2012年3月6日火曜日

大いなる幻影

大いなる幻影(1937)
La Grande Illusion
監督:ジャン・ルノワール

1916年の西部戦線。飛行隊のマレシャル中尉は参謀本部からやってきたボアルデュ大尉とともに偵察飛行に飛び立つが、ドイツ軍のパイロット、ラウフェンシュタイン大尉によって撃墜される。捕虜となった二人はまずラウフェンシュタイン大尉の歓待を受け、それから捕虜収容所へ送られる。そこで二人はユダヤ系の裕福なフランス人砲兵将校ローゼンタールと出会い、ローゼンタールの元にフランスから届けられる差し入れの品々によって貧しい食生活の補いとする。そして同房のフランス人たちは収容所の床下に脱出のための穴を掘っていて、秘密を打ち明けられたマレシャルとボアルデュも穴掘りの作業に加わっていく。
さて収容所では捕虜による演芸会の準備が進んでおり、婦人の衣装などが箱詰めになって送り届けられ、それを身につけた捕虜仲間をほかの捕虜仲間が食い入るように見入るというちょっと恐ろしい場面もあり、いよいよ演芸会が開かれて騒がしさもたけなわとなってくると、そこへマレシャルが飛び込んできてドゥオモンが連合軍によって奪回されたと皆に告げる。すると早速ラ・マルセイエーズの合唱となり、収容所当局はマレシャルを独房に監禁する。マレシャルは根っからのパリっ子で仲間から引き離されてフランス語による会話を絶たれると半狂乱の状態に陥るのであったが、これはジャン・ギャバンだから成立するシチュエーションであろう。その有様を気の毒に思ったドイツ兵は差し入れにハーモニカを置き、そのあいだも仲間たちは穴を掘り続け、間もなく脱出というときに独房から解放されたマレシャルが疲労困憊した状態で戻ってくる。そこで決行の日が定められ、フランス人たちが時計をにらんで待っていると、そこへドイツ兵の看守が現われて移動を告げる。マレシャルたちは交替に送り込まれてきたイギリス軍の捕虜たちにトンネルの存在を知らせようと試みるが、先方はフランス語をまったく解さなかった。
そののち、マレシャルとボアルデュは収容所を転々としながら脱走未遂を繰り返し、最後に送り届けられた城塞のなかの収容所でラウフェンシュタイン少佐と再会する。脊椎に損傷を負って飛べなくなり、収容所の所長となっていたが、変わらずに礼節をもって振る舞い、特にボアルデュに対してはいずれも貴族であるという理由から普通以上の親愛を示し、一方、マレシャルやローゼンタールに対しては庶民である、ユダヤ人であるという理由から品位を損なわない程度に軽蔑を示す。そういう理由につきあわされるマレシャルやローゼンタールにしてみれば、なんともいい迷惑であろう。
マレシャルたちはここでも脱走を計画し、窓から城壁を伝って逃げるためのロープを作り、決行の日を定めると収容所の全員で騒ぎを起こして夜間点呼がおこなわれるようにわざわざ仕向け、そのあいだにまずボアルデュが行方をくらましておとりとなり、ボアルデュが警備兵の射線上をうろつくあいだにマレシャルとローゼンタールが脱出を果たす。そしてラウフェンシュタインはボアルデュの背後に現われ、降伏するようにと親愛を込めて勧告する。だがボアルデュは降伏を拒み、ラウフェンシュタインはやむなく拳銃を抜き、ボアルデュは言わばこの貴族的崇高に背後から撃たれて死に至り、ラウフェンシュタインは大事にしていたゼラニウムの花を切り落とす。城塞には苔しか生えないので、手向けようにもほかに花がないからであろう。冒頭でドイツ軍航空隊のバラックに登場した巨大な花輪がこれの伏線だったのかもしれない。
一方、マレシャルとローゼンタールの二人は疲労の果てに喧嘩をしながらスイス国境を目指して歩き続け、途中、一軒の農家に転がり込んで手当てを受ける。その家では戦争で後家となった女が娘と二人で暮らしていて、マレシャルとローゼンタールはここに腰を落ち着けてクリスマスを迎え、マレシャルは後家エルザと愛を交わし、戦後を待って迎えに来ると約束する。それからマレシャルとローゼンタールはスイス国境を目指して旅立ち、ドイツ軍の歩哨線をくぐり抜けて目的を達する。
この頃のジャン・ギャバンは実にいいし、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムがいつ見てもエーリッヒ・フォン・シュトロハイムなのは面白いし、連合軍捕虜の国際色豊かな描写は楽しいが(セネガル兵までいる)、後半の脱走の話に入ってくるとゼラニウムの場面から逆算して起こしてきたような不自然な展開が気にかかる。1937年という製作年度がすべてを説明しているのかもしれないが、慌ただしく場面がつながれているだけのように見えるのである。




Tetsuya Sato