2012年7月9日月曜日

イラク 狼の谷

イラク 狼の谷
Kurtlar vadisi - Irak
2006年  トルコ 122分
監督:セルダル・アカル

トルコ映画である。悪いアメリカ人がクルド人と結託して地元のアラブ人とトルコ人をいじめていると、そこへテロリスト同然のトルコ人が仲間と一緒にやってきて、悪いアメリカ人にいやがらせをしたり、狙撃したり、爆弾を仕掛けたりする。
2003年7月に起こったトルコ兵拘束事件が話の起点になっていて、それで恥辱を受けたと感じたトルコ軍将校が自殺し、その旨を記した遺書を主人公ポラット・アレムダルに残すので、主人公がクルド人自治区まで出かけていって仕返しをしているようなのである。
人物の配置は単純化され、対立関係はクルド人代表、アラブ人代表、トルコ人代表を一人ずつ並べることで説明される。だからビリー・ゼイン扮する悪役サム・マーシャルもアメリカ人代表という以上の意味はない。わかりやすいことはわかりやすいが、そのせいでリアリティが著しく乏しくなっている。おまけにプロットは不鮮明で、主人公の復讐の主旨もはっきりしない。もともとはトルコのTVシリーズのキャラクターらしいが、元特殊部隊という設定の割にはやっていることが素人臭いし、それを演ずるネジャーティ・シャシュマズは俳優としては明らかに素人で、ヒーローが二重に素人同然だからなのか、ビリー・ゼインが率いる得体の知れないアメリカ軍もかなりわびしくて、若干の歩兵と妙に寸詰まりなハマーを持っているだけである。
ということで映画自体もかなりわびしい仕上がりだが、結婚式襲撃、アグレイブの蛮行、臓器摘出、という具合にアメリカ軍の悪逆非道ぶりがすごいのと、生活の細部などエキゾチックな描写が面白いのでとりあえず退屈することはない。アグレイブ刑務所の場面でゲイリー・ビジーが医師として登場するが、やせ方が少々気になった。アラブ側でシェイクをやっていたハッサン・マスードがかっこいい。リドリー・スコットの『キングダム・オブ・ヘヴン』でサラディンをやっていたひとである。 




Tetsuya Sato