2014年2月28日金曜日

ブロークバック・マウンテン

ブロークバック・マウンテン
Brokeback Mountain
2005年 アメリカ 134分
監督:アン・リー

ワイオミングの山奥でヒツジ番をしている二人の若者(ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール)が恋仲になり、山を下り、それぞれに結婚し、子供を作り、家庭を営んでいくあいだも秘められた関係を守っていく。
話は1963年に始まり、ヒース・レジャー扮する一方の娘が結婚まで、タイムスパンは20年前後で終わりは80年代に入っている。
『ハルク』や後の『ライフ・オブ・パイ』と同様、演出のトーンに一貫性があり、手抜きのないこまやかさが見えるが、不自然なほどのウェザリングの乏しさがすでに序盤から気になった。主人公二人は長期間の野外生活を送っているにもかかわらず、シャツはぱりっとしたままだし、汚れてもいないし、ジャケットの襟もきれいなままだし、袖に染みひとつついていない。そしてよく見ると手はきれいなままだし、顔には無精ヒゲものびてこない。たしかにヒゲを剃っているシーンが一度挿入されているが、どこまでも清潔な感じ、というのが少々うそっぽい。そのせいか、どこか現実感が希薄で、見た目に咀嚼しやすいように作られているような気がしてならなかった。同じように男を消費する映画で、同じく山のなかで男どもが得体の知れないことを、というのであれば、ひねりが利いていた『ラビナス』の勝ちではあるまいか。 

Tetsuya Sato

2014年2月27日木曜日

ヤング≒アダルト

ヤング≒アダルト
Young Adult
2011年 アメリカ 94分
監督:ジェイソン・ライトマン

学園もののヤング・アダルト小説(規格つき)のゴーストライターをしている37歳のメイビス・ゲイリーはミネアポリスのアパートで原稿を書く、酔っぱらう、突っ伏して寝る、ひどく粗略なしかたで飼い犬にごはんをやる、といった具合に満たされない生活を送っていたが、そこへ高校時代の元恋人バディ・スレイドから赤ん坊が生まれたことを知らせるメールが届き、始めは意図を怪しむものの、衝動に負けて寝ているときに着ていたHELLO KITTYのTシャツのまま、荷造りをすると飼い犬を抱えて生まれ故郷のマーキュリーの町へ戻り、バディ・スレイドと接触しようとしていると同じく同窓のマット・フリーハウフとたまたま出会い、そのマット・フリーハウフに向かって自分はバディ・スレイドと関係を修復するつもりであると宣言し、それを聞いたマット・フリーハウフはバディ・スレイドには妻子があると当たり前のことを指摘するが、メイビス・ゲイリーはすでに心を幻想に浸しているので突撃する。 
高校時代の幻影をいまだに引きずっているメイビス・ゲイリーがシャーリーズ・セロンで、そのいわゆる自己チューぶり、元彼の女房に向ける憎しみに満ちた視線など、壊れ方が痛ましい。ジェイソン・ライトマンはヒロインを確実な手つきで描写し、脚本は確実にキャラクターを配置してヒロインとその状況を包囲していく。ほぼ全編にわたって不可解な緊張が支配し、ヒロインが最終的に到達する(最初から到達していた、と言うべきかもしれないが)心理的な破綻はほとんどホラーを見ているようであった。やはりジェイソン・ライトマンはうまいと思う。 

Tetsuya Sato

2014年2月26日水曜日

ホワイトアウト

ホワイトアウト
Whiteout
2012年 アメリカ/カナダ/フランス/トルコ 101分
監督:ドミニク・セナ

1957年、ソ連の輸送機が南極の極点付近で墜落し、それから現代、冬を控えたアムンゼン・スコット基地に勤務する連邦保安官キャリー・ステッコは氷上で死体が発見されたという通報を受けて現地へ飛び、回収した死体を検死したところ他殺の可能性が浮かび上がり、犠牲者が働いていたキャンプに連絡を取るとそこからの応答はなく、ただそこにいた一人が無人のボストーク基地から連絡してきて電話では話せないというようなことを言うので今度はボストーク基地まで出かけていくといきなり何者かに襲われ、失神していると国連の捜査官だと名乗る男が現われ、この男を加えてパイロットとともに問題のキャンプへ飛んでいって、そこで見つけた手がかりを頼りに氷原を調べてみると氷の下数メートルに埋まっているソ連の輸送機が見つかり、しかも誰かがすでに発掘をしていてなにやら重要な物が持ち出されている。 
キャリー・ステッコがケイト・ベッキンセイル、国連の捜査官が『ザ・スピリット』のガブリエル・マクト、基地の医師がトム・スケリット。
どうにもプロットがあほらしいし展開が必要以上に説明的だし、加えて微妙に見かけ倒しな仕上がりなのがいかにもドミニク・セナという感じではあるものの、南極の寒さと風のすさまじさはなかなかの仕上がりだし、冒頭のアントノフ輸送機の墜落シーン、アムンゼン・スコット基地の全景と内観、各種航空機、雪上車といった南極メカが地味ながらもきびきびと活躍するし、あほうな展開ながら登場人物もいちおうきびきびとしていて格別のだれ場というだれ場はないし、とりあえずケイト・ベッキンセイルを見せておけばなんとかなる、という確信もどこかにあったようで、登場するやいなやシャワーシーンを披露したりする。というわけでケイト・ベッキンセイル鑑賞映画としては十分に機能していると思う。 


