2015年2月28日土曜日

Plan-B/ 内乱

S3-E22
内乱
 危険な政治思想の持ち主が世界中から集まってきて、危険な政治思想を旗印にした新しい国家を作り上げた。危険な政治思想を掲げる新しい政府は危険な政治思想を危険な政治思想だと考える反動的で抑圧的な国民に包囲されていた。危険な政治思想を掲げる新しい政府は危険な政治思想を掲げる新しい政府を守るために、危険な政治思想を危険な政治思想だと考えることや、危険な政治思想を危険な政治思想だと唱えることを禁止した。危険な政治思想を危険な政治思想だと考える国民は危険な政治思想を掲げる新しい政府が反動的で抑圧的な政策を選択したと考えて、危険な政治思想を掲げる新しい政府に抵抗した。危険な政治思想を掲げる新しい政府は危険な政治思想を危険な政治思想だと考える国民の態度を反革命と呼んで糾弾した。

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2015年2月27日金曜日

Plan-B/ 革命

S3-E21
革命
 彼は危険な政治思想の持ち主だった。彼が生まれた国では危険な政治思想を持つことが許されていた。危険な政治思想を公に唱えることも許されていた。しかし危険な政治史思想を実践することは禁じられていたので、彼は心に不満を抱えて遠くの国へ出かけていった。そこでは危険な政治思想を持つことが禁止されていた。危険な政治思想を唱えることも禁止されていた。しかし実践することは許されていたので、危険な政治思想の持ち主が世界中から集まってきて、危険な政治思想を持つことや危険な政治思想を唱えることを認めない、反動的で抑圧的な古い政府を覆した。彼らは自分たちの行為を革命と呼んだ。

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2015年2月26日木曜日

Plan-B/ 遊戯

S3-E20
遊戯
 その国は生産基盤のほとんどを国外に追い出していた。中間層が完全に消滅していたので、その国には国外の生産拠点から利益を受け取って優雅に暮らす富裕層と、生産基盤を失って苦労して暮らす貧困層だけが残されていた。そして人口の大半を占める貧困層は人口の五パーセントに満たない富裕層に対して常に怒りを感じていたので、富裕層は貧困層の怒りを和らげるために年に一度、盛大なゲームをおこなっていた。そのゲームにはあれやこれやのルールがあると一応の説明はあったものの、実際にゲームが始まると貧困階層から選ばれた若い男女がルール無用で殺し合った。主催者側は貧困層に希望を与えるためと称して殺し合いを煽り立て、わずかに残ったルールも主催者側の都合で変更された。大声で何度も何度もゲームだと言い張っても、そんなものはゲームではない。ひとをばかにするにもほどがある。それともひとをばかにしていることがわからないほど、やつらは頭が悪いのか。貧困層は怒りを爆発させて富裕層を滅ぼした。

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2015年2月25日水曜日

Plan-B/ 薄暮

S3-E19
薄暮
 ぼ、ぼくは吸血鬼だ。だが、古い掟によって縛られているわけではない。ぼくはたしかに吸血鬼だけど、血を吸わないという選択ができる。つまり吸血鬼にも選択ができると考えている、そういう開明的なグループの一員だ。その一方で、吸血鬼には選択はできないと考えている連中もいる。ぼくらはやつらを知的な面で劣っていると考えているけど、やつらはぼくらを自然に反していると考えている。ぼくはもう、百年も生きている。百年も生きていればそこそこに落ち着いて、利口になって、何事に対しても冷静にふるまうことができてもおかしくないと思うけど、ぼくはここのところ落ち着きを失っている。それもちょっとやそっとではなくて、すっかり落ち着きを失っている。どうやら恋をしているようだ。人間の女の子だ。彼女のことを考えると死んでいるはずの心臓が高鳴って、冷たいはずの血が熱くなる。気がつくと牙が飛び出している。ぼくは自分が選択のできる吸血鬼であることに感謝している。選択のできないやつらなら、もうとっくの昔に彼女の喉にむしゃぶりついていたことだろう。そうすることが自然だと言われればたしかにそうだという気もするし、そのほうがいろいろと楽なのではないかという気がするのも事実だけど、でもぼくには選択ができる。もう少し頑張ってみよう。

