2012年4月25日水曜日

シングルマン

シングルマン
A Single Man
2009年 アメリカ 101分
監督:トム・フォード


大学教授のジョージ・ファルコナーは不快な目覚めを迎えると着替えを済ませて「ジョージ」に変身するが、16年間生活を共にしたジムの突然の死から立ち直れない状態にあり、他者との関係の実現に重きを置くファルコナーは他者と隔絶したまま死を決意し、大学での講義を終えると銀行を訪れて貸金庫から保険証書を回収し、ピストルの銃弾を買い求め、帰宅して遺書をしたため、死体となった自分が着るべき服を用意し、ネクタイの締め方を指定し、それから寝台に横たわってピストルの銃口をくわえるものの、どうにも要領を得ないまま不器用にときを費やすことになり、そこで電話が鳴るので請われるままに旧友の家を訪れて酒を飲み、言葉を交わし、ふたたび帰宅して酒がないことに気づいてバーに出かけ、そこで自分の講義を聴講している学生と出会い、酒を飲み、言葉を交わし、海岸に出かけて裸で泳ぎ、学生をともなって帰宅して暖炉に火をともし、ビールを飲み、言葉を交わし、そのまま眠りに落ちて目覚めると意識が覚醒していることを発見する。
自殺を決めた大学教授が一日を過ごしながら言葉を交わし、回想し、ときには煩悩にしたがって目を動かし、ときには肯定的に他者と交わることを選ぶのである。一日の決意とその場その場における衝動は必ずしも一貫していない。演出は終始淡々としているが、つなぎ方が非常にうまく、絵が魅力に富んでいる。コリン・ファースの演技もまた表情に富み、見ている者を飽きさせない。非常な忍耐をもって丹念に作られた作品である。 






Tetsuya Sato