Tetsuya Sato

2014年2月25日火曜日

フラクチャー

フラクチャー
Fracture
2007年 アメリカ/ドイツ 113分
監督:グレゴリー・ホブリット

自前の研究所で航空工学の研究をしているとおぼしきクロフォード氏は妻の浮気を知って早めに帰宅して妻が帰ってきたところで妻の後頭部をいきなりピストルで撃ち抜き、銃声を聞いた庭師が警察に通報して出動してきた警官隊がクロフォード氏の自宅を包囲し、現場に到着したナナリー警部補が交渉役としてクロフォード氏宅に入ったところ、床に倒れているクロフォード氏の妻が自分の浮気の相手であることに気がついて取り乱し、民間の弁護士事務所に転職が決まっているロサンゼルス検事局の検事ビーチャム氏はすでにクロフォード氏の自白調書があるということですぐにかたづくことを期待して事件を引き受けるが予審が始まるとクロフォード氏は自分で自分を弁護することを主張して公判の速やかな開始を要求し、クロフォード氏の逮捕と事情聴取にクロフォード氏の妻の浮気相手であるナナリー警部補がいたことから自白自体の有効性を覆し、さらに肝心の凶器には発砲した痕跡がなく、クロフォード氏自身からも硝煙反応が得られないということで窮地に陥ったビーチャム氏は凶器を探すために手を尽くし、昏睡状態で病院で眠るクロフォード氏の妻の覚醒に期待する。 
監督は『ジャスティス』のグレゴリー・ホブリット。絵はおおむねにおいてきれいだが、気取っているだけのように見えなくもない。検事を演じたライアン・ゴズリングは力演しているものの、クロフォード氏を演じたアンソニー・ホプキンスはレクター博士の劣化コピーのようにしか見えてこない。そもそもレクター博士の設定にしてからがいささか想像力に乏しいものであったが、クロフォード氏の正体の知れない凶悪さは常識的な人物造形から遠いところで唐突に発揮されるだけでまったく脈絡が感じられない。はいホプキンスさん、そこで凶悪な顔をしてください、というキューに反応しているだけであろう。脚本もあまり頭がよろしくない。 
Fracture [Blu-ray] [Import]
Tetsuya Sato

2014年2月24日月曜日

大統領暗殺

大統領暗殺
Death of a President
2006年 イギリス 93分
監督:ガブリエル・レンジ

2007年の10月にブッシュ大統領がシカゴでの講演直後に暗殺され、FBIはほとんど自動的に犯人をイスラム教徒のなかから捜し始め、テロリストとおぼしきシリア系の市民を近所で発見することに成功するといまや大統領となったチェイニーがものすごく興奮して早速シリアに喧嘩を売り、ところが捜査陣は結論を急いでいたことがあきらかになり、それでも政治的な状況は十分に熟成していたので間違いが正されることはない、というシニカルな話を現実のアーカイブ映像に架空の関係者の証言や架空のニュース映像を混ぜ込みながらドキュメンタリー風に仕上げている。
もし実際に暗殺があったらいかにも起こりそうな「対岸の火事」をまじめに想像してまじめに作った態度は評価すべきだが、洒落っ気も見せずにここまでまじめなにやられると、かえって趣味の悪さが目立つような気がしないでもない。 

Tetsuya Sato

2014年2月23日日曜日

ディアトロフ・インシデント

ディアトロフ・インシデント
The Dyatlov Pass Incident
2012年 アメリカ/イギリス/ロシア 100分
監督:レニー・ハーリン

どう見てもあまり優秀そうには見えない心理学専攻の学生が教授から与えられた課題で1959年のディアトロフ峠事件の謎を解明するために映画部の学生二人と同じ大学の自称登山家二人とともにロシアへ飛んで、ディアトロフ事件には強い関心を持っていると言いながらロシア語を一言も話せないのであくまでも英語で押し通し、交通手段を事前に確保しておかなかったので地元の善意に頼りながらなんとか雪山に入っていって、三日目に事件現場に到着すると放射線線量計が反応して、その反応を追っていくとなにやら怪しいドアがあり、深夜に爆音が聞こえて雪崩が起こり、信号弾を撃って救助を要請するとすぐさま現われた人影が発砲を始め、閉ざされたドアをくぐって中へ入るとそこは閉鎖された研究施設で、古びた資料の山からいわゆるひとつのフィラデルフィア計画の写真などが見つかって、察するところどうやらその昔テレポーテーションの実験をしていたらしい、ということがわかったあたりで部屋の隅から怪しい影が襲いかかる。 
いわゆるひとつのファウンドフッテージ風に仕上げられているけれど、あの結末からすると画像は発見できないような気がしてならない。仮に発見できるとしてもかなりかわった場所から、ということになるであろう。この手の映画としてはいちおうの水準に達しているものの、脚本がまずいのか、レニー・ハーリンの演出が例によって単調なせいなのか、両方ではないかという気がしてならないが、格別に面白い映画ではないし、ディアトロフ峠事件という魅力的な素材を適切に扱っているとも思えない、というか、そもそも関係あったのか。