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2015年2月24日火曜日

Plan-B/ 組織

S3-E18
組織
 男は兄を殺されて怒っていた。兄を殺されたことで自分が受けた損害を計算して、そこに精神的な被害に基づく慰謝料を加えて組織に賠償を要求した。もちろん組織は払おうとしない。男は古い仲間を呼び寄せて組織に宣戦を布告した。組織の拠点を次々に襲って組織の上がりを奪っていった。組織は男を片付けるために罠を仕掛けた。しかし男は切り抜けて組織の本拠地に乗り込んでいく。組織のボスが殺された。組織の殺し屋たちは雇い主を失ったことに気がついて、男の前で銃を収めた。

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2015年2月23日月曜日

Plan-B/ 絵

S3-E17
 連続殺人犯を追う刑事のもとに新たな情報が寄せられた。殺人事件が起きるたびに、美術館の絵が変わっていくという。刑事は鼻で笑ったが、知らせてきたのが一般市民ではなくて、美術館のキュレーターだと聞いて考えを変えた。相手が学位を持つ人間なら、一応話を聞いておく必要がある。刑事は美術館を訪れて驚いた。これまでの事件の犠牲者が発見された姿をそのまま写して一枚の絵に収まっていた。しかも警察の発表から省かれた細部までが再現されている。犯人でなければ描くことはできないはずだ。夜が訪れ、美術館から人影が消える。刑事は絵の前に立って美貌のキュレーターを詰問する。困惑するキュレーターの背後に絵が迫り、時計が音を立てて真夜中を告げる。絵のなかで嵐を運ぶ雲のように色が動いた。噴き上がる色をかき分けて、斧を持った男が現われた。

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2015年2月22日日曜日

Plan-B/ 生物

S3-E16
生物
 巨大な物体が地球に向かって近づいていた。ほぼ完全な球体をしていて、その直径は一万キロメートルを超えていた。いくつもの探査機が飛んで、その物体を観測した。物体の質量は予想よりもはるかに小さかった。密度はさらに小さかった。科学者たちはこの物体がおもに水でできていると考えた。わずかではあるが、物体は熱を放っていた。物体の表面はほぼ均等に摂氏五十度を保っていた。科学者たちは首をひねった。首をひねっているあいだに、それがいよいよ近づいてきた。夜になると月の隣にそれがいるのを見ることができた。それはさらに接近した。いくらもしないで真昼の空を覆い尽くした。人々が見上げる前で、それは大きな口を開けた。唇がまくれ上がり、歯列矯正器をつけた歯が現われた。それは舌なめずりをしながら地球にしゃぶりついて、生きとし生けるものを食い尽くした。

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2015年2月21日土曜日

Plan-B/ 石

S3-E15
 男は石を集めていた。週末を待って近くの山や川へ出かけていって、コレクションにふさわしい形の石を探した。気に入った石が見つかるとそれをポケットに入れて持ち帰って、自分の部屋の小さな陳列棚に並べていた。男はその日も石を一つ持ち帰って、それをいつものように棚に入れた。そして翌日の朝、男は棚の前に立って驚いた。一つを残して、集めた石が消えていた。たった一つ残った石には、見覚えがなかった。男は近所で適当な石を探してきて、それを残った石の隣に置いた。翌日の朝まで待って様子を見ると、近所で見つけた石は消えていて、もう一つの石は形が変わっていた。前夜までは平たい虫のような形をしていたが、それが少しばかり大きくなって、うずくまった獣のような形になっていた。気がついたときには、男は石のために石を探すようになっていた。棚のなかの石は次第に大きくなっていった。形はひとの姿に近づいていった。そのうちに棚には収まらないほどの大きさになり、男は石に自分の寝台を明け渡した。寝台の上に移された石は、間もなくそこで産声を上げた。

