生える泉のほとりに弓を手にした娘たちがやって来た。弓と箙を樹に立てかけて、髪留めを取って髪を下ろし、流れる髪を揺らしながら腰帯を解いた。服をその場に脱ぎ捨てて、白い足で駆け出して泉の水に滑り込み、なめらかに腕をかいて髪を濡らした。水面から腰まで出して落ちるしずくを振り落とし、笑いさざめきながら互いに水をかけ合うと、間近に見える藪の中では若者が乾いた唾を呑み下した。若者は木の葉の陰に隠れて、息を殺して娘たちを見守っていた。なによりも気づかれることを恐れていたが、娘たちが胸を躍らせながらきらめくので、知らぬ間に引き寄せられて気がつく前に小枝を踏んだ。足の下で小枝が折れて音が空気を引き裂いた。娘たちは目を開いて泉から飛び出し、すぐさま弓と箙を手に取った。若者はもつれる足で逃げようとして、弓に矢をつがえた娘たちに囲まれた。若者は憐れみを求めて娘たちを見上げたが、娘たちは一瞬も躊躇しなかった。一斉に弓を引き絞り、必殺の矢を若者の胸に打ち込んだ。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月28日日曜日

Plan-B/ 女神

S6-E16
女神
 力尽きた馬を捨てて夜の道をひたすらに歩き、月の明かりに照らされながら不穏な気配を感じて振り返ると、女神が埃を蹴立てて追いかけてくるのが目に入った。白い衣の裾をひるがえして、手に剣を握っていた。わたしは呪われていた。だから女神に追われていた。わたしが出かけていくところなら、女神はどこにでも現われて、わたしを指差し、わたしを罵り、わたしを中傷する言説を広めた。多くの町でわたしは出入り禁止を言い渡され、わたしを庇おうとした人々は女神によって滅ぼされた。いくつかの町ではわたしは死刑を宣告され、わたしは処刑人の腕を振り切って処刑用の穴の前から逃げ出さなければならなかった。わたしは逃げ続けた。逃げ続けなければならなかった。逃げるのに疲れて女神を刺したこともある。十分に刃渡りのある剣を使い、はっきりとした手応えも感じたが、女神はわたしをにらんで呪いの言葉を吐き散らしただけだった。わたしに刺されてからというもの、女神は剣を持つようになった。ただ持っているだけではなくて、機会があれば使おうとした。月の明かりに照らされて、女神が剣を振り上げて雄叫びを放った。わたしは道を走り始めた。荷物を捨てた。剣も捨てた。わたしにはもはや、和解に至る道は残されていない。わたしは滅びに至る道の残りを、命惜しさに走り続けた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月27日土曜日

Plan-B/ 坑道

S6-E15
坑道
 鎖に繋がれた鉱夫たちが鶴嘴や槌を手にして暗い坑道へ下りていった。ところどころで燃える獣脂の炎が坑道の濁った空気をあぶっていた。鉱夫たちは鎖の音を響かせながら影を伝って坑道の奥へ進んでいった。そして剥き出しの岩に向かって鶴嘴を振るい、こぼれた岩を槌で砕いた。少しでも休むと見張りが怒鳴り、鞭が飛んだ。玉の汗が流れ落ちる。鉱夫の一人が鶴嘴を振った。耳に障る響きとともに壁が崩れて漆黒の穴が口を開けた。空気が流れ、黄ばんだ炎が吹き飛ばされ、暗がりの中で影が動いた。鉱夫たちは気配におびえて、逃げようとして足を鎖に絡め取られた。悲鳴が上がり、骨が砕ける音がした。血をすする音が、肉をしゃぶる音がした。鉱夫たちが助けを求めて声を上げ、松明の炎が坑道を照らした。肌に皺を刻んだ化け物が炎をにらんで口を開けた。並んだ牙から血をしたたらせた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月26日金曜日

Plan-B/ 悪霊

S6-E14
悪霊
 大地が割れて地上と地底が道で結ばれ、闇に包まれた世界から悪霊が這い出て尾を揺らした。悪霊は獲物を求めて荒れ野をさまよい、さまようあいだに目と足を手に入れた。悪霊は目を使って彼方の獲物に狙いをつけ、太くてしなやかな足を使って荒れ野を駆けた。悪霊が獲物に飛びかかった。獲物の腹を破ってはらわたを引き出し、頃合いの穴をこしらえるとすばやくそこにもぐり込んだ。そしてどこからともなく針と糸を取り出して、器用な手つきで腹の裂け目を縫い合わせた。だから悪霊に襲われた者は腹を内側から縫われている。素知らぬ顔をしていても、腹に悪霊を隠している。調べるときには、そこに注意することだ。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月25日木曜日

