2012年5月1日火曜日

グッバイ、レーニン!

グッバイ、レーニン!(2003)
Good Bye, Lenin!
監督:ヴォルフガング・ベッカー


1978年。父は一家を残して西ドイツへ亡命し、事実を知った母は唖然とするものの気を取り直して、あるいは反動によって自らを社会主義建設に捧げ、それから10年、母は勲章を受けて人民の英雄となり、息子が自由要求デモに参加して引っ張られる光景を目撃し、心臓発作を起こして病院に運ばれ、意識不明のまま八か月過ごす。その八か月のあいだにベルリンの壁が崩壊し、娘は学校をやめてバーガーキングの店員となり、息子はソ連人の看護婦と恋に落ち、そして西ドイツから来た若者と衛星アンテナ販売のアルバイトにいそしんでいる。そうしていると母親が意識を取り戻し、とはいえ、なおも病床にあり、いかなるショックも生命に危険を与える可能性があったので、母がすべてを捧げた祖国が事実上なくなってしまったことを知らせてはならないと、息子、娘、息子の恋人、娘の恋人、ご近所のみなさん、母の同僚などが健全なる東ドイツ社会を即興で復元し、母親の前で演じ続ける。
テレビのニュースまで自作するのである。テンポが速くて目配りのよい演出は見ていて安心感があり、絵も手間がかかっていて好感が持てる。ベルリンの壁崩壊後の東ドイツの若者たちの微妙な心理状態なども丁寧に描かれていて、これは素朴に面白い。自由社会の到来は歓迎だけど、やっぱり西に飲み込まれたことはどこか気に入らないのである。主人公アレックスがほぼ孤軍奮闘するような形で母親に嘘をつき通す姿はなかなかに滑稽だが、この一家が起点で抱え込んでいる喪失感が東ドイツ国民の喪失感ときっちりと重なり、多くの場合、笑いよりも悲しみを呼ぶ。白状すると感動した。母親役のカトリーン・サーズは非常な好演であったが、この母親にヘリコプターで運ばれていく巨大なレーニン像がずいっと手を差し伸べるという場面があって、これは相当に異様で恐れ入った。



Tetsuya Sato