2014年2月22日土曜日

バーニー/みんなが愛した殺人者

バーニー/みんなが愛した殺人者
Bernie
2011年 アメリカ 99分
監督:リチャード・リンクレイター

テキサス州東部のカーセージというナマズ料理が出る小さな町にバーニー・ティーディという葬儀学の準学位を持つ三十代の男が現われて葬儀社に就職して葬儀から遺体の処置から営業はもちろん遺族のフォローまで万遍なくこなし、しかも良心的で善意に満ちていて教会の活動や地域の活動にも積極的に参加して町の発展に尽くして、しかも俳優で演出家でよい歌い手でもあり、という具合なので、とにかく皆に愛されて暮らしていると、町一番の金持ちのニュージェント氏が亡くなり、生まれたときからばあさんだという噂があって、横柄で因業で、とにかく町一番の嫌われ者のマージョリー・ニュージェントが未亡人になるとバーニー・ティーディはどの未亡人にもそうするようにマージョリー・ニュージェントにも心を尽くし、そうしていると横柄で因業で町一番の嫌われ者のマージョリー・ニュージェントはバーニー・ティーディの存在に察するところ心を癒され、さながら恋人同士のようにふるまって、気がついてみるとバーニー・ティーディはマージョリー・ニュージェントの恋人兼執事兼使用人兼運転手のような存在になり、横柄で因業で、しかも嫉妬深くて占有欲の強いマージョリー・ニュージェントのふるまいにバーニー・ティーディは必死で耐えようとするものの、どうやらある瞬間に限度を超えてアルマジロを撃つためのライフルを取ってマージョリー・ニュージェントを殺害、そのまま九か月間、マージョリー・ニュージェントの金を使ってカーセージの人びとにさまざまな善意をほどこすが、マージョリー・ニュージェントの不在に疑問を抱いた親族が家に踏み込んで死体を発見、逮捕されたバーニー・ティーディは涙ながらに犯行を自白し、町の人びとはバーニー・ティーディの行為に驚きながらもこれはむしろマージョリー・ニュージェントの自業自得であってバーニー・ティーディにはどうしたって罪はないと考えたので、地元で裁判をおこなって被告がなんとなく無罪になる可能性が高いと考えた州政府はカーセージの地方検事の発案にしたがって裁判所を変更する。 
度を超えた善人ぶりが微妙に化け物じみているバーニー・ティーディがジャック・ブラック、不思議なコケットリーを発揮するニュージェント夫人がシャーリー・マクレーン、見るからに頭の軽い地方検事がマシュー・マコノヒー。
監督がリチャード・リンクレイターなのでどう転んでもはずれはないだろうと思って見始めたら大当たりだで、ジャック・ブラックの使い方がさすがにうまいし、シャーリー・マクレーンののりのりの演技も見ごたえがあるし、マシュー・マコノヒーは出番ごとに場をさらう。実話の映画化ということで、実験的な手法を恐れないこの監督は全体を一本のプロットとして構築することよりも多声性を帯びたセミドキュメンタリーで構成することを選んで多数のインタビューを交える構成を採用しているが、そのあたりの切り替えのリズムも心地よくて丁寧な仕事ぶりに感心する。最後に地元のおじさんが披露するカントリーソング『バーニー、おまえなにをしでかした』はなかなかの傑作なのであった。 


Tetsuya Sato

2014年2月21日金曜日

フライボーイズ

フライボーイズ
Flyboys
2006年  フランス・アメリカ 138分
監督:トニー・ビル

第一次大戦下、アメリカの若者が義勇兵としてフランスを訪れ、ラファイエット飛行中隊で戦闘機のパイロットとして訓練を受け、やがて初陣を向かえ、戦闘を重ね、仲間を失い、合間にはジェームズ・フランコ扮する主人公がフランス娘と恋をする。
演出はおおむねそつがないが、かと言って格別の魅力もない。義勇兵が乗るのがニューポール17、ドイツ側はフォッカーDr.I。空中衝突をしたり、両軍の塹壕の中間に墜落したり、といったお約束の場面から、序盤の訓練シーンとか、ゴータ爆撃機が空中で油を注しているシーンとか、いろいろと珍しい光景が登場するが、航空機の描写は全体に量感に欠け、空戦には空間的な広がりがない。量感について言えばツェッペリンとハンドレペイジに顕著であった。こちらの勝手な期待に反して、それほど航空機ににはこだわっていない、という印象がある。というか、『地獄の天使』のようなこだわり方はなかなかできないものなのかもしれない。

フライボーイズ プレミアム・エディション [DVD]
Tetsuya Sato

2014年2月20日木曜日

ブルー・マックス

ブルー・マックス

The Blue Max
1966年 アメリカ 154分
監督:ジョン・ギラーミン

1918年の西部戦線。歩兵部隊の伍長ブルーノ・シュターヘルは塹壕に横たわって上空を横切る戦闘機を見上げていたが、やがて一念発起してパイロットとなり、中尉として航空部隊に配属される。シュターヘルの野望はブルーマックス勲章を得ることになり、そのためには敵機を二十機撃墜しなければならなかったが、そういう余裕のない精神状態なので貴族出が多い同僚パイロットとの折り合いが悪い。それでもがめつく撃墜数を稼いでいくと、軍上層部ではそのがめつさが勇気の証として宣伝材料に使えると判断し、シュターヘルに肩入れしていく。というわけでシュターヘルは庶民出の英雄となり、間もなくブルーマックスを手にするが、結局はそのがめつさが災いとなる。
多数の復元機を投入した空戦映画の大作である。地上戦の場面、銃後の場面などもなかなかにそつがなく作られていて、戦争映画としてのポイントは高い。ジェイムズ・メイスンの将軍、ジェレミー・ケンプの貴族出のパイロットなどはそれなりの風格を備えているが、主役のジョージ・ペパードは明らかにミスキャストで(そもそもドイツ人に見えないのである)、その上に魅力を欠いている。これがこの作品の最大の瑕疵であろう。

Tetsuya Sato

2014年2月19日水曜日

レッド・バロン(2008)

レッド・バロン
Der rote Baron
2008年 ドイツ/イギリス 129分
監督:ニコライ・ミュラーショ

リヒトホーフェンがすでにエースパイロットの地位にある1916年から国家的な英雄に祭り上げられて戦死する1918年まで。
木製モノコック構造の継ぎ目もあざやかな無塗装のアルバトロスD.V.というのはなかなかに珍しいし、西部戦線を鳥瞰する映像や空戦のシーンなどはそれなりに迫力のあるものとなっているが、リヒトホーフェンにまつわる伝記的な事実をなぞりながらリヒトホーフェンの内面の葛藤を想像し、リヒトホーフェンの恋人とリヒトホーフェンとの関係についても紆余曲折を入れ、リヒトホーフェンの周辺にいたパイロットのそれぞれの運命にも目を配り、優秀なパイロットのなかにはユダヤ人多数がいたことに触れ、地上を這いずる哀れな歩兵の運命と戦争の悲惨にもいちおう言及し、つまりできもしないのにあれやこれやと欲張った結果であろうと予想しているが、地上のシーンがやたらと多い上に勝手な文脈で挿入される情緒的なカットがむやみと長くてまとまりが乏しい退屈な映画になっている。 