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2015年2月20日金曜日

Plan-B/ 審判

S3-E14
審判
 遂に裁きの日が訪れた。腕に腕章をつけた男たちが折り畳み式の机と椅子を広場に運び、人々が机の前に列を作った。死者たちも起き上がって机の前に列を作った。腕章をつけた男たちは一人ひとりの書類を調べて、どれもが同じように見える白いカードを手渡した。カードを受け取った人々は列を作って先へ進み、そこで腕章をつけた別の男にカードを渡した。男は警棒を持っていて、渡されたカードを見ながら人々を右と左に振り分けた。右へ進むと、その先には有蓋トラックが待っていた。左へ進むと、その先には貨物列車が待っていた。右へ進んだ人々も、左へ進んだ人々も、どちらも等しく不安を感じた。これからなにが始まるのか。人々は真相を求めて腕章をつけた男たちに詰め寄った。しかし、知っているはずでは。腕章をつけた男たちはそう答えた。

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2015年2月19日木曜日

Plan-B/ 食事

S3-E13
食事
 少年はそれにかぶりついた。古びたスポンジのような歯触りがした。それにはいくらかのカロリーがあり、いくらかの栄養素も添加されていたが、味はついていなかった。飲み下すのに苦労しながら、少年はそれでもそれを食べ尽くした。腹が少しばかり満たされた。だが飢餓感はかえって強くなった。少年は食べる物を求めて暗い路地から這い出した。道では大人たちが一本の煙草を回しながら待っていた。大人たちは少年を捕らえ、盗みを働いた罰として拳で散々に打ち据えた。

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2015年2月18日水曜日

Plan-B/ 現象

S3-E12
現象
 超常現象の研究者たちが打ち捨てられた屋敷を訪れた。ここには幽霊がいるという。研究者たちは部屋のあちらこちらにさまざまな計測装置を設置して霊媒実験に取りかかった。霊媒がトランス状態に入ると計測装置が動き始めた。空気中のオゾンの濃度が高くなり、エクトプラズムが発生する。ポルターガイスト現象が始まった。研究者の一人が飛んできた皿で傷を負い、別の一人は割れた電球の破片で傷を負った。実験が終わり、研究者たちは有意義な時間を過ごせたことを喜びながら幽霊屋敷をあとにした。

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2015年2月17日火曜日

Plan-B/ 伝説

S3-E11
伝説
 ただ一人生き残ったことで、男はただの男から伝説になった。伝説を伝えるのは人ではなくて、人を滅ぼした怪物たちだ。

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2015年2月16日月曜日

Plan-B/ 魚

S3-E10
 海が穢されて魚が死んだ。死んだ魚が腹を出して海面に浮かび、波に送られて浜辺を浸した。人々は浜辺に集まって、そして果てることなく踊り続けた。

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2015年2月15日日曜日

Plan-B/ 花

S3-E09
 疑いを受けた娘に石が飛んだ。娘は村から逃げ出した。森に入って泉のほとりに腰を下ろして、涙に濡れた顔を洗った。どこからか村の男たちの声が聞こえてくる。しきりと呼び交わしながら娘を探して、どうやら次第に近づいてくる。娘の目から涙があふれた。あふれた涙が頬を伝って泉に落ちた。泉の水に映し出された娘の姿が変わっていく。腕は葉になり、首も胴も茎になり、頭は白い花弁をめぐらせた花になる。村の男たちが現われた。怒号を放って白い花の前を駆け抜けていった。

