2012年8月10日金曜日

ブラックブック

ブラックブック
Zwartboek
2006年  オランダ・ベルギー・イギリス・ドイツ 144分
監督:ポール・ヴァーホーヴェン

1944年。ドイツ軍占領下のオランダで若いユダヤ人女性ラヘル・シュタインは隠れ家を失い、脱出にも失敗してレジスタンスに身を寄せるが、ドイツ軍に捕らえられた仲間を救い出すためにドイツ軍防諜部のムンツェ大尉に接近する。
ヴァーホーヴェンの監督作品でオランダのレジスタンスというと『女王陛下の戦士』(1977)を思い出すが、30年前のあちらに比べると、こちらは見上げるような大作である。あちらのレジスタンスもいいかげん素人臭い集まりだったが、こちらのレジスタンスも一枚岩にはほど遠く、そしてドイツ軍内部にも悶着があり、両者のあいだを行き来する裏切り者もいて、ほどよく色づけされた登場人物がシンプルに引かれたプロットの上を縦横無尽に動き回る。中盤、話の切り替えしがやや鈍くなるが、厚みのある絵を連ねて丁寧に作られた作品であり、歴史的な視野を確保し、人間の多様性を怠りなく織り込む手つきが好ましい。演出はおおむね勢いがあり、もちろんヴァーホーヴェン節も健在で、猥雑なところでは猥雑になり、暴力的な場面ではとても暴力的になる。観客の生理的な部分へストレートに訴えかけてくるヴァーホーヴェンのスタイルは実に独特だが、これは猥雑さや暴力性を平然と日常的な感覚に織り込んでいくからであろう。ある意味、身も蓋もない。 




Tetsuya Sato