2012年12月5日水曜日

ジャーヘッド

ジャーヘッド
Jarhead
2005年 アメリカ 123分
監督:サム・メンデス

アンソニー・スオフォード『ジャーヘッド アメリカ海兵隊員の告白』に基づく。
十八歳で海兵隊に入隊したスオフォードは訓練終了後、ペンドルトン基地に配属され、そこでさらに訓練を受けて偵察狙撃小隊の配属となり、みんなで楽しく『地獄の黙示録』を鑑賞し、1990年、湾岸に送られる。そして熱砂の砂漠でNBC防護服をつけて走り、退屈と戦い、銃後に残してきた恋人の貞操に疑問を抱き、やがて戦争が始まるとまず友軍の空爆を受け、イラク兵の死体を目撃し、炎上する油田を眺め、油まみれになり、結局、一発も撃たずに凱旋する。
少なからず感情面が強調された原作を徹底的に咀嚼し、自伝的な要素をあらかた取り除き、おもに戦争に関わる表象を取り出して補足、映画的な改変を加えながら、奥行きのある映像詩に仕立て上げている。表層に漂うモチーフを見て解釈を加えることは簡単だし、造形面に見えた若干の瑕疵(たとえば語り手が崩壊家庭出身であるということは指摘されるだけで機能していない、砂への反応を示す描写には性急さが見える)を指摘することも可能だし、あのM1エイブラムズは撮影用のモックアップだったのか、そうだとすれば『戦火の勇気』で使われたやつの使い回しなのか、でもあれとはだいぶシルエットが、といったことを気にすることも可能だが、ここはむしろ劇映画としてのマスターピースぶりに感心したい。つまり湾岸戦争はこうだった、とか、戦争は悲惨なんだ、とかいったような話はさておいて、すばらしく品位の高い映像が音声、音楽、音響と限りなく有機的に融合し、最後まで続くその流れにゆったりと身を任せていると、これがとてつもなく心地よいのである(それだけに本邦で加えられた無用のボカシがとにかく邪魔であった)。
視点の類似、構成上の類似から『フルメタル・ジャケット』と比較されることが多いようだが、キューブリックのよくも悪くも正直でジャーナリスティックな取り組みに対して、こちらはまず映画であり、その一点において揺るぎを知らない。





Tetsuya Sato