2012年6月12日火曜日

イリュージョニスト

イリュージョニスト(2010)
L'illusionniste
監督:シルヴァン・ショメ


初老の手品師タチシェフはどさまわりの末にスコットランド島嶼部へ流れて宿屋の下働きの娘アリスと出会い、タチシェフから靴を与えられたアリスはタチシェフを追って島を離れ、タチシェフの部屋で暮らしながら欲望について目を開き、タチシェフから贈り物を受け取りながら若い男と懇意になり、事実に気づいたタチシェフはアリスの前から姿を消すが、そうするにあたって一言言い添えることを忘れない。
ジャック・タチの原案を『ベルヴィル・ランデヴー』のシルヴァン・ショメが映像化している。パステル系を基調にした色づかいと細密なペン画のようなアニメーションの仕上がりは言葉を失うほどすばらしいし、作品としても質が高いが、なぜだかいつの間にか、アニメーション版『麗しのサブリナ』の未公開特典映像を見ているような気分になった(実際、アリスの造形はオードリー・ヘップバーンに驚くほどよく似ている)。暖炉に向かってあっさりと投げ捨てられる古靴、裸のマネキンの男女の前に並んだ若い男女、といった即物的な表象の強度に対して、おそらくはタチシェフが必要以上に枯れすぎていて、仮に衰退を背景にしているとしても、その枯れたところからあらわれる寡黙な渋さが少しばかり邪魔に見える。 






Tetsuya Sato