2012年6月4日月曜日

キャサリン・メリデール『イワンの戦争』

キャサリン・メリデール『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-1945』(訳:松島芳彦、白水社)


第二次大戦におけるロシア兵の心理と行動に関するノンフィクション。
著者はロンドン大学の現代史の教授でソ連史が専門らしい。公開されている公文書(当時のNKVDのものを含む)、日記、手紙、インタビューなどを材料にして、いわゆる冬戦争からいわゆる大祖国戦争の時代を背景に、ソ連政府の軍事政策、プロパガンダ、言わばコムソモール的な社会生活、動員の様子、戦場における兵士の体験、ドイツ軍を国境の外へ追い返してルーマニア、ポーランドへ侵攻したときの兵士の行動、ドイツ領内へ入ってからの数々の蛮行の様子などを報告している。
旧ソ連側の資料にもとづいたロシア兵の蛮行に関する記述はきわめて珍しいが、記述自体は全体に情緒的で、おそらくは必要以上に装飾されている。事実を羅列していれば得ていたはずの資料価値を情緒的な、そしてしばしば必要以上に長大な記述によって大きく損なっているのである。察するに著者はスターリン本人を含むスターリン的なものに激しく反発し、感情的な反応をむきだしにしている。序文からすると相当に広範な調査をおこなった模様だが、歴史的なテキストとしては二級品であると言わざるを得ない。




Tetsuya Sato