2012年8月12日日曜日

トータル・リコール(2012)

トータル・リコール
Total Recall
2012年 アメリカ/カナダ 118分
監督:レン・ワイズマン

「化学戦争」によって地球のほぼ全土が荒廃して人類が暮らせる場所はイギリスあたりの一か所と、その反対側の一か所(どこなんだ?)に限定され、その反対側の一か所はいちおう国家の体裁を備えているものの、独裁者コーヘイゲンが率いるイギリスのあたりから搾取されていて、それでどうなるかというと搾取されている側の住民は雨がびしょびしょと降り注ぐ巨大な九龍城のような場所で暮らしながら、そこから毎日、地球の真ん中を貫通しているFALLという巨大なエレベーターでイギリスあたりに出勤して工場労働をすることになり、そうして働いているひとり、ダグラス・クエイドが秘密諜報員になる夢を望んでリコール社を訪れ、疑似記憶を買い求めようとしたところ、疑似記憶と現実の記憶になにやら重なっているところが見つかって、なんだこれはと技師が怪しんでいるとそこへいきなり警官隊が踏み込んできてダグラス・クエイドを逮捕しようとするので単なる工場労働者であるところのダグラス・クエイドは本人にも意外な能力を発揮して警官隊を皆殺しにし、自分がしでかしたことに驚いて妻の待つ家へ逃げ帰ると妻は妻ではなくて秘密諜報員だったのでダグラス・クエイドを殺しにかかり、これはいったい何が起きているのかと怪しみながら逃げ出すと秘密の情報がもたらされ、自分に隠された秘密の正体を探るためにイギリスのあたりを訪れるとそこでもすぐに追手がかかり、まもなく判明したところによれば自分が独裁者コーヘイゲンとかかわりがあり、コーヘイゲンと戦うレジスタンスともかかわりがあり、コーヘイゲンのたくらみをはばむためには自分の力が必要であり、そういうことでレジスタンスに与することになったダグラス・クエイドはレジスタンスの指導者と接触する。 
ディックの、というよりも、1990年のポール・ヴァーホーヴェン版のリメイクだが、造形はほぼ正攻法で、当然のことではあるがヴァーホーヴェン版にあったキッチュはない(とはいえ、ところどころに織り込まれたオリジナルからの引用が笑える)。
舞台は火星ではなくて地球に変えられていて、1990年版でシャロン・ストーンとマイケル・アイアンサイドがふたりでやっていた役がケイト・ベッキンセイルひとりにまとめられている。というわけできわめてすっぴんに近いケイト・ベッキンセイルがマイケル・アイアンサイド風にぶち切れていて、なにしろレン・ワイズマンの映画なので例によって用もないのに映り過ぎているという問題があるものの、このぶち切れ方が実はけっこうおもしろい。コリン・ファレルはがんばっているものの、いかにも地味だし、ジェシカ・ビールはメリーナ役としては控えめすぎるし、ビル・ナイは付け足しのようにしか見えない、となると結局のところ、ケイト・ベッキンセイルを見る映画なのか、という気もしないでもないが、地球のあっち側とこっち側の同じと言えば同じような空中都市ぶり、地球を貫通する巨大エレベーター(核付近で重力が逆転する)、エアカー(クレジットではホバーカー)のカーチェイス、コーヘイゲンのいかにもなロボット軍団など、いろいろと見ごたえのあるシーンがあり、全体を見れば決してテンポがいいとは言えないけど、おおむねにおいて悪くないのではないか、というのが感想である。 


Tetsuya Sato