Plan-B/ 泉

S6-E13
 月の光が森の木々に影を投げ、そよぐ風が泉の水面に波を立てた。白い寝巻き姿の女が木を回って顔を出し、落ち葉を素足で踏みながら泉に向かって近づいていった。風が女の顔を撫でた。髪が乱れ、月の光が毛先を照らした。光がにじむ。女が腕を広げて回り始めた。足をせわしく踏み替えながら、腕を大きく広げて回り始めた。風が吹いた。落ち葉が舞い上がった。女は空に向かって心地よく笑いの声を放ちながら、腕を大きく広げて回り続けた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月24日水曜日

Plan-B/ 夫

S6-E12
 十年にわたる漂泊のあと、男はようやく自分の家にたどり着いた。門に立って聞き耳を立てるとにぎやかな宴会の音が聞こえてくる。不意に心を躍らせて門を叩くと顔に覚えのある下男が現われたが、男の姿を見るやいなや、物乞いは裏へまわれと吐き捨てた。口をはさむ間もなく門の扉を閉めるので、男はぶつぶつと下男を罵りながら裏へまわった。裏口の戸を叩いてみると、今度は顔に覚えのある下女が現われた。男を見るといかにもわずらわしそうに鼻を鳴らして叩きつけるように戸を閉めた。しばらくしてからまた顔を出して、男の足もとに木切れのような物を投げ捨てたが、それは固くなったパンだった。男はパンを懐に入れて、昔からある穴をくぐって塀を越えた。こっそり屋敷にもぐり込んで、広間の様子を盗み見た。近在の男たちが集まって、男のパンや羊を食べ、男の酒を飲んでいた。そして酔った勢いで男の妻を盗もうとしていた。飲んで食って女を奪う算段をするのに忙しくて男に気がつく者は一人もない。男は壁にかかった斧を取った。広間に乗り込んでいって手近にいた一人を細切れにした。残りの男たちはその有様を見ていっせいに恐怖の叫びを放ったが、逃げ出そうにも酔いで腰が抜けていた。男は残りの者を一人ずつ細切れにしていった。逃げようとした下男も細切れにした。広間にいた全員を細切れにしたあと、台所に入っていって下女たちを細切れにした。最後に寝室に入っていって、そこで機織りをしていた妻を細切れにした。屋敷からひとの気配がなくなると、男は斧を捨てて外へ出た。固くなったパンを取り出して、顔をしかめて歯を立てながらどこへとも知れずに歩き去った。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月23日火曜日

Plan-B/ 網

S6-E11
 十年にわたる戦いのあと、山のような戦利品と言葉を失った異国の王女を従えて、夫が妻のもとに戻ってきた。妻は憎悪と殺意を隠して夫を迎えた。偽りの笑みを浮かべて夫をねぎらい、偽りの愛を差し伸べて夫を夫婦の寝室に誘った。夫が夫婦の寝台に横たわると、妻は夫に向かって網を投げた。網に絡め取られた夫に向かって剣を振り上げ、研ぎ澄まされた切っ先を夫のからだに突き立てた。妻は夫の手から王錫を奪い、王錫は妻の手から妻の愛人の手に渡った。妻の愛人は妻の新たな夫となり、妻は借りた漁網を漁師に返した。漁師は網が裂けていることに気がついて苦情を言ったが、新たな王はほくそ笑むばかりで補償に応じようとしなかった。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月22日月曜日

Plan-B/ 妻

S6-E10
 十年にわたる戦いのあと、男は妻を取り戻した。妻は鎖につながれ、檻に入れられていた。生木を並べた格子の向こうに妻が裸で隠れていた。檻の底に膝をついて、こぼれ落ちる黒髪で肩と胸を隠していた。乱れた髪の下から男を見上げ、男が檻に近づくと獲物を狙う猫のように腰を上げた。女が立った。男は妻と向かい合った。待っていた、と妻が言った。男は妻の声を聞いて喜びに震えた。そして同時に畏怖を覚えた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月20日土曜日

