2011年10月30日日曜日

ぞんびえいが #2 その後の展開

サンゲリア(1979)
ZOMBI2
監督:ルチオ・フルチ
父親の行方を探す娘と新聞記者とがカリブ海の島を訪れるとそこにはゾンビがいっぱいいる、というような内容で、島の田舎じみた雰囲気がいかにもわびしくて悪くないのと(おそらく撮ったままであろう)、海中に生息するゾンビという珍しい場面があるほかは、格別どうしたこともない。ただ、あとから考えてみると、ルチオ・フルチとしては大作だったのかもしれない。ちなみに自慢できた話ではないが、わたしはこれをロードショーで見ているのである。 
サンゲリア [DVD]




バタリアン(1985)
The Return of The Living Dead
監督・脚本:ダン・オバノン
ひどい邦題がついているが、原題は"The Return of The Living Dead"で、つまり『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の系譜に自発的に割り込んでいった作品である。冒頭、いきなり「実話に基づく」という大胆な宣言がおこなわれ、医薬品倉庫(だったかな?)では先輩社員が後輩社員に向かって、あの話は本当にあったことだと「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」のさわりを喋り始める。この世にもいかがわしい怪談ぶりに見ているこちらがわくわくして待っていると、案の定、その実際にあった事件で処分に困った物体がこの倉庫にあるという話になって、どんどん恐ろしいことになっていく。ジョージ・A・ロメロの生ける死者とは事なり、こちらのゾンビは全力で疾走し、よく喋り、チャンスがあれば人間を罠にはめ、しかも頭痛を抱えている。間抜けな雰囲気が全編に漂うコメディである。 
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28日後... (2002)
28 Days Later
監督:ダニー・ボイル
三人組の活動家がケンブリッジの霊長類研究センターに侵入する。そこではチンパンジーが見た目に明らかな虐待を受けている。さっそく解放しようとしていると研究所の職員が現われて言うのである。その猿は「怒り」に感染している。「怒り」は血液や唾液を媒介にして広がる。その感染力は猛烈に強い。
もちろん研究者がどう警告したところで、活動家というのは聞く耳を持たないのである。チンパンジーを一匹選んで解放すると、あっという間に恐ろしいことになって、それから28日が経過する。集中治療室で一人の若者が覚醒し、病院の中を歩き始める。病院も町も無人になっていて、呼べども叫べども返答がない。ところがとある教会に入っていくと、そこには生きている牧師がいて、凶暴化して襲いかかってきた。死体の山の中から同じような連中が姿を現わし、猛烈な勢いで突っ走ってくる。わけもわからずに逃げ出すと物陰から助っ人が現われて暴漢は火だるまとなり、それから説明がおこなわれるので問題がようやく明かされる。寝ていた間に文明は崩壊していて、ウィルスに感染した人々が生存者を襲っていたのであった。で、サバイバルが始まるのである。
無人のロンドンで起こる爆発、炎上するマンチェスター、とにかく突っ込んでくる感染者、と印象的な場面は多いものの、見ているうちに、これはもしかしたら同じ監督による 「ザ・ビーチ」 の焼き直しなのではないか、という気がしてならなかった。特定の閉塞状況に疎外感を上乗せするという手口が似ているのである。人物造形が行き当たりばったりに見えるところもよく似ていて、主人公がいったい何者なのか、あいにくとわたしには最後までわからなかった。単に今様の若者ということなのだろうか。設定はジョージ・A・ロメロの 「ザ・クレイジーズ」 から借りてきて、シチュエーションの作りもおおむねロメロの映画から引っ張っていて、そこに「ザ・ビーチ」が乗っかっているという感じになるのであろうか。別にそれが悪いとは思わないけれど消化不良の気配が多分にあって、居心地があまりよろしくない。加えて一人よがりなカット割り、あいまいな状況説明(とりわけ後半で、誰がどこにいて何を見ているのかがわからない)、感傷的なだけの結末、騒々しいだけで耳の健康にはなはだ悪い音響効果と、欠点が目につく映画であった。
28日後... 特別編 [DVD]





