2011年12月30日金曜日

ウォーキング・デッド

ロバート・カークマン『ウォーキング・デッド』(風間賢二訳、飛鳥新社) 


ジョージ・A・ロメロ的な、いわゆる世界観を踏襲したグラフィック・ノベル。
ケンタッキーの警官リックは逃走中の犯人に撃たれて病院へ運ばれ、昏睡状態から目覚めて医師も看護師もいないことを不審に思い、病院内を歩いてゾンビの群れと遭遇し、どうにか帰宅すると家も無人になっていて家族の行方もわからないので途方に暮れていると、隣家を占拠した親子からアトランタに関する話を聞き、妻と息子はそこへ逃れたのではないかと考えてアトランタを目指すが、安全なはずのアトランタはゾンビであふれ、あやういところを若者に救われて郊外のキャンプへ導かれ、リックはそこで妻と息子と再会を果たすが、間もなくキャンプにもゾンビが現われるので、リックをリーダーにキャンプのメンバーはアトランタを離れて安全な場所を求めて旅を始める。
絵は迫力があり、慎重にデザインされたコマ割りと場面のつなぎ方は面白い。翻訳版には3章までが収録され、アメリカ本国でも現時点ではまだ完結していない。極限状態に置かれた人間の変容と人間の対立に主要な関心が向けられているとのことで、いわゆる人間ドラマに主軸が置かれてゾンビはもっぱら背景にしりぞき、キャラクターはいずれも特徴的で、内面の告白を躊躇しない。つまりロメロの作品にある上映時間という制約をまったく受けていないので、登場人物はやや過剰になり、ダイアログもまたやや過剰気味になっている。この世界に耽溺したいという意図によってそうなっているようなので、まさしく意図したとおりの作品になっているということになるが、わたしの好みからすると長すぎるし、全貌が見えないところで評価を下すのは難しい。



Tetsuya Sato