マッドマックス 怒りのデス・ロード

マッドマックス 怒りのデス・ロード
Mad Max: Fury Road
2015年 オーストラリア/アメリカ 120分
監督:ジョージ・ミラー

なにやら過去の亡霊にうなされながら荒野を進むマックスは一帯を支配するイモータン・ジョーの配下によって捕えられて、察するところ短い寿命しか与えられていない戦闘員に血液を供給する言わば血液袋として扱われるが、イモータン・ジョーの軍団の指揮官フュリオサがイモータン・ジョーの五人の妻を連れて新天地を求めて逃げ出すので、マックスもまた血液袋の身分から逃れてフュリオサの一行に合流すると、イモータン・ジョーは自分の軍団に近隣の親分衆の軍団を加えて追いかけてくる。 
マックスがトム・ハーディ、フュリオサがシャーリーズ・セロン。見たところ、事実上の主役はシャーリーズ・セロンだったのではあるまいか。切れ目なく流れ出る終末的イメージ、どこまでも異化された人間、果てしなく動き続ける絵と破天荒という表現が陳腐に思えるほどの壮絶なアクションに感無量。戦うばあさんたちがなんだかわからないけどかっこいい。ジョージ・ミラー、やはり半端な仕事はしていない。


Tetsuya Sato

Plan-B/ 王女

S6-E09
王女
 王女は狂気に駆られていた。狂気によって時の帳を打ち破り、未来のすべてを見通していた。王女は狂気によって得た知恵を言葉によって伝えようと試みたが、王女の言葉はすでに狂気によって飾られていた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月19日金曜日

Plan-B/ 岩

S6-E08
 人々の腕が乙女を捕えた。乙女は腕を掴まれて暗い浜辺に引き立てられた。浜辺では腰から袋を提げた裸の若者たちが待っていた。人々は若者たちに乙女を渡し、若者たちは乙女を担いで荒れる海に入っていった。若者たちが波を越えて沖へ進んだ。若者たちは乙女を支え、乙女は流されまいとして若者たちの腕や肩にしがみついた。そびえる岩が波を砕いてしぶきを飛ばした。若者たちは乙女とともに岩に上がり、乙女の足もとに太い杭を打ち込んだ。杭から鎖を伸ばして乙女の足首に巻きつけた。さらに二本の杭を乙女の頭をはさむように打ち込んで、それぞれの杭から鎖を伸ばして乙女の両の手首に巻きつけた。風が吹き荒れた。波が岩に押し寄せた。若者たちは乙女を残して岩から逃れ、波を越えて浜に戻った。白いしぶきが岩を襲った。波が岩を飲み込んだ。連なる波が浜辺を洗い、風が波を泡立てた。一瞬、風が吹きやんで波が岩から退いたが、岩の上の乙女の姿はなくなっていた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月18日木曜日

Plan-B/ 河

S6-E07
 百万の軍勢が前進を始めた。馬が土を蹴立てて進み、槍を抱えた歩兵の群れが渦巻く埃をあとに引いた。こぶの上に兵士を乗せた駱駝の群れが長い睫で砂を弾き、弓兵を乗せた象の群れが砂塵をしたがえて道を踏んだ。雑兵たちは顔を分厚い布でくるみ、行李を運ぶ駄獣の群れは首を垂れて砂をくぐった。日が中天に達したころ、軍勢は激しい渇きに襲われた。水をたたえた河に出会って、貪るように水を飲んだ。将軍が飲んだ。騎兵が飲んだ。馬が飲んだ。歩兵が飲んだ。弓兵が飲んだ。象が飲んだ。雑兵たちは残った泥を口にふくんで罵声とともに吐き出した。そして駄獣の群れは渇きをこらえて、すっかり干上がった河を渡った。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月17日水曜日

Plan-B/ 砂丘

S6-E06
砂丘
 藍色の空を背にそびえる砂丘の上に白銀の髪を束ねた女が腰を下ろして音に耳を凝らしていた。背中をわずかに丸めて両の耳に手をあてがって、目を閉じて音に聞き入り、音の変化を胸に刻み、音の流れに身をまかせた。砂丘の上で夜を迎えて星空を見上げ、星の音に耳を澄ませてまどろみながら朝を迎えた。女は砂漠の声と星の声を聞き分けた。とうの昔にひとの言葉は忘れていたが、砂漠の民は女の言葉を理解した。砂漠の民は女の前に遠くの井戸で汲んだ水と山羊の乳から作ったチーズと短冊に切った干し肉を置いた。女を囲んで腰を下ろし、女の声に聞き入って、目を閉じて時を過ごして、おのれの影を砂に重ねた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月16日火曜日