Tetsuya Sato

2014年2月18日火曜日

レッド・バロン(1971)

レッド・バロン
Von Richthofen and Brown
1971年 アメリカ 99分
監督:ロジャー・コーマン

撃墜王フォン・リヒトフォーフェンの初陣から戦死までを、インタビューの再録などを織り交ぜながらテンポよく描いている。
リヒトフォーフェンの宿敵としてカナダ人の戦闘機乗りブラウンを登場させ、英国軍がブラウンの近代的な合理主義に染まっていく様子も手際がよく描写されていて、戦闘行為から騎士道精神という飾りが剥がれ落ちて単なる殺し合いへ、当事者の意識の上で変質していく有様をうまく伝えている。空の戦場も殺し合いの場として明確に規定され、その殺し合いの場における英雄リヒトフォーフェンが私生活においても釣や狩りを好んで魚や獣や鳥を殺し、その延長線上で戦闘に参加していた、とする指摘はきわめてロジャー・コーマンらしいと思う。
作りに粗さがあるものの、プロットは最小限に押さえて戦闘シーンを充実させ、その戦闘シーンにはそれなりの迫力があり、真っ赤に塗られた三葉機フォッカーDr-1も飛び、加えて色とりどりの空中サーカスもなかなかに楽しい。
ただ空戦シーンの背景はどこまでいっても現代英国ののどかな田園風景で(地上の戦場が登場するのは一度だけ)、そのことにうっかり気を取られると、この連中はどこからやってきてここで何をしているのか、といったことが気になってくる。
レッド・バロン [DVD]
Tetsuya Sato

2014年2月17日月曜日

リバーワールド

リバーワールド
Riverworld
2003年 アメリカ 97分 TV
監督:カリ・スコグランド

スペースシャトルの事故で死んだ宇宙飛行士ヘイルは水中で目覚めて怪しい光景を目撃し、浮上して自ら出ると見知らぬ場所にいる。ヘイルの後からも水中から続々とひとが現われ、その誰もが死んだ経験を持っていて、死んだ時代も場所も違う。
恐ろしいことにフィリップ・ホセ・ファーマー『リバーワールド』の映像化。
ただ全人類が一度によみがえるのではなくて、少なくとも十年くらいのスパンで順番によみがえっているらしい。だからウマにまたがった蛮族のようなものがすぐさま出現し、サム・クレメンスのリバーボートは進水を間近に控えている。聖杯などの設定はそのまま登場するものの、リチャード・バートン、ジョン王などは登場しないし、肝心な川が視覚的にほとんど重要視されていない。蛮族は間もなくネロ(ネロとも思えないほど戦闘能力が高い)に乗っ取られ、サム・クレメンスのグループとことごとに対立するのが話の主軸になっていて、その対立に多くの時間を割いた結果、相当に奇想天外な設定はいつの間にか投げ出されてしまう。十九世紀的な人物が十九世的な科学思考でなんでもやり、そこへからむ歴史的な人物が歴史的ないかがわしさで性懲りもなくなんでもやる、という原作の前向きな雰囲気はこのテレビ映画にはどこにもない。凡庸で退屈なだけ。

Tetsuya Sato

2014年2月16日日曜日

デイ・ウォッチ

デイ・ウォッチ
Dnevnoy Dozor
2006年 ロシア 132分
監督:ティムール・ベクマンベトフ

罠にはまったアントン・ゴロデツキーが殺人の嫌疑を受けて闇の異種の追求を受け、追及をかわすためにオリガと肉体を交換したりしているうちに息子イゴールの誕生日がやって来て、闇の異種のボス、ザヴロンはこれを期にイゴールの覚醒を促して光と闇の均衡を崩し、一気に闇の支配をもたらそうとたくらんでいる。
ロシア的な宿命感に縛られながら男も女も人生を背負い、光と闇の双方が裏通りで微妙に馴れ合っているという雰囲気は一作目から引き継がれているが、予算が大幅に増えた結果、アクションはさらに派手になり、それはそれで見ごたえがある。というか、冒頭、ティモールの騎兵軍団が馬ごと城壁を破るという破天荒な描写ですでに感じ入っていた。冗談でやっているのか本気でやっているのかよくわからない大げさな描写もあいかわらずで、普通にやられたら間違いなく腹が立つような場面がところどころにあるけれど、とにかく勢いがあるので気持ちよく見ていられる、というのは重要なことであろう。 

Tetsuya Sato

2014年2月15日土曜日

ナイト・ウォッチ

ナイト・ウォッチ
Nochnoy Dozor
2004年 ロシア 115分
監督・脚本:ティムール・ベクマンベトフ

その昔、光の種族と闇の種族がとある橋の上の出会って戦闘に入り、戦いの様子を眺めていた光の種族の王が、ああ、実力は互角だ、このままでは共倒れだ、と気がついた。そこで光の種族の王は闇の種族の王に休戦を申し入れ、以来、光の種族はナイト・ウォッチを立て、一方、闇の種族はデイ・ウォッチを立て、相互監視システムの下で均衡を保っている。そうしていると現代のモスクワにとてつもなく呪われた女が出現して均衡を破りかけるので、光の種族の戦士たちは呪いの原因を取り除くために走り回り、一方、闇の種族の王は別口で均衡を破るためにひどく迂遠な画策をしている。
セルゲイ・ルキヤネンコの原作は未読。後半、やや舌足らずになるが、映像表現の面では独特のセンスが発揮されており、その成果はなかなかに魅力的で見る者を飽きさせない。対立構造は『アンダーワールド』に似ていなくもないが、こちらはいずれの陣営も人間に混じって日常生活を送っており、そのせいでわびしい生活感がどこまでも追いかけてくるし、光と闇がアパートのおむかいさん同士だったりして、適当に馴れ合っているような場面がある。特にこの善と悪がいまひとつ割り切れない、というアイデアは非常にうまく生かされていると思うのである。というわけで悪はさしあたり目的を達するものの、悲嘆に暮れる光の戦士にみずからの頬を差し出して殴られるにまかせたりするあたりがロシア的で奥が深い。 

