2012年6月26日火曜日

マイケル・ギルモア『心臓を貫かれて』

マイケル・ギルモア『心臓を貫かれて』 翻訳:村上春樹(文春文庫)


1976年に殺人罪で処刑されたゲイリー・ギルモアとその家族の年代記で、著者は一家の四人兄弟の末弟である。絶望が敵意をはぐくみ、暴力を産み落としたのだと言えばたいそう短くてわかりやすいが、その過程を生涯かかって経験するのはたまらない。その結果、次男は二人殺して殺人犯になり、三男は恨みを買って殺されたらしい。あまりにも見事な崩壊ぶりは、人間はどうしてこうなるのかという素朴な疑問でこちらの頭を満たしてくれた。とにかくむごたらしいばかりに業が深い。あんまり業が深いのでこの一家が家を買って住み着くと端から幽霊屋敷になってしまうほどなのである。一読する価値は十分にあったと思うけど、読み通すのはかなり辛かった。出来が悪いからではなく(出来は非常によいと思う)痛々しくて辛かったのである。村上春樹訳というのも辛かった。これも出来が悪いからではなくて、村上春樹の文章には不穏な気配が常に漂っているからである(で、よくよく生理的に合わないようで、実を言うと、わたしはこの人の長編を読み通せたことが一度もない)。




Tetsuya Sato