2013年4月15日月曜日

悪女

悪女
Vanity Fair
2004年 イギリス/アメリカ 141分
監督:ミーラー・ナーイル

不安になるほどぞんざいな邦題がついているけど、サッカレー『虚栄の市』の映画化。全六十七章、岩波文庫版(新訳)で全四巻、厚さ八センチになる分量を大幅に刈り込み、適当に脚色している。
監督が『モンスーン・ウェディング』のミーラー・ナーイルと聞いて、それでまったく期待していなかったせいもあるが、そう格別ひどい出来ではない。例によって細部へのこだわりは見ることができたし、登場人物などは大幅に割愛されているものの、いちおうやるべきことはやっていた。ただ、原作の膨大なナレーションをことごとく落としているために、コミカルな要素は著しく後退し、人物の解釈は浅薄になり、なにやら深刻でめそめそした部分が目立つ結果になっている。
美術、衣装は水準をクリアしているが、カメラワークは全体に雑。あの時代に未婚の女性が髪を整えず、ボンネットもつけずに昼間からうろついているのは変であろう。要所にナレーションを挟み込んで、余計な心理描写などは割愛したほうが、もっと面白く、小気味よくなったはずである。リース・ウィザースプーンは見た目にただもう蓮っ葉すぎて、ベッキー・シャープには見えなかった。与えられているキャラクターも異なっていて、原作のベッキー・シャープに比べると、この映画のベッキー・シャープはかなり小物である。ちなみにわたしのイメージではこの役はジュヌビエーヴ・ブジョルドがふさわしい(昔なら)。それからモラ・ガレイもアミリーア・セドリに見えなかったし、スタイン侯爵がガブリエル・バーンというのもよくわからない(もっと怖そうな爺さんでなければならないのである)。そのスタイン侯爵の夜会でおこなわれるシャレードがなぜかいきなりマサラ・ムービーになって踊り出すあたりはさすがにインドの監督であると驚いた。



Tetsuya Sato