ドーン・オブ・ザ・デッド(2004)
Dawn Of The Dead
監督:ザック・スナイダー
看護婦のアナは仕事を終えて帰宅し、翌朝、夫とともにベッドで目覚める。寝室の戸口には近所に住む少女が現われ、この少女が血まみれの姿で夫に襲いかかり、頚動脈を食いちぎる。夫は間もなく絶命し、絶命した筈の夫が起き上がって自分に襲いかかってくるのでアナは家から逃げ出して車に乗り込む。外はとんでもない騒ぎになっていて、このパニック描写はものすごい。正体不明の疫病が蔓延し、その病気にかかった人間は死んで人間に襲いかかり、襲われて噛まれた犠牲者は傷口から感染して死に、生きている人間に襲いかかる。頭を撃たれるまでとまらない。間もなくアナは車を失い、ほかの生存者と合流し、近くのショッピングモールに立てこもる。
ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』の大作リメイクである。言い方を変えれば、かつてないほど金のかかったゾンビ映画なのである。オリジナルからは生存者がショッピングモールに立てこもるという部分がおもに受け継がれていて、あとはかなり変えられていて、生存者の人数も多いし、その後の展開も大きく異なる。現実の状況に照らした場合、生存者の数が増えるのは自然な展開かもしれないが、残念ながら増えたキャラクターは完全には消化されていない。それでもそれなりの見ごたえはあった。ただ、娯楽作に徹している分、ロメロ版にあった行き場のない気配は消えてしまった。ゾンビの動きが素早いところはどこか『バタリアン』を思わせる(『28日後...』みたい、とは言うまい)。 
ドーン・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット プレミアム・エディション [DVD]





ショーン・オブ・ザ・デッド(2004)
Shaun Of The Dead
監督:エドガー・ライト
人工衛星の墜落でロンドンに疫病が発生し、死んだ人間がゾンビとなってよみがえって人間を襲う、という状況を背景に、家電量販店の販売員ショーンが恋人との関係、家族との関係についてちょっぴり苦悩し、ふと気がつくと異様なことになっているわけだけど、常識が邪魔をするので「ゾンビ」という単語が口に出せない。いわゆる『ゾンビ』のきわめて英国的なパロディで、低予算ではあるが、ホラー描写は大真面目だし、やるべきところはきちっとやっていて、同系統のイギリス映画として(むりやり)考えた場合、ダニー・ボイルの『28日後』よりも全然見ごたえがある。人間がまるで「生きた屍」のように見える生気の乏しい生活描写と、そこにあぐらをかいてまともに動けなくなっている登場人物が魅力的なのである。後半、その口に出せない物が大量に現われると、さすがに逃げたり戦ったりするわけだけど、極限状況のなかでも根本的に習性の動物であり続けるところが哀れであった。ゾンビもまた日常のなかへ取り込んでしまう結末は出色。よく吟味された脚本とテンポのよい演出が心地よい。 
ショーン・オブ・ザ・デッド [DVD]






ラストハザード(2006)
Last Rites of the Dead
監督・脚本:マーク・フラット
アンジェラは嫉妬深い元カレ、ジョッシュによって射殺されるが、死んでも死なない怪現象が全世界に蔓延しているためにアンジェラもせっかく呼んだ救急隊員に見捨てられ、死んでも死んでいない状態でそのまま生活を続けて昼間はふつうに出勤し、死にチャレンジされている人々の集会に出かけて自己紹介をしたり、ハグをしたり、ドーナツを食べたりしていたが、どこか気持ちが釈然としない。そのうちに別のグループから声がかかり、そちらに顔を出してみると、そこでは死者の生者に対する圧倒的な優位性を主張していて、人肉を食べることを勧められ、激しく拒絶はするものの、結局口にしてみると少し解放されたような気持ちになるが、ゾンビだという理由から同僚に疎まれて勤め先を解雇され、新しい勤め先を探そうとしてもゾンビだという理由で面接に落ちる。その頃、元カレのジョッシュは公共奉仕と称して暴力集団の一員となり、無害なゾンビをさらっては乱暴狼藉を働いていたが、自分で殺したアンジェラのストーカー行為を未練たらしく続けていて、アンジェラがあちらやこちらで集会に参加したりしているので勝手に嫉妬心を煽りたて、ジョッシュの通報によって死者たちの集会は襲撃を受け、アンジェラはあわやというところで過激な死者集団によって救出されて今度は怪しい儀式に放り込まれ、一方、死者に反撃されて壊滅状態に陥った人間側は自分で自分を殺して死者集団に潜り込んで最後の攻撃を敢行し、血まみれの大乱闘がおこなわれ、アンジェラはついにジョッシュと対決して本音を語り、自宅に戻って鏡に自分の姿を映し出して自分を少し肯定する。かなり低予算の自主制作映画である。とはいえ、脚本はよく練り込まれ、出演者もこのクラスの映画としては水準以上の演技をこなし、演出、撮影、編集、音声などで技術的な問題がときおり目につくものの、全体としてのモチベーションはきわめて高い。拾い物。 
ラストハザード [DVD]