Tetsuya Sato

2014年2月14日金曜日

エンド・オブ・ウォッチ

エンド・オブ・ウォッチ
End of Watch
2012年 アメリカ 109分
監督:デヴィッド・エアー

ロサンジェルス、サウスセントラルのニュートン分署に所属するブライアン・テイラー巡査は大学法科を目指していて、入試課題に映像ドキュメンタリーを選んで自分の胸にも相棒のマイケル・ザヴァラ巡査の胸にもカメラをつけて、さらにカメラも抱えて出勤して犯罪多発地帯をパトロールしながら様々な事件に遭遇する。 
ブライアン・テイラー巡査がジェイク・ギレンホール、マイケル・ザヴァラ巡査がマイケル・ペーニャ。監督は『トレーニング デイ』の脚本を書いたデヴィッド・エアーで、余計なストーリーがはっきり言って邪魔にしかならなかった『トレーニング デイ』に対してこちらは警官の日常を丹念にスケッチしながらそこに事件を重ねていくという手法を徹底していて最後の最後まで見ごたえがあり、ジェイク・ギレンホールをはじめ、出演者の役作りがすばらしい。 
エンド・オブ・ウォッチ DVD
Tetsuya Sato

2014年2月13日木曜日

ガーディアンズ 伝説の勇者たち

ガーディアンズ 伝説の勇者たち
Rise of the Guardians
2012年 アメリカ 97分
監督:ピーター・ラムジー

誕生以来300年、ジャック・フロストがひとりで気ままに霜を降らせていたころ、北極のサンタクロースの根城では闇が世界を覆う予兆が現われてピッチの影が踊るので、子供たちの夢を守るために砂男や歯の妖精、イースターバニーなどが呼び寄せられ、さらに月の光が新たな守り手としてジャック・フロストを指名するのでイースターバニーとサンタクロース配下の一味がジャック・フロストをかどわかして北極へ運び、守り手になれという説得をジャック・フロストが拒んでいるとピッチが現われて挑戦をおこない、歯の妖精が集めた歯を枕の下に戻して子供たちの夢を壊し、空中の戦いで砂男を倒し、イースターバニーの卵を壊して子供たちからイースターの楽しみを奪い、楽しい夢のかわりに悪夢を与えられた子供たちはサンタクロースも歯の妖精もイースターバニーも信じなくなり、力を失った仲間を助けるためにジャック・フロストが立ち上がる。 
ストレートに子供のための作品になっていて、だから大人のゆがんだ欲望にはまったく媚びていないので少々薄味にも感じられるが、あえて物語ることに重きを置いた語り口は言うまでもなく、色彩設計からアクションシーンの演出、音楽や効果までがしかるべき一貫性を帯びているところに媚びないことの勇気を感じた。ジャック・フロストがクリス・パインで、意外なことにいい味を出している。

2014年2月12日水曜日

ロード島の要塞

ロード島の要塞
Il colosso di Rodi 
1961年 スペイン/イタリア/フランス 113分
監督:セルジオ・レオーネ

アテネの将軍ダリオスが母の故郷ロード島を訪れると完成したばかりの青銅の巨像がアポロンに奉納されていて、その式典で見るからに挙動不審な若者が見るからに暗愚な王に襲いかかって命を落とし、仲間を失ったペリオクレスはじめとする島の反乱分子は王がフェニキアと盟約を交わそうとしているのを知ってアテネの来援を求め、その手がかりとしてダリオスとの接触を試みるものの失敗してダリオスに襲いかかるはめになり、どうにも不穏な様子にダリオスが帰国を決めるとロード島の王とその一党はダリオスの真意に疑いを抱いて出港をとめ、そこでダリオスが密航を試みるとペリオクレスともども逮捕されて反乱分子の烙印を押され、処刑されかけたところを戦って逃れてペリオクレスたちとともに隠れ家へいくと王の側近がフェニキアと密約を結んで謀反をたくらんでいることがあきらかになり、ペリオクレスたちは島を救うために巨像のからくりを動かして牢に捕らわれている仲間たちを救うことにするが、ダリオスは単独で動いて建築家の娘に接近して巨像に潜入し、そこで裏切りにあって捕えられかけたところをどうにか逃れ、隠れ家へ戻ると反乱分子は全滅していて逮捕されたペリオクレスたちは競技場で処刑されるところだったので、そこへ飛び込んでいって島の住民に陰謀の存在を明かし、陰謀の存在を疑う王に向かって突如として現われたフェニキア勢が弓をいかけ、ダリオスはペリオクレスたちを救い出すと牢の扉を開くために巨像へ急ぎ、解放された反乱分子はフェニキア勢と戦うために武器を取り、沖合にはフェニキアの大艦隊が出現し、ついに神々が怒りを放って嵐が起こり、地震が起こる。 
セルジオ・レオーネの監督デビュー作、ということになるらしい。反乱をたくらむ動機がいまひとつはっきりとしない、時間をかけている割にはキャラクターが立ち上がらない、などの欠点があり、そういうところで話が右往左往するのでまとまりにも乏しい、ということになってくるが、予算はかなりかかっていて、けっこうな数のエキストラを使っているし、ロドス島の巨像は胸から上と脚の部分がフルスケールで作られているし、巨大な肩の上でちゃんばらもする。クライマックスの地震のシーンもそれなりの規模でそれなりの迫力に仕上がっている。 
ロード島の要塞 HDリマスター版 [DVD] 
Tetsuya Sato