シー・オブ・ザ・デッド

シー・オブ・ザ・デッド
Mar Negro
2013年 ブラジル 106分
監督:ホドリゴ・アラガオン

海辺の寒村で漁師をしているペロア・フェルナンデスは夜の海で網を投げて半漁人のような化け物を引き揚げ、まだ生きていたそれに腕を噛まれて命からがらに逃げ戻り、ペロアの若い妻イシドラは亭主が手ぶらで帰ってきたので亭主の傷を縫って焼いたレモンを傷口にあてて手当をしてから近所のバーまで肉を買いに出て、バーの下働きをしているアウビノがやって来たイシドラの姿を熱い目で見つめ、イシドラは肉を持ち帰って料理をして亭主と二人の子供に昼食を出すとなにやら亭主の様子がおかしい、ということで、近所の女が近所に開店するクラブで調理の仕事があると誘いに来ても一度は断るものの、日給を聞いて考えを変えて夜になるのを待って出かけていくと、亭主のほうはいよいよ様子がおかしくなって痛みを訴え、娘を薬草を探しにやり、薬草を探しに森に入った娘はそこで得体の知れない集団と出会い、恐怖に駆られて家に帰ると父親が幼い弟を食べていて、いよいよ恐怖に駆られて外に飛び出すと得体の知れない集団も互いを食らいあっていて、そういうことが起こっていると知らないイシドラがクラブの厨房で料理をしていると店のほうから銃声が聞こえ、様子を見に出てみると化け物のようになった亭主が蜂の巣にされていて、イシドラに懸想している地元の若い男がイシドラをかばって厨房へ連れ込み、そこで水などを与えて気持ちを落ち着かせようとしていると今度は料理女が黒い胆汁を吐いて暴れ始め、店のほうでは死んだはずのペロア・フェルナンデスが起き上がって黒い胆汁を撒き散らし、クラブの護衛が発砲すると巻き添えを食らって客が死に、胆汁を浴びた男女がゾンビとなって護衛に群がり、店のオーナーは開店初日をめちゃくちゃにされて怒り狂ってクローゼットからミニガンを引っ張り出すとゾンビの群れに弾を浴びせ、店から脱出したイシドラはアウビノが働くバーに逃げ込むものの、そこにもゾンビが群れで押し寄せ、失われたシプリアンの書にからんで殺された男が首から上をアカエイにして現われ、アウビノは死んだイシドラの魂を呼び戻すためにシプリアンの書を開いてイシドラの娘を生贄に捧げようとたくらみ、呪文を唱え始めるとすぐさま戸口に悪魔が現われ、ゾンビも現れてアウビノに襲いかかり、イシドラの娘はその隙をついて逃げ出して海岸でゾンビの群れに襲われるが、そこに現われたクジラのゾンビによってゾンビの群れは叩き潰され、娘はクジラのゾンビに追われてさらに逃げる。
監督は『デス・マングローヴ』『吸血怪獣 チュパカブラ』のホドリゴ・アラガオン。文脈がどうこう、というよりも、この世の果てのような場所で、ただもう地獄が出現するだけ、という方向のようで、冒頭の怪物にしても、アカエイにしても、ゾンビにしても、クジラにしても、なにか一貫した説明がついているわけではない。ただどこかの見えないところで(おそらくは謎の魔道書にからんで)引き金が引かれていて、それであれやこれやの無残なことが起こっている、という以上の説明はない。引き起こされた事件が日常の悪意や善意や貧しい生活をただひたすらに飲み込んでいく、という一連の描写が、決して器用にではないものの、とにかくパワフルにつながれていて、出血量がすさまじく、子供ですらも容赦しない。それにしてもクジラのゾンビというのはゾンビ映画史上、初めてであろう。 


