2011年11月30日水曜日

ロマノフ王朝の最期

ロマノフ王朝の最期(1981)
Agoniya
監督:エレム・クリモフ


厳密にはロマノフ王朝の最期ではなく、ラスプーチン暗殺を主軸にした帝政末期の国家的苦悶を荘重に描いている。卓越した色彩デザイン、そして記録映画や写真をコラージュした映像は古典的かつ芸術的であり、とりわけ慎重に配置されたモンタージュはエイゼンシュテインを思い出させる。集合写真を多用する手法は先に見た『炎628』でも使われていたが、この映画でもきわめて効果的である。国会の記念写真に始まり戦傷者と看護婦、貴族、労働者、死体、群集と連なる何枚もの集合写真は歴史の背後に埋もれている無数の人間の存在を静かに観客に伝えている。
ただし難しさが残る。映画は16年から10月革命までの短い文脈を選んで革命を結末としているが、現代的な視点で眺めた場合、革命はやはり始まりなのである。帝政及び第一次世界大戦という悲惨の延長線上に革命とそれ以降の時代が存在しているわけであり、あの時点での苦悶は恐ろしいことにそれから半世紀以上にもわたって継承されているという事実である。政治的な上部構造が置き換わっただけなのだ。もちろん1981年当時の、いや、いつの時点であろうとモスフィルムにそうしたタイムスパンを採用する余地がないことは明らかなので、私はまるで無意味なことを言っているのかもしれない。歴史の重量感を備えたこの映画に与えられた歴史的な制約が、見ていてなんとなく苦しいのである。
ロマノフ王朝の最期【デジタル完全復元版】 [DVD]

Tetsuya Sato