2014年2月11日火曜日

メカニック

メカニック
The Mechanic
1972年 アメリカ 100分
監督:マイケル・ウィナー

組織の殺し屋アーサー・ビショップは標的の生活を観察し、標的の留守中に標的のアパートの部屋に侵入して標的のガスコンロにガス漏れを起こす仕掛けを仕込み、標的のティーバッグを睡眠薬入りにすり替え、標的の本棚から本を選んでその一冊に起爆剤となる薬品を仕込み、そうして部屋から忍び出ると向かいの建物の窓から標的を監視し、標的が標的のアパートの部屋に戻ってガスコンロを使ってお湯をわかし、お茶を飲んでベッドで寝入ると、ガス漏れが起こった時刻を見計らってスナイパーライフルで標的の本棚を狙撃し、爆発を起こして標的を焼き殺す、という、妙に手間のかかった殺し方をして、次の標的にはアーサー・ビショップの古くからの知り合いが選ばれ、この仕事を片付けているうちにその知り合いの息子スティーブ・マッケンナと知り合い、ガールフレンドが自殺をはかって失血死していく様子を平然と眺めることのできるこの若者をアーサー・ビショップはなぜか気に入って、また信頼できる右腕になると考えて自分の仕事の助手に使うようになり、いろいろと仕込んで一緒に次の標的を片付けるとアーサー・ビショップに組織からのお呼びがかかり、組織はスティーブ・マッケンナを使うことに難色を示し、アーサー・ビショップが問題ないと主張して新たな仕事を請け負うと、そのあいだにスティーブ・マッケンナはアーサー・ビショップを始末するという仕事を組織から受け、そのことに気づいたアーサー・ビショップは新たな仕事を片付けるためにスティーブ・マッケンナとともにナポリへ飛ぶ。
アーサー・ビショップがチャールズ・ブロンソン、どう見てもへらへらしているだけで、どうしたって信頼できるようには見えない若造がジャン=マイケル・ヴィンセント。アクションシーンなどにはいちおうの迫力があるものの、ブロンソンの部屋にヒエロニムス・ボスの『悦楽の園』がかかっていたり、それを見上げている当人は神経衰弱になっていたり、とキャラクターに妙なひねりが加わっているが、どうやら格別の意味はないようだし、後半に入ると状況が微妙に混乱してきて、それがうまく収拾されていない。職人監督マイケル・ウィナーが悪い、というよりも、これは脚本がそもそもまずいのであろう。 
メカニック [DVD]
Tetsuya Sato

2014年2月10日月曜日

栄光のル・マン

栄光のル・マン
1971年 アメリカ 109分
Le Mans
監督:リー・H・カッツィン

ル・マンの24時間耐久レースをドキュメンタリータッチで描く。レース場を目指して集まってくる観光客、野宿をしてレースの開催を待つ観客、渋滞、警備のための警官隊が出動し、救急医療施設では準備が進み、場内アナウンスはル・マンの歴史を語り、鼓動の高鳴りとともにレースが始まる。おそらくは全編の半分以上を占めるレース場面がたいそうな見ごたえである。余計なドラマはないし、今様に激高して仲間をどつくレーサーもいない。レーサーはひたすらに淡々としているし、メカニックは空にかかった雨雲をじっと見つめているし、女たちはサーキットに静かに目を落としている。ある種の思いきりの結果ではあるが、これは傑作と呼ぶべきであろう。



Tetsuya Sato

2014年2月9日日曜日

ラッシュ/プライドと友情

ラッシュ/プライドと友情
Rush
2007年 アメリカ/ドイツ/イギリス 123分
監督:ロン・ハワード

ジェームズ・ハントとニキ・ラウダのF3時代に始まる確執からそれぞれが背負う背景と決定的な気質の違い、F1時代における両者の対抗心と1976年のキャンペーンにおける一連の事件を時系列に沿って配置している。
ロン・ハワードの演出は愚直なまでに古典的で、ときおり見える生理的な描写を除けば目新しさも派手さもないが、現代では見ることができなくなった格闘技のようなF1の様子を丹念に再現することに集中していて、そのこだわりは確実に結実しているように見える。ダニエル・ブリュールのニキ・ラウダのいかにもと言えばいかにもななりきりぶり、クリス・ヘムズワース扮するジェームズ・ハントの、いかにもと言えばいかにもな表現もこの映画の古典的な作法のなかでは魅力を放っていると言うべきではないだろうか。あれやこれやと余計なことを考えながら、意外なほど素朴なところで感動している自分にちょっと驚いている。 
Tetsuya Sato

2014年2月8日土曜日

太陽の王子ファラオ

太陽の王子ファラオ
Faraon
1966年 ポーランド 140分
監督:イエジー・カワレロウィッチ

『尼僧ヨアンナ』のイエジー・カワレロウィッチによるエジプト史劇だから見たのではなく、ポーランド製のエジプト史劇だから見た、ということになると思う。で、結論から言えばポーランド製のエジプト史劇ではなく、イエジー・カワレロウィッチのエジプト史劇なのであった。
新王朝末期のエジプトを舞台に国家の窮乏、人民の悲惨、ラムセス13世と神官の対立、アッシリアの圧力、フェニキアの陰謀などを扱っていて、いわゆるハリウッド史劇に比べれば低予算だがエジプトで本当にロケをしていて、ルクソールの遺跡などがそのまま背景に使われている。エキストラもそれなりの人数が揃っている。カメラワークや叙述にきわめて作家的なスタイルがあったのは間違いない。特に語りの形式には緩急を捉えたリズムがあって、これに乗れればおそらくは最後まで関心を持って見ることができる。ただし役者は木偶の坊も同然である。歴史的な状況は引き出しに分類されてしまわれていて、必要に応じて引っ張り出されているだけのように見える。時間をかけている割りには人物関係が安直で、都合よく消えたり現われたりする。そして最大の難を言えば演出があまりにも60年代的で、つまり野暮ったい。


