ジャック・リーチャー NEVER GO BACK Jack Reacher: Never Go Back 2012年 中国/アメリカ 118分 監督:エドワード・ズウィック 凄腕、というよりもどちらかと言うとトラブルを引き寄せる傾向があるジャック・リーチャーはとある事件で陸軍憲兵隊のスーザン・ターナー少佐の知己を得ることになり、ターナー少佐を食事に誘うためにワシントンDCを訪れたジャック・リーチャーはターナー少佐がスパイ容疑で逮捕されたことを知り、ターナー少佐の弁護官ムーアクロフト大佐を訪れるが、ジャック・リーチャーは事を穏便に済ませようとするムーアクロフト大佐の姿勢を批判、ジャック・リーチャーの言葉に触発されたムーアクロフト大佐はターナー少佐の事件の関連情報をジャック・リーチャーに伝え、するとムーアクロフト大佐は何者かによって速やかに殺害され、ジャック・リーチャーはムーアクロフト大佐殺害の嫌疑で収監され、そこでただちに反撃に出ると同じ拘置所にいたターナー少佐を救出して二人で脱獄、一連の事件の背後軍事会社パラソースの存在があることを嗅ぎ取り、ジャック・リーチャーの娘である可能性が疑われる少女サマンサを仲間に加えると路銀の不足を克服しながらニューオーリンズに飛び、事件の証人を探し当て、群がる暗殺者を撃退して真相を暴く。 監督はクリストファー・マッカリーからエドワード・ズウィックに交代し、敵も謎の地上げ屋から謎の軍事会社に代わったせいか(あるいは原作自体の世代の変化による影響か)、一作目にあった古めかしいB級テイストはおおむね消えてふつうにA級のアクション映画になっている。一作目をあくまでも基準にするなら、良くも悪くも癖が消えている、ということになるのかもしれないが、この二作目の仕上がりも間違いなく一級である。ロバート・デュヴァルにヘルツォークといった前作の強烈な顔ぶれがない一方、こちらではトム・クルーズとタイマンを張るコビー・スマルダーズが実にいい感じで、監督がエドワード・ズウィックだから、ということになると思うけど、ふつうならもたもたしそうなところを余計な手間を取らないし、余計な手間を取らないという点ではコビー・スマルダーズ扮するターナー少佐は言うまでもなく、14歳の少女サマンサまでが有能で、逃げるときには転んだりしないで全速力で突っ走る。
ユダヤ人だらけ Ils sont partoute 2016年 フランス/ベルギー 111分 監督:イヴァン・アタル セファルディー系のユダヤ人で1965年生まれの俳優イヴァン・アタルが自身がユダヤ人であるという事実に取りつかれてほぼパラノイアの状態で精神科医に自分のこだわりについて語り続けるあいまに反ユダヤ主義を掲げる右翼政党の次期党首の夫は祖母の死によって自分の意外な正体を知り、ユダヤ人は金持ちであるという「一般常識」に反して失業中で無一文のユダヤ人の男は異教徒の妻にその点を罵られて負け犬となじられ、Googleでユダヤ人について調べて実はユダヤ人が金持ちであることを知り、したがって自分はユダヤ人ではないという判断を下してユダヤ人である「義務」を捨て、「われらがモサド」はイスラエルが秘密裏に開発したタイムマシンを使って恐るべき歴史「修正主義」作戦を実行に移し、ドランシー通過収容所跡地の向かいに住む赤毛の男は連日のように出現するユダヤ人に業を煮やし、ユダヤ人ばかりが同情を集めていると怒り、赤毛であることで自分がいかなる虐待を受けたかを叫んで赤毛連盟を結成し、経済破綻に瀕したフランス政府はユダヤ人だけはどうにか成功しているという事実に気づいて恐るべき「最終解決」を国民に提案し、語り続けるイヴァン・アタル本人はイスラム教徒の役を引き受けるかどうか考えている。 Netflixで鑑賞。監督・主演がテルアビブ出身のイヴァン・アタル。「ユダヤ人であること」と「反ユダヤ主義」に関する「偏見」に満ちたスケッチを重ねたコメディで、かなり笑えるし、異教徒の妻役で登場するシャルロット・ゲンズブールのビッチぶりもなかなかにすごいが、とにかく神経逆なで系なのでとても疲れる。
フィリップ、きみを愛してる! I Love You Phillip Morris 2009年 フランス/アメリカ 97分 監督・脚本:グレン・フィカーラ、ジョン・レクア 生まれるのと同時に母親から養子に出されたことを知ったスティーブン・ラッセルはひとも驚く立派な人間になろうと決意して警官になり、敬虔なキリスト教徒の妻とかわいらしい娘と三人で幸福な家庭を営んでいたが、警官の立場を悪用して実の母親の所在をつきとめ、自分を捨てた理由を知るためにその家を訪れて門前払いされ、実は母親の所在をつきとめることが警官になった理由であったので、それを機会に警官をやめてテキサスに移り、そこでよい職とよい隣人に囲まれて幸福な家庭を営んでいたが、実は物心がついたころからゲイであったので妻に隠れて男とつきあい、交通事故にあって死と直面し、自分は自分を生きていないと気づいてカミングアウトし、妻と別れて盛大に男とつきあうようになり、男に貢ぐために金をはたき、金がなくなると詐欺をして金を稼ぎ、そのことでついに逮捕されて刑務所にぶち込まれると、そこでフィリップ・モリスと運命的な出会いを果たし、裏で手をまわして同房となって親密な関係となり、先に出所すると弁護士であると身分を偽ってフィリップ・モリスの釈放手続きを進め、フィリップ・モリスが出所すると同棲してフィリップ・モリスを養うために経歴を偽ってとある会社に財務担当重役となってもぐり込み、なぜか信任を受けるといきなり退屈し始めて、会社が扱う医療費を勝手に投資にまわしてその利益によって私腹をこやし、それがばれてまた刑務所にぶち込まれると愛するフィリップ・モリスと会うために手段を尽くして脱獄を繰り返し、そのことでテキサス州政府が激しく手を焼いたので終身刑で現在もなお服役中という実話らしい。 ある事件の再現という範囲ではそれなりによくできているし、ジム・キャリーは体重を変えて熱演し、ユアン・マクレガーは受身の男をいかにもといった風情で演じているが、監督をしているのが『キャッツ&ドッグス』の脚本家コンビだから、ということになるのか、微妙に薄ら寒い。その寒さの理由はよくわからないが、視点の維持に失敗しているのと、台詞で説明しすぎているからであろうとさしあたりは疑っている。