Tetsuya Sato

2015年6月15日月曜日

吸血怪獣 チュパカブラ

吸血怪獣 チュパカブラ
A Noite do Chupacabras
2011年 ブラジル 106分
監督:ホドリゴ・アラガオン

町で暮らしていたドゥグラス・シルヴァは臨月の妻マリアを出産させるために実家を訪ねるが、これがブラジル某所の山間部でどうやら電気も通じていない辺鄙な場所で、しかもしばらく前からチュパカブラが家畜を殺しているという噂があって、実際にそれらしきものを目撃しているドゥグラスの父親はチュパカブラをしとめようと銃の手入れに余念がないが、息子たちは父親の言うことをまったく信じないで、家畜を殺したのは諸般の事情から対立しているカルヴァーリョ一家のしわざに違いないと確信し、兄弟四人で町の酒場、というには語弊があるかもしれないさびれた小屋に出かけていって、チュパカブラに殺されたヤギの肉を売って酒をせしめて飲み始めると、そこへ問題のカルヴァーリョ一家の兄弟四人が現われてシルヴァ兄弟が売ったばかりのヤギの肉を食べ始めて、これがどうやらそうとうに傷んでいたようで、いきなり胆汁のような吐瀉物を吐き出し、肉を売ったのがシルヴァ兄弟だと知ると喧嘩を売ってくるのでシルヴァ兄弟も受けて立ち、流血の末にシルヴァ兄弟が逃げ出してカルヴァーリョ兄弟があとを追い、間道に逃げ込んだシルヴァ兄弟は父親が死んでいるのを発見し、これもまたカルヴァーリョ兄弟のしわざであると確信したシルヴァ兄弟のドゥグラスを除く三人は決着をつけるために銃を手にしてカルヴァーリョ兄弟の家を目指し、あとに残ったドゥグラスは父親の死体からライフルの撃針を見つけて死因が暴発にあったことを知って兄弟たちをとめるために追いかけるが、兄弟三人は銃撃戦の末に全滅し、カルヴァーリョ兄弟の生き残りはドゥグラスを見つけて追いかけてきて、そのあいだに男手のなくなったシルヴァ家にチュパカブラが現われて女たちに襲いかかり、ドゥグラスを発見したカルヴァーリョ兄弟の一人は忽然と出現した人食いに食われ、人食いはカルヴァーリョ兄弟によって退治され、そこへチュパカブラが現われるのでドゥグラスは縛られてチュパカブラをつかまえるためのおとりにされ、血の匂いに引き寄せられたチュパカブラはドゥグラスではなくカルヴァーリョ兄弟に襲いかかり、逃げ出したドゥグラスはチュパカブラの巣に転がり落ち、そこへやってきたカルヴァーリョ兄弟の最後の一人とともにチュパカブラと戦う。 
技術的な難点がところどころに見えるものの、おおむねにおいてテンションが高く、最後までパワーが持続するところは偉いと思う。とにかく血なまぐさくて流血、臓器の描写に遠慮がない。チュパカブラがどうこう、という前に人間同士がすでに殺しあっていて、だからいざチュパカブラをという話になっても、出血多量で失神するわ、それでもアドレナリンで起き上がるわ、というどたばたぶりはなかなかにすごい。チュパカブラのスーツは単純だがよくできていると思う。 



Tetsuya Sato

2015年6月14日日曜日

デス・マングローヴ ゾンビ沼

デス・マングローヴ ゾンビ沼
Mangue Negro
2008年 ブラジル 105分
監督:ホドリゴ・アラガオン

マングローヴの沼のかたわらの掘っ建て小屋で暮らしているルイス・ダ・マチャディナが近所の娘ハケルに恋心を抱いているとハケルの兄が血まみれになって現われて沼で襲われたというので焼いたレモンを傷口に当てて手当てをして、自分は食事をしているとハケルの兄がゾンビになって立ち上がって襲ってくるのでばたばたとしながら抵抗して単発の散弾銃でゾンビの頭を撃ってどうにか撃退していると、そこへハケルが現われてルイスが兄を殺したと思い込み、説明に苦慮しているとマングローヴの沼からゾンビがやって来てハケルに襲いかかり、ルイスは傷を負ったハケルを近所のまじない師の小屋へ運び、このままではハケルがゾンビになってしまう、ということでルイスはまじない師の勧めにしたがって沼へフグを探しに出かけ、沼で網をかけると序盤でゾンビに襲われていた釣り人のアジェノール・ドス・サントスがまずかかり、フグを見つけてまじない師の小屋へ戻るとまじない師がフグをさばいてハケルの口に押し込み、なにやら回復したハケルを連れてルイスがハケルの家を訪ねると、ここに至る過程で黙々と生で貝を食べていたハケルの父親はゾンビになっていて、訪問客の男もゾンビになっていて、ついでに、という感じでハケルの母親もゾンビになっていて、さらにそこへ沼のゾンビも押し寄せてきて、ルイスはハケルを抱えて血路を開くと裏山を目指し、そこへ釣り人のアジェノール・ドス・サントスが現われて迫るゾンビの群れにたった一人で立ち向かい、山頂に達したルイスとハケルを朝日が照らす。 
マングローヴの沼にはどうやらふつうにゾンビが「生息」している模様で、それに気がつかないまま生活を続けているのはいかがなものか、という気もしないでもない。ゾンビの造形、一部で使われているメカニカルなどはそれなりに凝っているものの、映画としては技術的な困難が目立ち、105分という尺はおそらく長すぎる。75分がおそらく妥当な線であろう。 