Tetsuya Sato

2014年2月7日金曜日

ニトロ・パニック/燃える超大型船ポセイドン号

ニトロ・パニック/燃える超大型船ポセイドン号
Explozia
1972年 ルーマニア・イタリア 96分
監督:ミルチャ・ドラガン

ドナウ川を進むパトロール船が呼びかけに応答しない大型貨物船を発見する。乗り込んでみると船上に乗組員の姿はなく、火災が発生していて、しかも船には硝酸アンモニウムが満載されていた。この暴走する船をなんとかしなければ町に甚大な被害を与える危険があった。そこでパトロール船の乗員たちは消火活動に取りかかり、そうしていると市民も同志たちの戦いを見過ごすな、ということで応援に駆けつけ、ついでに略奪騒ぎなども起こり、最後には船を停めようがないというような判断になって、町に接近しすぎる前に爆発を起こして沈めてしまう、という展開であったように記憶している。実話が元になっているらしい。ルーマニア製パニック映画という物珍しさはあるものの、格別面白い映画ではない。


Tetsuya Sato

2014年2月6日木曜日

マイティ・ソー/ダーク・ワールド

マイティ・ソー/ダーク・ワールド
Thor: The Dark World
2007年 アメリカ/ドイツ 113分
監督:アラン・テイラー

ビフレストが破壊されてあちらこちらの世界が戦乱で満たされ、ソーとその仲間が鎮圧のために戦っていたころ、ジェーン・フォスターはロンドンで謎の重力異常を発見し、その現場に近づいたところ、かつて闇のエルフが世界を闇に戻すために使おうとしてアスガルドの軍勢に敗れて以来、地下に封印されていたエーテルに触れてエーテルを体内に取り込むことになり、世界に平和を取り戻したソーはジェーンの前に現われると異常に気づいてジェーンをアスガルドに運び、エーテルの気配に気づいた闇のエルフの生き残りはエーテルを取り戻すためにアスガルドに襲いかかるので、ジェーンをエーテルから切り離し、アスガルドを救うためにソーは『アベンジャーズ』の一件以来、牢屋に閉じ込められていたロキの手を借りることにする。
一作目の微妙に閉塞感が漂う空間処理に替わって世界は一気に風通しがよくなり、クライマックスでは重力異常でできた穴をくぐってソーがあっちの世界からこっちの世界へと飛び回り、飛び回るソーのあとをムジョルニアがかいがいしく追いすがる。本編におけるムジョルニアの扱いはさりげなくかわいらしい。クリス・ヘムズワースは好感が持てる演技をしているし、トム・ヒドルストンのロキはほとんどもうわけがわからないくらい軽い感じで悪いだけ、という雰囲気ではあるが、ロキに決定的なイメージを与えている。視覚的に豊かで内容的にも盛りだくさんで、ほどよくユーモアも織り込まれているし、グリニッジ大学大破壊のシーンも節度があるし、で、悪いところはなにもない。楽しんだ。 

Tetsuya Sato

2014年2月5日水曜日

トリフィドの日(2009)

ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド
The Day of the Triffids
2009年 イギリス/カナダ 180分 TV
監督:ニック・コパス

トリフィドから代替燃料を採取するトリフィド農場の技術者ビル・メイソンはトリフィドの毒のせいで目が見えなくなって頭に包帯をして入院していると上空では太陽嵐による天体ショーが始まり、プラズマの放射によって天体ショーを見ていたひとはことごとく失明し、事故が起こり、飛行機が墜落し、得体の知れない狂信者がトリフィド農場のトリフィドを解放するのでビル・メイソンはトリフィド対策を呼びかけるが、コーカー少佐の率いるグループに捕えられて失明者の介護や食料集めを強要され、コーカー少佐の配下にいる得体の知れない男トレンスがコーカー少佐を排除してグループを支配し、ビル・メイソンはコーカー少佐とともに森へ送られてトリフィドの餌食になるところを危うく逃れてヴァネッサ・レッドグレーヴ扮するところの院長がいる修道院にたどり着くが、ここでも異常なことがおこなわれているので、ビル・メイソンはトリフィド研究の大家である自分の父を捜して旅立ち、一方、ビル・メイソンの事実上に恋人であるBBCのアナウンサー、ジョー・プレイトンはトレンスの悪をあばいてロンドンを逃れ、森でブライアン・コックス扮するところのビル・メイソンの父に拾われ、父のもとにたどり着いたビル・メイソンとの再会を果たし、ビル・メイソンの父はすでにトリフィド対策を完成させているものの、例によってばかげた理由で命を落とし、そこへビル・メイソンを追ってトレンスの一味が現われる。
ジョン・ウィンダム『トリフィドの日』の(たぶん)三度目の映像化で、BBCによる(たぶん)二度目のドラマ化。これまでの映像化ではおそらくもっとも費用がかかっていて、トリフィドもふんだんに登場するが、その分、余計なホラー色やサスペンス色が強くなり、原作のプロットは大きく単純化され、登場人物もアホウになっている。 
 ラストデイズ・オブ・ザ・ワールド【完全版】 [DVD]
Tetsuya Sato

2014年2月4日火曜日

トリフィドの日(1981)

