2011年12月26日月曜日

ヘンリー・コスター『ハーヴェイ』(1950)

ハーヴェイ(1950)
Harvey
監督:ヘンリー・コスター


未亡人のヴィータ・ルイズ・シモンズは娘のマートル・マエとともに弟エルウッド・P・ダウドの家で暮らしていたが、それというのも弟エルウッド・Pが母親の遺産を独り占めしていたからであった。ヴィータの現在の野心は娘マートル・マエにふさわしい嫁入り先を見つけることにあったが、弟エルウッド・Pには身長6フィート2インチ半の巨大な白ウサギが常にへばりついているという問題があり、なお悪いことにこの白ウサギ、ハーヴェイは誰にでも見えるわけではなく、にもかかわらずエルウッド・Pがハーヴェイを誰にでも紹介するために事態をさらに悪化させている。娘のために仕込んだ午後の茶会をエルウッド・Pとハーヴェイに台無しにされたヴィータは決断を下し、間もなく四十二歳になるこの弟を精神病院に送り込むべく手続きを進めていくが、応対に出たケリー看護婦はサンダーソン医師に見とれて要領を得ず、ヴィータの説明もまた要領を得ず、一方、サンダーソン医師自身にもどうやら女性の発言に慎重に耳を傾けないという欠陥があり、そういうことでエルウッド・Pは解放され、代わりにヴィータが恐ろしい看護士ウィルソンに担ぎ上げられ隔離室へ放り込まれる。幸いなことに誤解は解けてヴィータは解放されるが、肝心のエルウッド・Pは姿を消したハーヴェイを追って姿を消し、事態を重視した病院長のチャムリー博士は看護士ウィルソンとともにエルウッド・Pを追い、自宅に戻ったヴィータは病院を訴えるべく弁護士を呼び、その自宅には恐ろしい看護士ウィルソンが現われてマートル・マエと恋に落ち、戻らないチャムリー博士を探して町へ出たサンダーソン医師とケリー看護婦はバーでエルウッド・Pを発見する。エルウッド・Pの説明によればチャムリー博士はハーヴェイとともにバーを変えていたが、そのチャムリー博士はなにかに追われる様子で病院へ戻り、残りの面々も次から次へと病院へ駆けつけ、心の叫びに静かに寄り添っていくような不思議な陰影を背負った結末へと向かっていく。
ブロードウェイの舞台からの翻案。ダイアログはよくこなれており、キャラクターの配置も目配りが利いていて、気取ってお茶会に現われる中産階級からバーの片隅のくすんだ老人まで魅力的に描かれる。観客が実際にハーヴェイを目にすることはついにないが、それでもジェームズ・スチュアートの視線の先に次第に現われてくるところはなかなかにすごい。そしてジェームズ・スチュアートの浮世離れした義人のような表情が実に印象深かった。こういう雰囲気に弱いのである。「バーでは重要でない話をする人なんか一人もいません」という台詞がいい。
ハーヴェイ [DVD]

Tetsuya Sato