2011年12月3日土曜日

オリバー・ツイスト 1948 - 2005

オリヴァ・ツイスト(1948)
監督:デビッド・リーン
オリバー・ツイストに扮したジョン・ハワード・デイヴィス少年のいかにも薄幸そうな風情がなんというのか、薄幸そうなのである。それがまた救貧院育ちとは思えないようなていねいな話し方をするので薄幸ぶりがいやまして、ますます薄幸そうに見えるのである。アレック・ギネスは大胆な付け鼻を付けてフェイギン役で登場し、ロバート・ニュートン扮するサイクスは実に凶悪に犯行を働く。デビッド・リーンの演出は滑らかで多彩な登場人物を手際よく描き分けながら多弁を弄さずに話を進め、サイクスのナンシー殺害の場面、そのサイクスが群衆に追い詰められるクライマックスでは大胆な演出力を発揮している。




オリバー!(1968)
監督:キャロル・リード
ライオネル・バートによるミュージカルの映画化。フェイギン役のロン・ムーディ、ドジャー役のジャック・ワイルドが芸達者なところを披露し、ビル・サイクス役のオリバー・リードも存在感を示しているが、オリバー・ツイストに扮するマーク・レスターはその辺の石ころも同然である。事実上の主役はフェイギンで、ミュージカル・ナンバーもいいところはやはりフェイギンに集中している。キャロル・リードの演出はていねいだが、舞台を映画に載せたという以上のものではなく、映像的には格別の精彩はない。
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オリバー・ツイスト(2005)
監督:ロマン・ポランスキー
もともと非常にバランスの悪い原作からエピソードを刈り込み、登場人物を刈り込まなければならないので、『オリバー・ツイスト』の映画化では脚本の出来不出来がものを言う。残念ながらこのポランスキー版は必ずしも脚本に恵まれていない。サイクスが狙いを付けた家がなぜかブラウンロー氏の家に変えられているが、そうなるとモンクスをストーリーから排除した理由がわからなくなるし、ドジャーになんでもやらせてしまうのはいつものことだとしても、今回はその処理のまずさがあってドジャーとナンシーの関係が不明瞭になり、チャーリー・ベイツ対サイクスのエピソードまでドジャーに割り振ってしまった結果、ますますドジャーのキャラクターが不鮮明になっている。サイクス、ナンシーの書き込みにも甘さが見える。演技陣にも疑問がある。ベン・キングズレーはフェイギンを熱演しているが、アレック・ギネスのコピーのように感じられた。いっそアラン・リックマンあたりがやっていれば、もっと面白くなったのではあるまいか。バーニー・クラークのオリバーは少しばかりふてぶてしくて、言うほど無垢には見えてこない。むしろ、どこかに二心を感じさせた(あの眼鏡はなに?)。出演者は総じて魅力に乏しい(ブルズ・アイに扮したターボはよかったが)。あえて文芸路線に踏み込み、原作から細部を取り込もうとした勇気は認めなければならないが、この素材はやはり芸達者をほどよく配して演芸会にすべきではなかったか。ロンドンの街頭の雑踏からリトル・サフラン・ヒルへといたる道筋では 『戦場のピアニスト』のゲットーを彷彿とさせるパノラマ的な描写がおこなわれ、そこに繰り広げられる景観は楽しいものの、演出自体は必ずしも成功していない。オリバーを手前に置いたために、背景に対してカメラが引きすぎたせいであろう。非常に美しい映画ではあるが、デザイン上の失策が目立つ。ついでながら、後段でバンブル夫妻が登場しないのは、約束違反ではないだろうか。 デヴィッド・リーン版には及ばない。
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Tetsuya Sato