2015年1月18日日曜日

Plan-B/ 海蛇

S2-E22
海蛇
 小さな帆船が灰色の帆に風をはらんで、南洋の青い波を乗り越えた。外洋に出て七日目で、九人の乗組員と四人の乗客を乗せ、植民地に届ける郵便物を運んでいた。午後の早い時間に甲板員の一人がそれに気がついた。報告を受けた船長は望遠鏡を目にあてた。甲板員が指差す先にそれがいた。波のあいだから背びれを出して、大きな海蛇が泳いでいた。長さは船の三倍はあった。波を分けて顔を出して、船に向かって近づいてくる。船長は最悪の場合に備えて旋回砲の準備をさせることにした。男たちが甲板を走り、乗客たちはせわしい足音を聞いて何かが始まったことに気がついた。一人が船長に理由をたずね、船長は近づいてくる海蛇を指差した。乗客たちは海蛇の観察を希望したが、船長は船室に下りるように命令した。舵輪の横の旋回砲に火薬と弾が装填された。客室係の少年が砲架の下に砂をまいた。航海士はマスケット銃をかまえている。海蛇が少し向きを変えた。船と並行して進み始めた。二時間ほど並んで走ってから、海蛇は海にもぐって姿を消した。船長はその日の航海日誌に海蛇を目撃したと記入した。しかししばらく考えてから、その部分を二重線で取り消した。

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