2011年11月15日火曜日

わたしなりの発掘良品『ジェヴォーダンの獣』(2001)

ジェヴォーダンの獣(2001)
Le Pacte des loups
監督:クリストフ・ガンズ


18世紀フランスのいわゆる「ジェヴォーダンの野獣」に材を取っているけれど、いわゆるUMAものでは全然なくて、どちらかと言えばカンフー系のアクション映画なのである。ジェヴォーダンに怪物が出現して地元に迷惑をもたらしていると、博物学者であるフロンサック卿がパリから送り込まれてきて、という部分にしてからがすでに説明の順序が逆転していて、ミッションが明かされる前にまず登場して女装した兵士たちと一戦やらかすくらいなので、つまり断固としてアクション映画なので、未知動物の奥ゆかしい話は少しでも期待してはいけないということになる(いちおう少しだけ期待していた)。そして話の舞台になっているジェヴォーダンも住人が田舎だ田舎だと主張する割には貴族はみな金持ちそうにみえるし、パリにだってないような娼館があったりするし、時代考証の方も見たところでは確信犯で19世紀に寄せてある。「ジェヴォーダン」が言い訳程度なら「18世紀」も言い訳程度で、そうやってやりたい放題の「歴史アクション映画」のワンダーランドをでっち上げると、そこへフレンチ・インディアン戦争の勇者、モホーク族の最後の一人、アフリカ帰りの怪人、反啓蒙主義者、謀反人、法王庁のスパイ、ドイツ系ロマとおぼしき戦闘員の大集団、ミステリアスな白狼、謎の野獣などを放り込んで派手にドタバタとやらせているのである。後半の人物関係と謎解きの部分に少々唐突さがあることは否定できないが(どうして、そんなことが、ジェヴォーダンで)、恋愛だの死と再生だの不要のように見えても思いつく要素は片端から盛り込んでいった気力と、盛り込んだものをとにもかくにも消化し尽くした体力は評価されなければならないだろう。美術はバンドデシネの系統でまとめられていて、劇中に登場するスケッチのたぐいにもその傾向がはっきりと現われている。アクション・シーンは徹底的にモダンで、露骨なワイヤーワークこそないものの香港映画を思わせる。ギミックもすごい。ちなみに「野獣」はジム・ヘンソンの工房製で、いかにも野獣的な目玉が印象的であった。 
ジェヴォーダンの獣 ― スタンダード・エディション [DVD]

Tetsuya Sato