2012年7月1日日曜日

バトル・フォー・スターリングラード

バトル・フォー・スターリングラード
Oni srazhalis za rodinu
1975年 ソ連 162分
監督・脚本:セルゲイ・ボンダルチュク


1942年の夏。ドイツ軍の攻撃にあって中隊規模にまで減少した連隊はドン川沿いに戦闘を続けながらスターリングラードを目指して撤退する。戦闘は前半で二回ほど。ドイツ軍戦車が丘を越えてわらわらと現われ、農家を破壊し、タコ壺を蹂躙し、対戦車ライフルに撃退される。ソ連軍兵士たちは敵が守勢にまわるのを見るとすぐさま着剣、ウラーと叫んで突撃していた。
原作はショーロホフらしい。セルゲイ・ボンダルチュクの演出プランは『戦争と平和』をほとんどそのまま踏襲していて、吹き上がる爆煙はなにやら芸術的に美しく、戦場にはあきらかに広大な空間があり、兵士たちは文学的に傷を負う。
全編にわたって、というわけではないが、確実に監督の美意識が勝利している瞬間があって、ソ連軍部隊が展開する短いショットにもなぜかはっとさせられた。転落してさかさまになる戦車、炎上する麦畑、暴走するヒツジの群れ、口笛を吹きながら前進してくるドイツ軍、荒野に唐突に出現するおさげの看護婦、といった具合に印象的で魅力的な場面がけっこうある。後半はドン川を渡河したソ連軍残存部隊が再集結してスターリングラードを目指すわけだけど、話のほうは兵士たちが臆病で逃げてきたのではないかと疑う村の住民と、食料確保のためになんとかしたい兵士たちとのやりとりで終わる。戦闘場面で盛り上げることにはこだわらずに、疲れた兵士たちの撤退劇に主軸を置いて雰囲気を出すことに成功している。大祖国戦争的なメッセージとセルゲイ・ボンダルチュク的なかったるさにつきあわなければならないが、ひとかど以上の作品であることは間違いない。ちなみに監督本人も兵士の一人で出演していて、負傷して野戦病院に担ぎ込まれると医師が靴を切り取ったことで延々と恨み言をいい(あんたは人間の仮面をかぶった悪魔だ、人民の敵だ、その靴はまだ一か月しか履いていない新品だ、立派な牛皮でできている)、麻酔なしで手術されると、また恨み言のようなことを言い続ける。




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Tetsuya Sato