2013年4月20日土曜日

リンカーン

リンカーン
Lincoln
2012年 アメリカ 150分
監督:スティーヴン・スピルバーグ

南北戦争末期の1965年1月、南部連合が停戦交渉の開始を望んでいたころ、そのまま停戦に進んで戦争が終われば奴隷解放宣言が単なる宣言に終わって形骸化する可能性を危惧するリンカーンは宣言に法的な裏付けを与えるために憲法修正13条を下院に提出して停戦前の可決を目指すが、そのためには共和党急進派の切り崩し、民主党の取り込みが必要であったので、相手によって声色を変えながら妥協を求め、あるいは甘言で釣り、ロビイストを動かし、時間を稼ぐために南部から訪れた停戦交渉団の存在を隠蔽し、停戦交渉団のワシントン入りを阻み、つまり手段を選ばずに多数派工作を進めて採決にのぞむ。 
リンカーンに扮したダニエル・デイ=ルイスのなりきりぶりはたいへんなもので、リンカーンの表情の背後にたまに素のままのダニエル・デイ=ルイスが見えたりすると、ちょっとびっくりしたりする。急進派議員スティーブンスを演じたトミー・リー・ジョーンズは実に心地よく存在感を発揮していて、これは素朴に見ごたえがあった。一方、ロバート・リンカーンを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットはなぜジョゼフ・ゴードン=レヴィットなのか、ちょっとわからなかったし、リンカーン夫人を演じたサリー・フィールドはいくらか場違いな感じがした。想定されているキャラクターに対してサリー・フィールドのキャラクターが社会的な強度を備えているからであろう。
いわゆる南北戦争の場面は冒頭だけで、あとはほぼ全編が議会工作とその周辺状況に絞られていくが、政治家としてのリンカーンの行動の隙間にはアメリカ史的文脈から決して無視できない、と推定されるリンカーン神話が挿入されていて、この構成が必ずしもうまく消化されていないところにおそらくこの映画の難点がある。作り手の関心の所在にかかわる問題なのかもしれないが、明確に時代色を帯びた議会工作の面白さに比べると神話として提示されるリンカーンはどうかすると取ってつけたようであり、退屈さは否めない。 



Tetsuya Sato