2015年11月10日火曜日

トポス(23) 邪悪な黒い力が迫っている、と予言者は言う。

(23)
 邪悪な黒い力が迫っている、と予言者は言った。千年にわたる平和と繁栄は突き崩され、偉大なる王国は滅びの道を歩み始める、と予言者は言った。苦難の時代がやって来る、と予言者は言った。災いが大地を覆い尽くす、と予言者は言った。邪悪な黒い力がおまえたちの土地を奪い、邪悪な黒い力がおまえたちの土地を耕すであろう、と予言者は言った。予言者たちが道に並んで、声をそろえて終わりの始まりを叫んでいた。
「世界が終わる」
「終末に備えよ」
「この声を聞け」
 人々は恐怖に震えて家にこもり、予言者たちの叫びに耳をふさいだ。人々が家にこもって耳をふさぐと、予言者たちは窓辺に駆け寄って怒鳴り始めた。人々が窓をふさぐと、予言者たちは窓に石を投げつけた。無数の予言者がどこからともなく現われて、杖を振り上げ、白髪を乱し、あの家この家と囲んでは昼も夜も石を投げ、聞け、と叫んで唾を飛ばした。子供はおびえ、人々は眠りを失った。鶏は卵を産まなくなり、牛は乳を出さなくなった。斧を握って反撃に出る者もいた。決死の形相で予言者たちを追いまわしたが、すぐに囲まれて石で打たれた。予言者たちは扉を破って家々に押し入り、人々の耳をつかんで聞けっと叫んだ。台所の物を勝手に食べ、沸かしたばかりの風呂を使い、ときには女たちを押し倒した。子供からおもちゃを奪い取り、鶏を盗み、荒らした家に火を放った。
「世界が終わる」と人々は叫んだ。
「終末に備えよ」と人々は叫んだ。
「この声を聞け」と予言者たちが唾を飛ばした。

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