ゾンビーノ(2006)
Fido
監督:アンドリュー・カリー
地球は謎の原子雲に覆われてゾンビが大量に発生し、人類対ゾンビの戦争がおこなわれ、ゾムコン社が問題を解決したことで戦争は人類の勝利に終わり、人類の居住地域では首輪をつけたゾンビが使役され、一方、野生のゾンビはゾーンに追放されているという状態が訪れ、ロビンソン家の主婦ヘレンは夫ビルのゾンビ嫌いのせいで家にゾンビがまったくいないという世間体の悪さを解消するために夫に黙ってゾンビを仕入れ、どうにか夫をなだめすかしてゾンビを使うことになるが、そのゾンビは一人息子のティミーになじみ、ヘレンもまたゾンビに対して友情以上の感情を抱き、取り残された形となった夫のビルはティミーに対して父親としてふるまおうとするが、このときすでにロビンソン家のゾンビを起点に恐るべき事件が進行していて、そのせいで近所の住民がゾンビと化し、ロビンソン家のゾンビは回収されてしまうので、ゾンビと再会したい一心でティミーはゾムコン社の工場に侵入する。背景には原色を基調とした五十年代が採用され、人間性も性差もモダンな複雑さから切り離され、敵が明示されることで登場人物はどことなく残忍で容赦がなくなっている。かなり気味の悪い舞台を背景に孤独な少年とゾンビとの友情が描かれ、大人は残酷で、そしてもちろんゾンビ映画なので、やるべきときにはやることをやる。ステレオタイプから採用されたキャラクターとゾンビテーマを確実に回収したプロットがうまく結合させて見ごたえのある映画に仕上がっている。
ゾンビーノ デラックス版 [DVD]


28週後... (2007)
28 Weeks Later
監督:フアン・カルロス・フレスナディージョ
ドンとアリスの夫婦は田舎の一軒家に難を逃れていたが、感染者の襲撃にあってドンはアリスを見捨てて逃げ出してしまう。やがてすべての感染者が死に絶え、イギリス本土はNATO軍によって治安が回復され、スペインの難民キャンプにいたドンの子供タミーとアンディも帰国する。タミーとアンディはドンから母親の死を知らされ、母親の写真を手に入れるために隔離区域から逃れて家へ走るが、そこで死んだはずの母親アリスと出会い、軍で医療部門を統括する少佐はアリスが感染しているにもかかわらず発症していないことを発見する。少佐が上司にアリスの観察を進言しているあいだにドンがアリスと接触し、瞬時に発症したドンが感染を広げるので軍は非常事態を宣言して街を焼き、感染者も非感染者も見境なしに殺し始める。
前編である『28日後...』よりもまとまりはいい。ロバート・カーライルがきわめてロバート・カーライル的なゾンビに扮していて、そこはそれで面白いし、都市空爆に加え、化学兵器散布といちおうはシステマチックな殲滅作戦が展開し、ヘリコプターの回転翼でゾンビをやっつけるという珍しい場面も登場するが、いまさらストレートな作りをしても結局は単調になるだけなので、実は少々退屈であった。 
28週後... (特別編) [DVD]





REC/レック(2007)
[Rec]
監督:ジャウマ・バラゲロ
TV番組『眠れぬ町』の取材でカメラマンとともに消防署を訪れていたアンヘラは緊急出動する3人の消防士に同行してとあるアパートを訪れ、その一室で狂乱する老婆に遭遇、老婆は警官の首に噛みついて重傷を与え、驚いているうちにうちにアパートは外部から封鎖され、狂乱状態は間もなく唾液によって感染することが明らかになり、住民が次から次へと犠牲になり、逃げ場を失ったアンヘラたちはアパートの最上階に追い詰められる、という話を手持ちカメラによる映像でつないでいる。ゾンビ映画かと思っていたら、そこのところは面白いひねりが加えられていた。それなりに迫力があり、工夫も見えるが、『クローバーフィールド』同様、主観映像のみによる話法の要領の悪さからは逃れられていない。あと、これは好みの問題だが、登場人物がわめきすぎる。 
REC/レック スペシャル・エディション [DVD]





