2015年11月11日水曜日

トポス(24) ミュンは予言者たちに自信を与える。

(24)
 予言者の群れが町を襲い、村を襲い、街道を旅する旅人を襲った。人々を杖で打ちのめし、財布を奪い、聞けっと叫んで唾を飛ばした。予言者たちの暴虐をはばめる者は一人もなかった。旅の冒険者たちが人々の懇願を聞き入れて予言者たちに挑戦したが、杖で打たれ、石で打たれ、ことごとくが破れて無惨な死体を野にさらした。予言者には魔法を使う者がいた。魔法玉を使う者もいた。抵抗する者は杖で打たれ、石で打たれ、魔法の力で八つ裂きにされた。予言者たちは一見したところ烏合の衆でしかなかったが、実は組織化されていた。組織化された予言者たちを軍歴を誇る一人の男が率いていた。
 ミュンという名の男だった。ミュンは軍務から退いたあと、予言者となる道を選んで自分の家族に見捨てられた。あるいは家族に捨てられたので予言者となる道を選び取った。ミュンは未来を紡ぐ言葉を探して荒れ野へ入り、そこで多くの予言者と出会った。
 ミュンが荒れ野で見つけた予言者は、どれもが蛸壺のような小さな穴にうずくまって怒りと悲しみを抱えていた。どの予言者も予言が成就しないことに、強い怒りと深い悲しみを抱いていた。世界は未来を紡ぐべき言葉に背を向けて、予言者たちに嘲笑を浴びせた。小さな子供までがわざわざ荒れ野にやって来て、予言者たちに嘲笑を浴びせた。
 ミュンは怒りと悲しみを抱えた予言者たちを荒れ野のみじめな穴から引きずり出した。言葉によって自信を与え、戦う力を引き出した。予言者たちは汚れた衣を洗濯に出し、新しい杖を買いそろえた。予言者たちは戦士になった。

Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.