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2015年2月14日土曜日

マダム・イン・ニューヨーク

マダム・イン・ニューヨーク
English Vinglish
2012年 インド 134分
監督:ガウリ・シンデー

二児の母親で専業主婦のシャシはお菓子作りが得意で近所のひとがお金を払って買うほどだったが、世慣れていない上に英語もできないということで夫からも思春期にさしかかった娘からもひどく軽んじられていたが、ニューヨークにいる姉の長女が結婚することになって、結婚式の手伝いのために一人でアメリカへ飛ぶことになり、実際のところ世慣れていない上に自信がないせいもあって少しばかり恐ろしい思いをしたあとで、ふと目に入った英会話学校の広告に引き寄せられて、お菓子を売ってためたお金で英会話学校に入校して、そこで多国籍の友達を得ながらモンタージュで英語に強くなって、次第に自信を取り戻していく。 
夫や子供たちのことさらな鈍さが少々やりすぎではないか、と思えるところもあったが、ヒロインが自覚として古めかしい主婦であったとすると、必要な対照性だったのかもしれない。主演のシュリデヴィが非常に魅力的。素直に構成された正直な映画で、テンポも速いし見ていて気持ちがいい。しかもいちおう、みんなで踊る。 


Tetsuya Sato

2015年2月13日金曜日

Plan-B/ 巣

S3-E08
 鹿を追って森に入ったハンターが潅木の茂みの奥に巣を見つけた。鹿はそこにいた。樹液のようなものに絡め取られて、横たわってもがいていた。隣になにかの死骸が転がっていた。腐敗が進んで原型をとどめていなかったが、それは人間のように見えた。藪の向こうで枯れ葉を踏むような音がした。ハンターは銃を構えて撃鉄を引いた。それが姿を現わした。巨大な昆虫の化け物が牙を振り動かしながらハンターに向かって飛びかかった。

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2015年2月12日木曜日

Plan-B/ 科学

S3-E07
科学
 科学者たちが強力ななにかを開発した。そのなにかを使えばなにかをなにかすることができるに違いない。科学者たちはそう考えて実験を始めた。科学者たちの予想通り、なにかはなにかによってなにかされ始める。しかしそのなにかはなにかではなくて、まったく異なるなにかだった。なにかがなにかされることによってなにかが起こり、なにかが起こったことで予想外のなにかも始まるので、科学者たちは科学の力を信じて慢心に陥っていたことに気がつくが、すべては手遅れになっている。

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2015年2月11日水曜日

Plan-B/ 彼方

S3-E06
彼方
 科学者たちが強力な磁場の発生器を開発した。これを使って空間を極限まで歪めれば、異次元に通じる穴を開けることができるだろう。それによってこちらの世界がどのような影響を受けるのかはまったく予測できないし、それをすることにどのくらいの価値があるのかを説明することもできないが、少なくともやってみる価値はある、と科学者たちは考えた。実験が始まった。何台もの強力な発電機から強力な電力を受け取って、強力な磁場の発生器が強力な磁場を発生させた。空間が歪み、異次元に通じる穴が開いた。開いた穴から忘れ去られた古代の神々が躍り出て、笛の音に合わせて踊り始めた。

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2015年2月10日火曜日

Plan-B/ 偏見

S3-E05
偏見
 田舎紳士の娘は自分の当初の判断にいくらかの誤りがあったことを認めようという気持ちになっていた。お金持ちで、しかも若くてハンサムなあの紳士は相変わらずどこか高慢な態度でふるまっていたが、それはもしかしたらあの紳士がこちらが考えている以上に恥ずかしがり屋で、いくらか朴念仁じみたところがあるからなのではないだろうか。だから同じ世代の男性が女性の前で見せるような、言わば如才のなさを発揮することができないのではないだろうか。礼儀正しさでは誰にも負けることがなかったし、親切に思えることもときにはあった。事実から言えば、かなり親切だということは認めなければならないだろう。そして驚いたことに何度かは、心が通じ合っているように思える瞬間があった。それはすばらしい瞬間だった。しかし瞬間は瞬間に過ぎなかったので、次の瞬間にはもう心がすれ違っていた。喜びに続いて味わう虚しさには、どうにも耐えがたいものがあった。あの高慢さが、と彼女は自分に言い聞かせた。あのかたくなな高慢さが、と彼女は自分に繰り返した。あの瞬間を瞬間で終わらせてしまうのだ。これは座視できない、と誇り高い娘は憤った。

