2011年11月5日土曜日

わたしなりの発掘良品『マチネー/土曜の午後はキッスで始まる』(1993)

マチネー/土曜の午後はキッスで始まる(1993)
Matinee
監督:ジョー・ダンテ


キューバ危機の真っ最中に、キューバからいくらも離れていないフロリダ州キーウエストの町へ映画製作者ローレンス・ウールジーが女優を連れてやってくる。新作SF映画『マント』の特別上映をするためであったが、このウールジーというのはウィリアム・キャッスル系の怪しい興行師で、劇場を揺すったり客席の座面に怪しい装置を仕掛けて客のお尻を刺激したりすることに情熱を傾けていた。そして町の学校ではローティーンの子供たちが映画オタクをしたり恋をしたりしていて、土曜日の午後のマチネーに『マント』を見にやってくるわけである。劇中映画『マント』は強いて言えば『放射能X』と『戦慄! プルトニウム人間』を足して2で割ったような設定になっていて、蟻に噛まれた人間が放射能の影響で蟻人間になり、しかも巨大化してしまうという実にいいかげんな内容なのである。どのくらいいいかげんかと言うと、放射能の影響も核実験などというたいそうなものではなくて、歯医者のレントゲン撮影が原因というくらいにいいかげんなのである。そんなことでいちいち巨大化したらたまらないと思うわけだけど、とにかく巨大化してしまう。で、この低予算モノクロ映画『マント』がたいそう愛情を込めて作られていて、そのサントラがまた往年のユニバーサル・ホラーかかりっぱなしという状態で、何かというと『宇宙水爆戦』の触りがまがまがしく吹き鳴らされるし、そうかと思うと『大アマゾンの半魚人』が流れ出す、しかも画面を見るとそこでは蟻人間がブロンド女を、という具合で、これはもう嬉しくない筈がない。そしてこの映画が立派なのはそれでも話がオタクの回顧映画で終わっていないところで、テクニカラーというテクノロジーを通じて60年初頭を照射し、そこからこの時代のそれなりにグロテスクな態様を読み取ると同時に、キューバ危機とそれと取り巻く心理的な諸状況をベトナム戦争に対する予言的な経験として再認識させようとする試みがおこなわれているのである。ジョン・グッドマン扮する興行師ローレンス・ウールジーに与えられた役目は結論をそこへ持ち込むための狂言回しであり、その話に耳を傾ける子供たちが、実はこの後すぐに徴兵される世代に位置しているところまでを考えると、コメディのように見えるこの映画には信じられないほど悲劇的な表象が幾重にも差し込まれていることがわかるのである。傑作。ジョー・ダンテはもっと評価されるべき監督の一人であろう。 
マチネー/土曜の午後はキッスで始まる [DVD]

Tetsuya Sato