デイ・オブ・ザ・トリフィド
The Day of the Triffids
1981年 イギリス 157分 TV
監督:ケン・ハナム

トリフィドから代替燃料を採取するトリフィド農場の技術者ビル・メイソンはトリフィドの毒のせいで目が見えなくなって頭に包帯をして入院していると上空に流星雨が現われて、この天体ショーに見入ったすべてのひとが翌朝までに失明し、看護婦も医師も現れないのでビル・メイソンは自分で包帯を解いて外に出て生き残るために失明した人々を見捨てようというグループに加わり、失明した人々を見捨てないというグループに捕えられて失明した人々の面倒を見ることを強制され、そうしているうちに疫病が流行って人々が倒れ、グループも崩壊するので恋人を探し求めて田舎へ走り、恋人との再会を果たしてトリフィドを駆除しながらどうにか生活を立てていくが、そこへ新秩序をもたらそうとたくらむ新たなグループが現われるので、ビル・メイソンは仲間とともに脱出する。
ジョン・ウィンダム『トリフィドの日』を原作とするBBCのテレビドラマで全6話構成。 1962年版に比べるとだいぶましで、原作の雰囲気はそれなりに出ていると思うが、視覚的な薄さはどうにも否定できない。


Tetsuya Sato

2014年2月3日月曜日

トリフィドの日(1962)

人類SOS!
The Day of the Triffids
1962年 イギリス 94分
監督:スティーヴ・セクリー、フレディ・フランシス

ジョン・ウィンダム『トリフィドの日』の映画化。とはいえ、人類の大半が流星雨を見たせいでいきなり盲目になり、そこへ食肉植物が襲いかかるという状況が利用されているだけで、トリフィドがどこから来たのか満足な説明もないし、社会的な変動もすっ飛ばされて、ためしに海水をかけてみたら溶けました、というけったいなハッピーエンドになっている。ちなみに肝心のトリフィドはレールの上をよたよた移動するだけ。 

トリフィドの日~人類SOS!~ [DVD]
Tetsuya Sato

2014年2月2日日曜日

欲望のバージニア

欲望のバージニア
Lawless
2012年 アメリカ 98分
監督:サーシャ・ガヴァシ

1931年、禁酒法施行後のバージニア州フランクリンで土地のお百姓がせっせと密造酒の製造に励んで地産地消に精を出していると、そこへ州の検事と結託した冷酷非情な特別補佐官が現われて密造酒の上がりを搾取するので、地元では不死身で評判のボンデュラント兄弟が特別補佐官の仕打ちに抵抗し、それでも特別補佐官が仕打ちを続けてついに越えてはいけない一線を越えると兄弟はもちろん村人も保安官も立ち上がる。 
ボンデュラントの3兄弟が上からジェイソン・クラーク、トム・ハーディ、シャイア・ラブーフ、かなり異常なレイクス特別補佐官がガイ・ピアース、あまり顔は出さないギャングの親玉がゲイリー・オールドマン。
ロケはおもにジョージア州でおこなわれたらしい。当時の風俗などが豊かに再現されていて、そこにフランドル絵画のような色彩が混じって視覚的にいろいろと楽しみがある。いかにもな形で展開するお話もなかなかに面白いが、中盤以降の状況を進めるためのモンタージュはやや唐突だし、全体にカメラが動きすぎるせいでショットに落ち着きがない。ひんぱんにカントリー系の音楽が挿入されるが、これもなぜか落ち着かない。フレームをきっちりと決めて、もう少し重ための造形にしたほうがよかったのではないか、という気がしてならないが、もしかしたらわたしが単に古典的な作りを求めているのかもしれない。

Tetsuya Sato

2014年2月1日土曜日

地獄

地獄
1960年 日本 101分
監督:中川信夫

大学生の清水四郎は矢島教授の娘幸子と婚約して幸福の絶頂にあったが、その晩、友人の田村の車に乗って帰宅する途中、田村が世田谷区上馬で轢き逃げをしたせいで人生が狂うことになり、良心の呵責に悩む四郎が警察への自首を考えても田村が拒絶、目撃者がいないと思っていた事件には実は目撃者がいて、轢き逃げをされた犠牲者の母親が田村の車のナンバープレートをはっきりと見ていて、息子が死ぬと息子の情婦であった洋子とともに轢き逃げ犯への復讐を誓い、四郎は幸子に事情を話して幸子とともに警察へいこうとするが、乗っていたタクシーが事故を起こして幸子は死亡、自暴自棄になった四郎は酒を飲みに出かけてそこで洋子と出会い、四郎の正体を知った洋子は早速四郎を罠にかけようとたくらむが、四郎は「ハハキトク」の電報を受け取って帰省して養老院を営む実家を訪れ、するとそこでは病身の母親の隣で父親が情婦とたわむれ、父親と結託した医師は養老院の入所者にいいかげんな医療をほどこし、居候の画家は父親の依頼で寺に奉納するための地獄絵を描き、父親の情婦が四郎に懸想をすると画家の娘もまた四郎に対して感情を抱き、そうしていると田村も矢島教授夫妻も復讐を誓う女たちも四郎を追って周辺に現われ、あれやこれやとしているうちに主要登場人物も周辺人物もことごとくが死んで地獄に落ちて現世の咎をつぐなうために責め苦にあう。 
四郎が天知茂、閻魔大王が嵐寛寿郎。脚本が微妙に『ファウスト』なのが興味深い。閻魔大王が登場するのは上映時間が1時間ほど経過してから。そのから展開する地獄の地獄ぶりよりもこの世の地獄ぶりのほうがよほどに面白いという難点はあるものの、演出はテンポが早くてパワーがある。対象性の強調と象徴的な表現が大胆に使用されていて、これは下手がやったら目も当てられないしろものになっていたに違いないが、そこも効果的にまとめられている。とにかく野心的で面白い絵を作ろう、という意気込みがたのもしい。
『地獄』予告編



Tetsuya Sato