2011年10月10日月曜日

『つばさ』と『地獄の天使』


つばさ(1927)
Wings
監督:ウィリアム・A・ウェルマン
1917年のアメリカ。田舎町に住むメアリーは飛行機に憧れるジャックに恋をしていたが、そのジャックは金持ちの娘シルヴィアに恋をしており、そのシルヴィアは金持ちの息子デイヴィッドに恋をしている。やがてアメリカは第一次世界大戦に参戦し、ジャックとデイヴィッドは航空隊を志願して戦闘機乗りとなり、西部戦線でドイツ軍との戦いに投入される。戦場では戦いによって命が空しく奪われ、空からはドイツ軍の爆撃機が攻撃を加え、その爆撃機を撃退したことでジャックとデイヴィッドは勲章を受け、だが連日の戦闘は神経を苛み、休暇で訪れたパリではジャックはひたすらに飲んだくれる。そのジャックを介抱するのは婦人部隊の一員として同じくパリにあったメアリーであったが、その頃、連合軍は総攻撃の準備にかかり、ジャックとデイヴィッドもまた休暇の途中で呼び戻され、戦車を交えた地上部隊の進撃が始まり、航空部隊もまた空から戦闘に加わっていく。
1927年製作のサイレントの大作戦争映画である。映像は雄弁で、監督が従軍経験者だから、ということなのか、戦闘シーンは独特の迫力がある。空戦シーンなどはロングの空撮が多く、そうした意味では現代的な文法とは異なっているが、雲海を背にした戦闘はなかなかにリアルで見ごたえがあった。地上戦の場面もバリエーションが豊かで、大地をめぐる長大な塹壕、爆薬筒による鉄条網爆破、歩兵や戦車の進撃、野砲、機銃掃射、装甲トーチカへの蹂躙攻撃、算を乱して潰走するドイツ軍など見ていて飽きることがない。話は従軍から復員までで、その過程をよどみなくつなげて並ぶべき場面を惜しみなく並べ、登場人物にはそれなりの人間味を与え、戦争批判も忘れずに折り込んで手際がよい。通俗ドラマとしてよく仕上がっているのである。ゲーリー・クーパーが航空兵の役で1シーンだけ出演していて、ハーシーのアーモンドチョコをかじるだけなんだけど、そのときの立ち姿がかっこいい。
つばさ [DVD]



地獄の天使(1930)
Hell's Angels
監督:ハワード・ヒューズ
ロイとモンティのラトリッジ兄弟はドイツ人のカール・アムシュタットとともにオックスフォードで学ぶ学生であったが、そこへ第一次世界大戦が勃発し、カールは祖国ドイツから召集を受け、まじめなロイ・ラトリッジは志願して飛行隊へ入隊し、享楽的なモンティ・ラトリッジもまた本意に反して志願することになり、兄と同じ飛行隊へ入隊する。訓練を終えたラトリッジ兄弟がフランスへの移動を待っていると、そこへツェッペリン飛行船がロンドン爆撃のために現われるので、兄弟は仲間とともに迎撃に飛び立つ。撤退に移ったツェッペリンは高度を確保するために余計なものを次々に捨て、捨てる物がなくなると乗員も捨てるが、英国軍機の体当たり攻撃で爆発炎上する。ラトリッジ兄弟は生きながらえてフランスの戦場へ渡り、そこでモンティ・ラトリッジは臆病者の嫌疑を受け、名誉を回復するために危険な任務に志願する。ロイ・ラトリッジもまた弟に続いて任務に志願し、二人は鹵獲品のゴータ爆撃機に乗り込んでドイツ軍の弾薬集積地を爆撃するが、帰路、ドイツ軍戦闘機の攻撃を受ける。
それぞれの仕方で恋をする青年たちが戦争に巻き込まれ、悲惨さがたれこめた戦場へ送られて命をすり減らしていくストーリーはセオリーどおりで破綻はない。登場人物の造形も単純ながらよく考慮されており、実直な兄、享楽的な弟、それに輪をかけて享楽的な娘(ジーン・ハーロウ)、英国への愛に悩むドイツ人青年、ステレオタイプの各種ドイツ人などが登場して飽きさせない。場面の構成はサイレントに近く、余計なダイアログよりも絵で多くを説明するため、結果としてきびきびとした動きになっている。ふつうの映画としても水準を十分にクリアしている作品だが、空戦シーンのものすごさは比類がない。英国機対ドイツ機の空中戦(しかも半端な数ではない)はすさまじいまでの迫力があり、しかも撮り方にとてつもないこだわりがある。たとえばリヒトフォーフェンの編隊がいったん散って主人公たちが乗るゴータ爆撃機を攻撃したあと、援軍として現われた英国の編隊とまみえるために空中で再集結するシーンなどは一瞬なのにぞくぞくしてくるほどすばらしいのである。きりもみ状態で地面へ突っ込んでいくゴータ爆撃機(MB-2の実機を使っている)もすごいし、さすがに本物ではないようだが、ツェッペリンの爆発シーンもものすごい。そのツェッペリンもただ飛んでいるだけではなくて、ブリッジの細部から偵察用ゴンドラとその周辺装置、エンジンなどがていねいに描写されているし、そのエンジン音を聞いて警報を鳴らすイギリス側の聴音装置なども登場する。空戦シーンでもどこに被弾したのか、どこに被弾したからどうなるのか、と実に細かく、さらにうれしいことに響いてくるエンジン音が実によくできている。いろいろと航空映画を見てきたけれど、これほどすごいのはたぶんほかにないと思う。こういうこだわりがやたらと見えるとどうしても点が甘くなるわけだけど、製作当時で製作費420万ドル、集めた実機が87機、それを飛ばしているのは第一次世界大戦中の本物のパイロット、『アビエイター』(2004年、マーティン・スコセッシ)のなかの台詞によると空戦シーンで同時に使ったカメラが24台、というのはまったく無駄になっていない。
地獄の天使 [DVD]



Tetsuya Sato