2012年3月10日土曜日

ライアンの娘

ライアンの娘(1970)
Ryan's Daughter
監督:デヴィッド・リーン


イースター蜂起(1916)があったころ、イギリスの愚民化政策によってすっかり愚かになった人々が住むアイルランドのとある村で居酒屋を営むライアンの娘ローズは村の学校の教師チャールズ・ショーネシーに愛を打ち明け、すでに中年の領域にあったチャールズ・ショーネシーもまた短い逡巡ののちにローズへの愛を告白し、ふたりは結婚して前戯を省略したカトリック式の交合をおこない、ローズが夫の淡白さに満たされぬ思いを抱いていると近くのイギリス軍駐屯地に西部戦線で負傷した若い将校ランドルフ・ドリアン少佐が着任し、仔細は省くがローズとドリアン少佐は間もなく許されない関係となり、その事実は村の白痴マイケルの行動によって村中が知ることになり、その結果としてローズが村八分にされていると、そこへアイルランド独立の闘士ティム・オリアリーが颯爽と現われ、ドイツから供与された武器を受け取るために嵐のなかを海岸へ出向く屈強の男たちを求めたところ、村中が総出で武器の回収作業を手伝う騒ぎとなり、すっかり感謝したティム・オリアリーがトラックに武器を積んで出発するとイギリス軍が前方にあらわれ、ティム・オリアリーと一味はあっけなく逮捕され、イギリス軍の少佐と関係があるという理由で村人はローズが密告したと確信し、村中総出であらわれてローズの家を包囲する。
多情な娘ローズがサラ・マイルズ、行動に問題のある学校教師がロバート・ミッチャム、シェルショックぶりがなかなかに怖いドリアン少佐がクリストファー・ジョーンズ、村の白痴がジョン・ミルズ、ローズの父親ライアンがレオ・マッカーン、村の神父がトレヴァー・ハワード。おそらくは卓越した演出の成果によって俳優の演技はいずれもいちいち見ごたえがあり、その背後ではアイルランドの空や海、浜辺や森が時間によって表情を変え、荒々しく波を立てて岩を打つ嵐の迫力は半端ではない。ただ、モンタージュと雷管を好むデヴィッド・リーンは俳優にまかせれば済みそうな心理描写を背景を通じてなにかと空間的に補足しようとする傾向があるようで、そこから生じる対象性は面白いものの、必要を超えているようにも感じられる。 
ライアンの娘 特別版 [DVD]

Tetsuya Sato