Tetsuya Sato

2015年6月13日土曜日

ブレスト要塞大攻防戦

ブレスト要塞大攻防戦
Brestskaya krepost
2010年 ベラルーシ/ロシア 138分
監督:アレクサンドル・コット

バルバロッサ作戦開始前日の1941年6月21日土曜日から戦闘を開始して要塞守備隊がほぼ全滅するまでの五日間を淡々と再現していて、その細部にわたる再現ぶりがかなりすごい。どこかしら不穏ながら警戒心を忘れた土曜日から始まり、その土曜日の深夜にドイツの列車から続々と降り立つドイツ軍の工作部隊(NKVDの制服を着ている)、日曜日早朝の川面に映る戦闘機の編隊、爆撃を受けて倒壊する建物、逃げ惑う軍人、市民、転がる死体、退路に構築されたドイツ軍の機銃陣地、ばたばたと倒れる民間人、指揮系統を失ったまま反撃に出る赤軍、三号戦車を押し立てて進むドイツ軍、一門だけ残った野砲による反撃、たった一機で現われた友軍機といきなり始まる空中戦を見上げる兵士たち、民間人を盾に投降を迫るドイツ軍、シュトゥーカの爆撃、ちぎれた腕や脚、水の不足、死体を蹂躙する戦車、連携が取れないまま夜襲をかけて大損害を受ける赤軍、投降する民間人、二トン爆弾による壊滅的な破壊、かつて軍楽隊の少年であった語り手が、その場で生きていた人間の顔を思い出しながら場面と場面とをつないでいく。絶望的でむごたらしい。


Tetsuya Sato

2015年6月12日金曜日

Plan-B/ 毒

S6-E05
 栗色の髪の少女が森の中の小さな家でたった一人で暮らしていた。親はどこかとたずねても、口を閉ざして答えようとしなかった。なぜ一人なのかとたずねても、口を閉ざして答えようとしなかった。少女は森の奥へ入っていって、網を仕掛けて鳥を獲った。網に絡め取られて暴れる鳥の首を折って、籠に入れて持ち帰った。少女は鳥でスープを作り、見知らぬ男を家に迎えてふるまった。スープには森で取った毒を入れた。何人もの男が少女の家で毒に悶えて死んでいった。少女がついに裁きを受けて栗の木で首をくくられたあと、人々は少女の家の裏を掘り返した。死体が出た。次から次へと死体が出た。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月11日木曜日

Plan-B/ 裸足

S6-E04
裸足
 暗い毛織の服にからだをうずめた男や女が陰鬱な顔で地面を見下ろし、顔を上げれば猜疑心に目を光らせる小さな村に、情熱の炎をまとった娘が暮らしていた。娘は裸足で歩いて、漆黒の髪をなびかせた。裸足で村の広場に現われて、重たい毛織の服を脱ぎ捨てた。白い下着の裾をひらめかせながら、初夏の陽射しのような笑みを浮かべて踊り始めた。差し伸ばされる腕はたおやかで、振り上げられる脚は健やかだった。こぼれる笑みと宝石のような白い歯が見る者の目を貫いた。胸と腰の動きは見る者を誘った。村の男や女は暗い顔に怒りを浮かべた。裸足で踊った罰として、娘を捕らえて晒し台にくくり付けた。それでは足りずに、小石を雨のように投げつけた。そこへ旅の剣士がやって来て、娘を晒し台から解放した。娘は村に別れを告げ、剣士とともに旅立っていった。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月10日水曜日

Plan-B/ 妖精

S6-E03
妖精
 湖畔に佇みながら樹齢を重ねたユーカリの樹が幹をわずかに震わせた。枝の先で葉が揺れ動き、根元から規則正しい鼓動の音が伝わると、幹の下から上へ切れ目が走り、樹皮が大きくまくれ上がった。開いた樹皮のあいだから黄金色の髪の娘が顔を出し、外に向かって手を差し出した。どこかまどろむような足取りで樹から抜け出し、外界の色に目をやりながら頬に指を伝わせた。その目には無知と無垢が浮かんでいた。鳥は娘を恐れなかった。獣も娘を恐れなかった。娘は岸辺に寄って白い足を水に浸した。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月9日火曜日