ゾンビランド(2009)
Zombieland
監督:ルーベン・フライシャー
謎の疫病でアメリカはゾンビだらけになり、妙なルールにすがって生き延びてきた引きこもりの若者が大学のあるテキサスから故郷のあるオハイオに向かって旅を始めると、道中でゾンビ殺戮に熱意をかけるカウボーイと出会い、詐欺行為を専門とする姉妹と出会って二度だまされ、それでもなんとなく仲間意識を育みながらなりゆきにしたがってロサンゼルスを目指し、泊まるところを探してビバリーヒルズをさまよって、もぐり込んだ豪邸でまだ生きているビル・マーレイを発見し、ゾンビがいない楽園があるというパシフィックランドへ進んでくとそこにもゾンビが山ほどもいるので互いを助け合って絆を確かめ、引きこもりの若者は英雄的な働きをして自分を一歩前に進める、というきわめてポジティブな指向性のゾンビ映画である。ウディ・ハレルソンをはじめ、登場人物のキャラクターがよくまとめられ、構成もたくみで、映画からの引用が多いダイアログがよく考慮されている。
ゾンビランド [DVD]





処刑山 デッド・スノウ(2009)
Død snø
監督:トミー・ウィルコラ
第二次大戦中、ノルウェイのとある町に駐屯していた300人ほどのドイツ軍部隊が地元の住民に乱暴狼藉を働き、大戦末期になってドイツの敗北が見えてくると、いよいよ乱暴狼藉を働くようになったので、耐えかねた住民が武器を集めて反撃に出てドイツ兵数名を殺害すると残りは住民から奪ったささやかな財宝とともに山に逃れ、そこでいったい何が起こったのかは定かではないものの、つまりそれ以来一個中隊ほどのドイツ軍がゾンビ状態になって山を徘徊することになり、そうとは知らない大学生の男女七名が休暇を過ごすためにこの雪山にやって来てロッジに泊まってツイスターをやったり、斜面でそり遊びをしたり、もちろん不純異性交遊などもしていると、どこからともなく地元の男が現われて地元の秘められた過去を明かし、ロッジの床下からはひどく小さな宝箱も見つかって、箱のなかのささやかな財宝と対面した若者たちがこれで学資のローンを返せるなどと言っているとドイツ軍のゾンビが集団で現われ、しかも指揮官のゾンビは双眼鏡なども持っていて、指揮系統が守られていて、兵士のほうもゾンビの割には意外なくらいに士気が高い、ということで、大学生男女は苦戦を強いられ、ひとりまたひとりと殺されていく。古典的な怪談のプロットに一個中隊分のゾンビをかけあわせ、そこへおそらくはきわめてノルウェイ的であろうと思われる泥臭い笑いをまぶしている。上手に作られた映画ではないが、パワーがある。見ているうちにイーライ・ロスの『キャビン・フィーバー』を思い出していた。
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ザ・ホード 死霊の大群(2009)
La horde
監督:ヤニック・ダアン、バンジャマン・ロシェ
武装した四人の警官が個人的な理由からナイジェリア人の凶悪な兄弟を狙ってパリ郊外のプロジェクトに突入すると突入のしかたに問題があって返り討ちにされて捕虜になり、銃を突きつけられているところへ外がなにやら不穏な様子になってくるのでナイジェリア人の一味が様子を見に行くと廊下も建物の外もいきなり出現したゾンビの群れであふれていて早速一味のチェコ人が食われ、驚いたナイジェリア人一味がゾンビの群れと戦っているあいだに警官たちは屋上へ逃れ、ナイジェリア人一味もそこへやって来て両者はともに手を携えて状況を突破することにして、建物から逃れるために階段を下りていくと階段は同じ建物に住むディエンビエンフーの生き残りによって爆破され、そのディエンビエンフーの生き残りも一行に合流してさらに先へ進んでいくが、とにかくむやみとゾンビが多いので難儀な思いをするのである。血糊の量は壮絶だが、そこから先の描写はどちらかと言えば控え目であろう。狭くて暗い空間でゾンビと戦うというアイデアはそれなりに迫力のある映像に仕上がっていていろいろと頑張りは見えるものの、クローズドショットとカットの長さの対比が悪く、キャラクターが不安定でダイアログに無駄が見え、いくつかのカットはつなぎのために挿入されてどうやら動きを失っている。目立つ失点にもかかわらずヒロインを演じたクロード・ペロンとナイジェリア人ギャングを演じたエリック・エブアニーはそれなりの存在感を発揮していた。交わされる会話がまともなフランス語に聞こえてきて登場人物がまともに会話をしているように見えてくるのがイヴ・ピノー扮する老兵の出現後、というのが面白い。 
ザ・ホード 死霊の大群 [DVD]

Tetsuya Sato