2012年6月22日金曜日

300<スリーハンドレッド>

300 <スリーハンドレッド>
300
2007年  アメリカ 117分
監督:ザック・スナイダー

いわゆるペルシア戦争のうち、テルモピュライの戦いを題材にレオニダス率いるスパルタ勢300の全滅ぶりを描く。
フランク・ミラーの原作は1962年の『スパルタ総攻撃』に触発されていると聞いているが、全体に一種の奇形化がほどこされており、ことさらに肉体の存在が強調される。つまりスパルタの重装歩兵はかぶととマントと脛当てを除けば裸体も同然の姿となり、ダヴィッドが描くところの「テルモピュライにおけるレオニダス」との相違はおそらく下穿きの有無にとどめられる。クセルクセスにいたっては事実上のドラッグ・クィーンとして登場し、その幕屋の内部はほとんどフリークショーである。なぜかエピアルテスまでがほとんど怪物同然の姿で現われるが、これに対置されるものが膨れ上がった腹筋を誇るスパルタ勢ということになってくると、創意を越えてデリカシーを疑いたくなってくる。
話はテルモピュライを中心に進むが、プロットは集中力を欠き、なにを考えているのか、監督官たちまで怪物にした上、スパルタ側に親ペルシア勢力などを織り込んでいる。レオニダスの妻がその親ペルシア勢力を相手に孤軍奮闘するような場面を加えているが、これはヒロインを設定するためだけの言い訳であり、バランスを考えれば完全に無用な部分である。残念ながらザック・スナイダーの演出にはそうしたバランスの悪さを押し切るほどの勢いはなく、特に後半、気になった。総じてスパルタ本国の描写は嘘ばっかりを通り越して意味不明だが、テルモピュライについてはスパルタ勢のほかにポキス勢、テスピアイ勢などがいちおう配置され、戦いもきちっと三日にわけておこなっており、初日にメディア軍、二日目に不死隊、最終日には総力戦と切り替えているし、戦いに先立ってペルシア海軍の難破シーンなども描き込んでいる。ギリシア側が早々と密集陣形を捨ててしまう展開には首をかしげたが、察するに地味になるからであろう。
個別に見れば戦闘シーンとその殺陣はとにかく満足できる水準にあり、絵はいささか動作を欠くものの、おおむねにおいて美しい。降って湧いたような異様な造形物として仕上げることにもう少し集中していれば、見ごたえのある映画になったかもしれない。 





Tetsuya Sato