Plan-B/ 巫女

S6-E02
巫女
 新たに生まれた神が神に仕える巫女を選び、神に導かれた巫女たちは踊りながら山に登った。男たちは巫女になった女たちを探してこう叫んだ。神を捨てろ、山から下りろ、おまえたちは呪われている。神は巫女たちを包む音の調べを大きくした。男たちの声は女たちの耳に届かない。男たちは山に登って女たちを見つけ出した。巫女たちは踊り狂い、神は女たちの目を曇らせた。女たちは男たちに襲いかかり、腕や脚を引き抜いた。顔に恐怖の色を浮かべた首をねじ切って、笑いながら胸に抱えた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月8日月曜日

Plan-B/ 勝者

S6-E01
勝者
 男は敗北して、いまは和解を求めていた。和解を得るために家族を連れて荒れ野を越え、夜を前に川のほとりに辿り着いた。男はまず家族に川を渡らせた。最後に自分も渡ろうとして、そこでなにかに襲われた。男は拳を握って反撃した。相手も拳を握って男に挑んだ。交差する拳が互いの頬を打ち据えた。頬がたわみ、口がゆがみ、ゆがんだ口から唾液がこぼれ、裂けた唇から血がこぼれた。頬に赤く血がにじみ、折れた歯が口から飛び出した。戦いは朝まで続き、朝焼けのなかで男は相手の顔を見た。あなたが勝者だ、と相手は言った。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月7日日曜日

トゥモローランド

トゥモローランド
Tomorrowland
2015年 アメリカ/スペイン 130分
監督:ブラッド・バード

1964年、少年フランク・ウォーカーはニューヨーク万博の発明コンクールに乗り込んでいくが、自分で作ったジェットパックを却下されて意気消沈し、そこへ現われた少女アテナからピンバッチを渡され、アテナを追って『イッツ・ア・スモール・ワールド』のアトラクションに飛び込んでいくと奇怪な装置の前に導かれ、その機械に乗って運ばれていくと着いた場所が絵に描いたような未来都市で、それから現代、NASAの技術者を父親に持つ少女ケイシー・ニュートンはケープ・カナベラルで進行中の宇宙船発射台解体工事のサボタージュを繰り返して逮捕され、釈放されて引き取った所持品の中にピンバッチを発見、それに手を触れるといきなり野原に放り出され、彼方に見える絵に描いたような未来都市に向かって進み始めると現実世界の壁に阻まれ、あれやこれやと試行錯誤の末にとうとう未来都市にたどり着くと今度はピンバッチのバッテリー切れで現実世界に弾き返され、ピンバッチを手がかりにその手の物を扱う店を訪ねていくと謎の夫婦が現われ、怪光線に狙われ、殺人ロボットが現われ、窮地をアテナに救われたケイシー・ニュートンはアテナの導きですっかり歳を取った上にすっかりふてくされているフランク・ウォーカーを訪ねてあれやこれやと質問をするが、そこへ再び殺人ロボットが現われ、エッフェル塔は変形し、ニコラ・テスラの宇宙船が時空を超えてトゥモローランドへ突進する。 
能書きの多いフランク・ウォーカーがジョージ・クルーニー、質問が多くて性差に意味を与えないケイシー・ニュートンがブリット・ロバートソン、アテナがラフィー・キャシディ。この子役のアンドロイド演技はなかなかにすごい。60年代まで我々が持っていた楽観的な未来像がすっかり失われて、いつの間にか『マッド・マックス』のような映画ばかり誉めるようになったのは異次元から送られた怪電波を浴びて破壊のイメージですっかり洗脳されていたからだという恐ろしい内容で、それと対照的に登場するトゥモローランドは60年代の悪夢のように前向きだし、エッフェル塔から飛び立つロケットは科学の力への信頼にあふれている。人類の性悪ぶりをどこかに隠しながら、それでも提示される楽観的な結末は感動的で、思わず涙した。さすがはブラッド・バードというべき仕上がりで、エンディングロールに映し出される未来世界のアニメーションがまた楽しい。


Tetsuya Sato

2015年6月6日土曜日

Plan-B/ 頭痛

S5-E33
頭痛
 ついに頭に穴を開けた。痛みが頭から抜け出していく。あふれるように。流れるように。床に滑り落ちて暗いところへ這っていく。これほど悪意に満ちたものを見たことがない。これほど惨めなものを見たことがない。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月5日金曜日

Plan-B/ 目

S5-E32
 水の流れが血に変わった。土は筋を得て肉になり、岩は硬い骨になった。大地が寝返りを打って森をこぼし、腕を伸ばして空を覆った。立ち上がる。動き出す。それはもう視界に収まらない。なにをしているのかもわからない。それが無数の目を開いた。見下ろしている。目を開くと目が見下ろしている。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月4日木曜日