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2015年2月9日月曜日

Plan-B/ 高慢

S3-E04
高慢
 田舎紳士の娘には父親の財産を相続する権利が与えられていなかった。だから路頭に迷う危険から逃れるために、なんとしても結婚しなければならなかった。相手を選ぶ余裕など、ほとんどないに等しかったが、そうは言っても選べることなら選びたい。収入があっても、坊主の嫁にはなりたくなかった。そしてその点では、しばらく前にお屋敷を買って村に引っ越してきたあのお金持ちなら、若くてハンサムで、結婚相手としてまったく申し分がないように思えた。家族の誰もがそう考えたが、彼女の見立てではこの紳士には少しばかり問題があった。この紳士は彼女の前ではひどく高慢な態度でふるまった。明らかに彼女のことを見下していた。これは座視できない、と誇り高い娘は憤った。

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2015年2月8日日曜日

ジャージー・ボーイズ

ジャージー・ボーイズ
Jersey Boys
2014年 アメリカ 134分
監督:クリント・イーストウッド

フランキー・ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤングとボブ・ゴーディオ役のエリック・バーゲン、ニック・マッシ役のマイケル・ロメンダはミュージカルからそのまま配役を引き継いでいるらしい。トミー役のヴィンセント・ピアッツァも含め、主演の四人が実に達者であった。ウィキペディアでフォー・シーズンズの項を見ると映画よりもはるかに複雑な軌跡が見えてくるが、脚本は40年近い歴史をほどよく単純化して、飲み込みやすく希釈している。各人のモノローグがどこからスタートするのか、という関心で引き寄せる手口はなかなかにうまい。音楽の使い方も含めて演出はきわめてバランスがよくて、臨機応変のカメラが登場人物の情動をさっくりとすくって、それを観客の情動に品よく投げかけながら時間を無駄にしないで進んでいく。最後の登場人物総出演によるダンスを眺めていると、非常に成功したスタンリー・ドーネンの映画を見ているような気分になる。そして監督がクリント・イーストウッドだということを思い出すと、情けないことにこういう台詞しか出てこない。いやあ、ご隠居はいつもながら趣味がいい。 


Tetsuya Sato

2015年2月7日土曜日

Plan-B/ 実験

S3-E03
実験
 科学者たちが強力な磁場の発生器を開発した。これを軍艦に積み込んで軍艦を強力な磁場で包み込めば、軍艦を敵の目から隠すことができるだろう。実験の準備が始まって、磁場の発生器が駆逐艦に積み込まれた。もちろん発生器だけを積み込んでも磁場を発生させることはできなかった。発生器に電力を供給するために強力な発電機が何台も積み込まれた。しかし発電機だけを積み込んでも電力を発生させることはできなかった。何台もの発電機を動かすためには大量の燃料を必要とした。駆逐艦の艦内はかなり手狭だったので、科学者たちは燃料タンクを甲板に作った。給油パイプが短くて済むので発電機も甲板に置くことにした。燃料タンクのバルブが開かれ、発電機が凄まじい唸りを上げ、磁場の発生器から怪しい光が放たれた。実験が始まった。ところがそのとき、風が吹いた。それほど強い風ではなかったが、駆逐艦は風の力を真横に受けて傾いた。実験のために乗員や補給品の大半を下ろしたせいで駆逐艦は異常に軽くなっていた。甲板の上に色々と物を置いたせいで風圧側面積が異常に大きくなっていた。科学者たちの無法な改造のせいで重量重心が異常に高いところに移っていた。いくつもの異常が重なったせいで、駆逐艦は復元力を失っていた。そのまま傾き続けて転覆して、科学者たちを連れて海に沈んだ。

