2015年11月9日月曜日

トポス(22) ヒュン、オロエと出会う。

(22)
 町にオロエという名の娘がいた。オロエはヒュンに恋をしていた。バルコニーを見上げるヒュンにせっせと粉をかけたので、ヒュンもオロエに気を惹かれた。
 オロエがヒュンを手招いた。オロエはヒュンを路地に引き入れて、楡の木の下で愛の言葉を囁いた。楡の木のうしろではコロエが息をひそめていた。そこに隠れてすべてを聞いた。飛び出していってオロエを遮り、ヒュンに愛の言葉を囁いた。オロエがコロエを罵った。コロエもオロエを罵った。掴み合いが始まった。
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが言った。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 楡の木のうしろにはチュンの子分も隠れていた。子分は見たこと聞いたことを残さずチュンに報告した。
 チュンはオロエの父親に金を渡し、オロエは父親の手で修道院に送られた。チュンはコロエを部屋に閉じ込め、ヒュンを捕えて立てなくなるまで殴りつけた。立てなくなると蹴って唾を浴びせかけた。それから子分を一人つけて、南の街道に送り出した。
「邪悪な黒い力が迫っている」とチュンは言った。「おまえが英雄だというのなら、行っておまえの運命と戦ってみろ」
 黒い鳥が翼を広げて空を舞った。瞬くことを知らない目で街道を南へ進むヒュンの姿を見下ろしていた。

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