2017年9月28日木曜日

ウォークラフト

ウォークラフト
Warcraft
2016年 中国/カナダ/日本/アメリカ 123分
監督:ダンカン・ジョーンズ

オークの世界は邪悪なフェルの魔法のせいで滅亡の危機に瀕していて、そのフェルの魔法を使うオークのウォーロック、グルダンはフェルの魔法によって門を開いてオークの全氏族によるアゼロス侵攻を計画、先遣隊が派遣されてアゼロスの民に襲いかかり、同時に残るオークを招き入れるための巨大な門の建設が始まるので、事態を察したアゼロスの騎士ローサ―は国王レインを説得して守護者メディヴを召喚、メディヴは魔法によってオークの先鋒を撃退するがメディヴの行動にはどこか混乱があり、一方、グルダンの強引な手法に疑問を抱いたオークの族長デュロタンは人間との共闘を画策、レイン王と会うことに成功するものの自らは窮地に陥り、メディヴと意見のあわないローサ―はレイン王によって幽閉され、そうこうするうちに巨大な門が完成する。
同名のMMORPGの映画化。MMORPGには近づいたことはないが、草分け時代の『WARCRAFT』『WARCRAFT II』にはけっこう時間を費やしている。監督は『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズで、どちらかといえば雑なプロットを勢いで押し切りながらテンポよくまとめている。つまり、ちょっと見てみるつもりで見始めたら、結局最後まで見てしまった。アゼロス側の造形は例によって例のごとくだが、オークがたいそう愛情深く造形されていて、同じ個体は見当たらないし、デュロタンなどはドレッドヘアをうしろでめとめていたりする。ちなみにアゼロス王がドミニク・クーパーで、その王妃がルース・ネッガ、という取り合わせがamazonで放映中の『プリ―チャー』とかぶるので、あの低劣な番組の主人公がこちらではそれなりに高潔だったりするとなにか微妙な違和感がある。
Tetsuya Sato

2017年9月23日土曜日

エイリアン:コヴェナント

エイリアン:コヴェナント
Alien:Covenant
2017年 アメリカ/イギリス/オーストラリア/ニュージーランド/カナダ 122分
監督:リドリー・スコット

冷凍睡眠状態にある入植者2000人を乗せた星間移民船コヴェナントが目的地オリガエ-6まであと七年あまりというところへ進んだころに恒星のフレアによる事故が起こり、叩き起こされた乗組員は謎のシグナルを受信、調べたところその発信源はオリガエ-6よりも入植に適した惑星だったので、冷凍睡眠装置の事故を目撃してポッドに戻りたくない乗組員はコヴェナントの進路を変更してその惑星を目指し、惑星の軌道に入ると着陸船を送って発信源を探りにかかり、行方不明になった調査船プロメテウスの手がかりを発見していると乗組員が一人二人と倒れ、なにやら恐ろしい経験をしているうちに凶暴な怪生物の襲撃を受け、調査船プロメテウスの生存者で嘘つきアンドロイドの「デヴィッド」と遭遇する。コヴェナントの乗員で良いアンドロイド「ウォルター」がマイケル・ファスベンダー、悪いアンドロイド「デヴィッド」がマイケル・ファスベンダー、あとは死ぬために登場する顔のないひとたち。エイリアンはほぼ添え物で、内容は純粋に『プロメテウス』の続編であろう。そして『プロメテウス』が最初から最後までピーター・オトゥールの物まね大会に終わっていたら傑作になっていたかもしれないのと同様に、『コヴェナント』は最初から最後までデヴィッドが出ずっぱりで悪の限りを尽くしていれば傑作になっていたかもしれない。視覚的な驚きはすでにないし、どこかで見たようなシチュエーションの繰り返しは眠りを誘う。
Tetsuya Sato