Plan-B/ 繭

S5-E31
 夜のあいだになにかがそこで繭になった。ひとが一人、かろうじて入れるくらいの大きさがある。床や壁に白い糸を引っ張って、必死でしがみついている。手で触れてみた。少しばかり熱を帯びている。叩いてみた。返事はない。ハサミを使って切ってみた。赤黒い水が流れて繭が震えた。切れ目を広げてなかを見た。剥き出しの肉の繊維のあいだで黒い瞳が動いていた。繭をさらに切り裂いた。すべてが未満の状態で、正体がまるでわからない。壁からなんとか引き剥がして、袋に入れてごみに出した。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月3日水曜日

Plan-B/ 腹

S5-E29
 七つの丘の向こうからやって来た人喰い鬼は七つの川を越えるあいだに七つの町を食い尽くした。いまは退治されて裸のからだを横たえている。男たちは鉈や斧を手にして人喰い鬼のからだによじ登った。鉈や斧を人喰い鬼の膨らんだ腹に振り下ろした。腹が裂けた。はらわたが飛び出て大蛇のようにとぐろを巻いた。男たちは鉈や斧ではらわたを裂いた。溶けたからだが糸を引いてこぼれてきた。骨になったものもある。まだ動いているものもある。助けを求めているものもいる。こぼれてくる。まだこぼれてくる。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年6月2日火曜日

ゴーン・ガール

ゴーン・ガール
Gone Girl
2014年 アメリカ 149分
監督:デヴィッド・フィンチャー

ミズーリ州の田舎町で暮らすニック・ダンは結婚五周年目の朝、物思いに耽りながら家を出て、経営するバーに顔を出して双子の妹マーゴット・ダンと言葉を交わし、隣人からなにやら知らせを受けて帰宅すると家の中が荒らされていて妻のエイミー・ダンが姿を消して、通報を受けて現われたロンダ・ボニー刑事は犯罪の痕跡が偽装されていることを見抜いて捜査にかかり、ニューヨークからはエイミーの両親が現われ、捜索ボランティアが結成され、メディアの報道といくつかの証言がニック・ダンの評判を落とし、「謎」が解明されるにつれてニック・ダンは殺人犯の扱いを受けるので、その方面の事件に強い弁護士ターナー・ボルトを雇って結婚生活に関わる真実を告げ、ニック・ダンはターナー・ボルトの勧めにしたがってエイミーの過去を探って、自分が置かれた状況が必ずしも意外ではないという事実を知ったころ、エイミー・ダンは離れた場所でなおもあれやこれやと画策をするので、ニック・ダンも勝負に出る。
ベン・アフレックとロザムンド・パイクというキャスティングが非常によく生きている。ベン・アフレックのどことなく凡庸な感じが実にいいし、ロザムンド・パイクの熱演ぶりは恐ろしい。デヴィッド・フィンチャーの作品としては『ゾディアック』と並ぶ傑作であろう。無残に殺害される金持ちデジー・コリンズ役の俳優がどこかで見た顔だと思ったが、『スターシップ・トゥルーパーズ』でカールをやっていたニール・パトリック・ハリスであった。ところでエイミー・ダンは65インチのブラヴィアをどうやって薪小屋に運び込んだのか。一人ではたいへんな作業だったのではあるまいか。


Tetsuya Sato

2015年6月1日月曜日

ゾディアック

ゾディアック
Zodiac
2007年 アメリカ 158分
監督:デヴィッド・フィンチャー

1969年7月4日にカップルが暴漢に襲われて女性が死亡、警察には犯人から通報があり、それから間もなく次の事件が起こって再び女性が死亡、サンフランシスコ主要各紙に犯人からの手紙が届き、思い込みによる初動捜査は誤りを生み、以降、警察、新聞社は犯人の行動に振り回され、新聞記者は酒びたりになり、担当刑事の精神は疲弊し、新聞社の漫画家だけがなぜか淡々と犯人の情報を追いかけ、最初の関係者がことごとく退陣したあとも一人で事件を追いかけていく。
追いかけていく漫画家がジェイク・ギレンホール、事件に絡んで汚名を着せられる刑事がマーク・ラファロ、酒びたりになってからは登場するたびに落ちぶれていく新聞記者がロバート・ダウニーJr.。2時間半の上映時間でほとんど四半世紀にわたるタイムスパンを扱い、情報はたくみに圧縮され、その語り口はよどみがない。登場人物はきわめて年代記的に素描され、背景となる時代は見事な美術によって一貫性を備えた空間に収められている。傑作である。


Tetsuya Sato