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2015年2月6日金曜日

Plan-B/ 蛮族

S3-E02
蛮族
 海を越えて蛮族の群れが襲ってきた。猛り狂った蛮族が剣を抜き、槍を振り、雄叫びを放って小さな町になだれ込んだ。家々に火が放たれ、男は殺され、女は犯され、子供は足を掴まれて頭を壁で叩き割られた。町は焼け落ち、財宝を奪われ、生き残った者は奴隷にされた。蛮族の群れが去ったあと、焼け跡から一人の少年が這い出した。家族の死体にすがってひとしきり泣いて、涙を拭って立ち上がって、そこで自分の心が死んでいることに気がついた。少年は父親の剣を拾い上げると蛮族どもへの復讐を誓った。

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2015年2月5日木曜日

Plan-B/ 都市

S3-E01
都市
 巨大な都市に巨大な怪獣が襲いかかった。高速道路が踏み潰され、尻尾の一振りで高いビルがなぎ倒された。戦車が、戦闘機が、迎撃のために出動した。だが砲弾もミサイルも効果がない。戦車は端から踏み潰され、戦闘機は怪獣の咆哮を浴びて砕け散る。科学者の出番だ。人類の平和のために科学の力を結集するときだ。だが科学者にいつもアイデアがあるとは限らない。人々は悲鳴を上げて逃げ惑い、科学者たちは丘に立って、虚しく空を見上げて腕組みをした。

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2015年2月4日水曜日

Plan-B/ 批評

S2-E33
批評
 この作品は評価できない。実を言えば作品とすら言えない。この作家はわたしの思考に接続しようという努力をまったくしていない。わたしがこれまでの論考で一貫しておこなってきた主張がまったく入れられていない。これは作品ではない。ばかげた寝言以外のなにかではない。作家は事実を認める必要がある。作家には思考能力がないので、批評家が作家の思考を代行する。それが批評にほかならない。批評家の使命は作家に対して批評家の優越性を示すことにある。作家に対する批評家の優越性とは批評家の信念であり、宗教である。

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2015年2月3日火曜日

Plan-B/ 処女

S2-E32
処女
 怪物は処女の生き血を求めていた。実際のところを言えば、どうしても処女でなけれなならないということはなかったし、相手が女でなければならないということもなかったし、実は動物を相手になんとか用を足すこともできなくはなかったが、怪物は処女にこだわっていた。怪物の仲間もまた、処女にこだわっていた。怪物はまだ、生き血をすすったことが一度もなかった。怪物の仲間もまた、生き血をすすったことが一度もなかった。最初に血をすする相手はなんとしても処女でなければならないとつまらないことにこだわって、幻想を果てしなく肥大させて、普通であれば掴めた筈の一切の機会から見放されて怒っていた。怒りのあまり、処女に憎悪を募らせて自分の棺に引きこもった。

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2015年2月2日月曜日

Plan-B/ 入江

S2-E31
入江
 探検隊が密林の奥へと分け入って、人跡未踏の入江を発見した。そこには太古の生物相がそのまま保存されていた。入江の畔では未知の植物が葉を垂らし、未知の昆虫が地面を這い、水中では未知の魚類が泳いでいた。隊員たちはこの大発見に興奮して、さらに調べるためにそこにキャンプを張ることにした。翌日から本格的な調査に取りかかって、写真を撮り、サンプルを採取して一日を終え、日没の間際に入江を泳ぐ黒い影を目撃した。それは驚くほどの速さで入江を横切ると探検隊の前に姿を現わし、鋭い爪で隊員の一人に傷を負わせてすぐに水に飛び込んだ。残りの隊員はいっせいに銃を構えて、水中の影に向かって発砲した。怪物は銃撃を受けて腹を上に浮かび上がり、それから入江の底に沈んでいった。この偉大な発見を怪物ごときに邪魔をされてはならなかった。

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