2017年9月21日木曜日

怪盗グルーのミニオン大脱走

怪盗グルーのミニオン大脱走
Despicable Me 3
2017年 アメリカ 90分
監督:ピエール・コフィン、カイル・バルダ

1980年代の悪役専門子役バルタザール・ブラットが80年代を醜悪にひきずって本物の悪役になっていたころ、悪役を廃業したグルーのところではグルーはすでに悪役ではないという理由でミニオンが離反、新たなボスを求めて旅に出るが、言わば「困窮の末」に犯罪に走り、ステージで大喝采を浴びたあとで全員で刑務所にぶち込まれると強靭無比の不死身属性と数を頼みに囚人たちの上に君臨し、一方グルーは双子の兄弟ドルーの存在を知り、そのドルーから自らの出生の秘密を知り、あれやこれやがあったあとで兄弟でバルタザール・ブラットと対決する。
スティーブ・カレルはグルー/ドルーの二役をこなしていて、さすがの芸達者ぶりには感心した。ちなみにバルタザール・ブラットの声がトレイ・パーカーなわけだけど、これにはなにか意味があったのか(残念ながら格別おもしろくない)。作品自体は安定した形で無難に水準をクリアしている、という感じだが、ミニオンのレビューと恐怖の刑務所生活でだいぶ嵩上げされている。ということで、やっぱりミニオンは強いのである。
Tetsuya Sato

2017年9月20日水曜日

SING/シング

SING/シング
Sing
2016年 アメリカ 108分
監督:ガース・ジェニングス

子供のころに劇場に魅せられたバスター・ムーンは洗車をしている父親の助けで劇場の支配人になるものの、失敗が続いて倒産寸前という状態に追い込まれ、起死回生の方策として素人歌謡コンテストを考え出すが、秘書兼助手のカメレオン、ミス・クローリーが賞金の数字を2桁間違えたポスターを作ってそのまま町にばらまくので高額賞金につられた参加希望者がすぐさま劇場前に列を作り、そこでバスター・ムーンはオーディションに取りかかって才能のある数人を選ぶとそれぞれにテーマとスタジオを与えて訓練にかかるが、電気はとめられ、水道もとめられ、資金に窮して往年の大歌手ナナ・ヌードルマンに援助を仰ぎ、そのための準備を整えるとその準備が老朽化した劇場にたたって惨事が起こり、劇場は倒壊、廃墟は銀行に差し押さえられ、先行きを見失ったバスター・ムーンは落ちるところまで落ちていく。
同じILLUMINATIONの作品でもなんとなく消化不良の気味があった『ペット』に比べるとかなりいい。余計なひねりを加えずに正攻法のストーリーで骨格を作って、その細部を充実させることで密度の高い作品になっている。バスター・ムーン役のマシュー・マコノヒーをはじめ声優陣も豪華だし、コミュニケーション不能な日本人グループ、キューティーズもちょこまかしていてかわいらしい。
Tetsuya Sato

2017年9月19日火曜日

マグニフィセント・セブン

マグニフィセント・セブン
The Magnificent Seven
2016年 アメリカ 133分
監督:アントワーン・フークア

南北戦争終結からおよそ10年後、六つだか七つだかの自治体で法執行を代行するサム・チザムが賞金稼ぎの腕を見せていたころ、小さな開拓村ローズ・クリークでは開発業者バーソロミュー・ローグが金の採掘のために極悪な手段で地上げをしていて、事実上の立ち退き命令に遭遇したローズ・クリークの住民たちは自らが拓いた土地を守ることを決意するが農民ばかりなので次の手に進めずにいるうちにバーソロミュー・ローグによって夫を殺されたエマ・カレンがサム・チザムを発見、事情を説明するとサム・チザムは仲間を集めにかかり、あれやこれやで七人になるとローズ・クリークの町に奇襲をしかけてバーソロミュー・ローグが雇った警備員を排除、町を要塞化するとともに弾薬確保のためにバーソロミュー・ローグの金鉱を襲撃して鉱夫若干を味方に引き入れ、そうしているとバーソロミュー・ローグの軍隊が押し寄せてくる。
サム・チザムがふつうに貫禄のデンゼル・ワシントン、仲間がクリス・プラット、イーサン・ホーク、ヴィンセント・ドノフリオなどのほか、なぜかイ・ビョンホン。サム・チザムを味方に引き入れるエマ・カレンがヘイリー・ベネット、無駄に悪事の多いバーソロミュー・ローグがピーター・サースガード。登場人物はいずれもよく造形され、まったく美人ではないヘイリー・ベネットがたいそう魅力的に撮られている。
時代を反映してか、農民対盗賊という関係は農民対産業資本に変更され、資本主義を賛美するバーソロミュー・ローグの軍隊が金で雇われた男たちなら農民につく七人もただ飯にありつくために集まったわけではなく、それぞれが名のあるプロで主人公のサム・チザムに至っては個人的な理由まで抱えている。そしてサム・チザムが状況に深く関わっているのと、そしておそらくは農民たちがほぼ善良な無力者として描かれている関係で、勝ったのは農民たちだという台詞はこの映画には登場しない。代わりにエマ・カレンが男たちの崇高さをたたえるが、たぶんこれでは単純すぎるし何か付け焼刃のような気がしてならない。素材を近代化する過程で重要なものが欠落したのではあるまいか。とはいえ銃撃戦の造形はおおむね古典的で(極端に少ない硝煙も含めて)、最近の西部劇(『3時10分』とか『ジャンゴ』とか)のようになっていないところは好ましいし、アントワーン・フークアだという理由でほとんど期待していなかった、というところもあって、それほど悪くない。
Tetsuya Sato

2017年9月15日金曜日

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
Trumbo
2015年 アメリカ 124分
監督:ジェイ・ローチ

ダルトン・トランボが赤狩りでハリウッドから排除され、偽名で活動を続けて『スパルタカス』『栄光への脱出』で復帰の足掛かりをつかみ、名誉が回復されるまで。
ジェイ・ローチの演出はいまひとつ芸が足りないが、ブライアン・クランストンが面白いのでさしあたり見ていて飽きるということはない。ブライアン・クランストンを見る映画であろう。ジョン・ウェイン役のデヴィッド・ジェームズ・エリオットがまったくジョン・ウェインに似ていないのは確信犯なのだろうか。カーク・ダグラス役のディーン・オゴーマン、オットー・プレミンジャー役のクリスチャン・ベルケルがモデルになった本人の適切なパロディになっているのとなにやら対照的である。地味ではあるがトランボ夫人を演じたダイアン・レインが非常にいい感じであった。
Tetsuya Sato

2017年9月14日木曜日

ザ・マミー/呪われた砂漠の王女

ザ・マミー/呪われた砂漠の王女
The Mummy
2017年 アメリカ 110分
監督:アレックス・カーツマン

ロンドンの地下鉄工事現場でテンプル騎士団の巨大墳墓が見つかっていたころ、イラク派遣アメリカ軍の偵察隊員であると推定されるニック・モートン軍曹は民間人に偽装して活動しながら古美術品の盗掘に関わっていたが、考古学に関わりのある謎の女性ジェニー・ハルジーから情事のあとに盗み取った地図を頼りにエジプトの王女アマネットの墓を発見、考えなしに遺物に接近してアマネットの呪いを解放してしまうのでニック・モートンはアマネットに魅入られることになり、ジェニー・ハルジーはアマネットの棺を運び出してアメリカ軍の輸送機に搭載、ニック・モートンとともにこの輸送機に乗り込むが輸送機は英国上空で遭難して墜落、パラシュートで脱出したジェニー・ハルジーは機体とともに落下したにもかかわらず無傷で生き残ったニック・モートンと再会し、よみがえったアマネットが野望を達成すべくロンドンを目指す一方、ニック・モートンは謎の機関に拉致されてハイド博士と面会する。
『ミイラ再生』の(たぶん)三度目のリメイク。まず主人公のキャラクター設定がよくわからない(現地人に変装しているくせに武装は高価なMASADAだったりするし)。トム・クルーズならなんでもいい、という感じなのではあるまいか。で、そのトム・クルーズが古代美女アマネットに憑りつかれて男冥利になにやら恐ろしい思いをする、というあたりがおそらく眼目にあって、その先には何も広がらないし、隙間を埋めるような細部もない。『ミイラ再生』の(たぶん)二度目のリメイクになる『ハムナプトラ』とは比較にならないほど退屈である。
Tetsuya Sato

2017年9月11日月曜日

ダンケルク

ダンケルク
Dunkirk
2017年 イギリス/オランダ/フランス/アメリカ 106分
監督:クリストファー・ノーラン

1940年5月、撤退する連合軍はダンケルクでドイツ軍の包囲を受けて退路を失い、これに対して軍艦、輸送船、民間の小型船舶を動員した脱出作戦が決行されておよそ35万人が脱出に成功する。
いわゆるダンケルクの戦いの映画化だが、ドイツ軍は「敵」という一語で抽象化され、イギリス軍に向かって発砲するドイツ軍兵士は最後まで姿を見せず、メッサーシュミットやハインケルの乗員も撃墜されても脱出しない。抽象化された「敵」が一瞬でも人間の姿を得るのは好ましくないからである。映画はダンケルクの浜に取り残されたイギリス軍兵士が体験する一週間と、政府に徴用されてその兵士たちを救出に向かうヨットの船上における一日、撤退援護に出撃したスピットファイア三機編隊の一時間という異なる三つの時間枠を時系列を前後させながら同一線上に配置して状況を立体的に描くという手法を採用し、これは見事に成功している。クリストファー・ノーランの話法としては『メメント』に近接しているが、はるかに洗練されていると思う。そしてこの三軸構造が時間の経過にしたがって接続の密度を高くしていって、そこにかかるハンス・ジマーの禁欲的な音楽が否応なく緊張を高めていく。映像と音、カットの切り返しの巧みさ、そして心地よさは半端ではない。しかし終盤にいたって燃料を失ったスピットファイアが延々と滑空を続けていくとこちらの不安がなぜか次第に大きくなり、そこにチャーチルの演説がかかってくると、それまでにおこなわれた抽象化の努力はいったいなんだったのかと首をかしげることになる。この瞬間、「状況」としてのダンケルクが「イギリスのトラウマ」としてのダンケルクに変貌するのである。戦意高揚映画じゃあるまいし。というような欠点はあるし、イギリス海軍の駆逐艦の役で出演しているフランス海軍の駆逐艦はどう見てもシルエットが違うとか、あまりにも小舟ばかりだとか、妙なところもあるものの、たいへん立派な映画であることに間違いはない。
Tetsuya Sato

ワンダーウーマン

ワンダーウーマン
Wonder Woman
2017年 アメリカ/中国/香港/イギリス/イタリア/カナダ/ニュージーランド 141分
監督:パティ・ジェンキンス

神の手によって霧で隠された島にアマゾン族が暮らしていて、そのアマゾン族の女王の娘で島で唯一の子供であるダイアナはアマゾン族の将軍アンティオペによって戦士に育てられるが、そこへ霧を破って一機の飛行機が現われて海面に不時着、一切を目撃したダイアナは飛行機を操縦していたスティーブ・トレバーを救出し、スティーブ・トレバーの口から外界で世界大戦が進行していることを知るとこれこそはアレスの仕業であると確信し、スティーブ・トレバーとともに島を脱出、ドイツ軍の秘密作戦を葬るために西部戦線へ潜入する。
ダイアナを演じたガル・ガドットはとても頑張っていたと思うし、なによりもクリス・パインが非常にいい、というのはとてもうれしい驚きで、絵に描いたような第一次大戦快男児なので、これならビグルスだってできるのではないだろうか。一方、デヴィッド・シューリスはよくわからない。もしかしたら本人がああいうことをしたかったのかもしれないが、なんか違うというのが正直な感想である。で、言うまでもないがロビン・ライトは眼福であった。というわけでキャラクターはそれなりに魅力的だし、見せ場もそれなりに用意されているし、悪くはないもののちょっと長い。

Tetsuya Sato