2016年5月26日木曜日

トポス(186) ピュンは仲間を集めていく。

(186)
「俺は炭鉱に送られた」とピュンは言った。「ゾンビだけで編成された作業班で、休みなしに石炭を掘っていた。休みなしってのは文字どおりで、二十四時間休憩なしだ。ゾンビだから食事も、休ませるためのバラックもいらなかった。人間にくらべると少しばかり動作が遅いだけで、出勤退勤のための時間も節約できたから、人間で編成された作業班よりも生産性が高かった。非人間的な環境だと、俺たちはすごく優秀なんだ。だから俺は収容所管理当局に提案した。ゾンビの作業班を増やしてみたらどうかって。で、実験的に隣にいた作業班をゾンビにした。ゾンビに入れ替えたんじゃなくて、俺たちが襲いかかってゾンビにした。そうしたら生産性がちゃんと上がった。実験が結果を出したんで、俺たちは収容所管理当局の命令で作業班をどんどんゾンビに変えていった。生産性はさらに上がったけど、そうなると費用対効果が悪いのが武装警備班だ。こいつらは人間だから休憩が必要だし、食事もしなきゃならないし、シフトを維持するために余計な人員も必要になる。おまけに給料だって必要だ。で、俺はもう一度提案したんだ。あの連中もゾンビに変えたらどうかって。すでに十分な実績があったから、収容所管理当局もすぐに乗り気になったんだ。交替が必要ないし給料も必要ないなんてすごいじゃないか、というわけさ。そういうことで武装警備班もゾンビになった。残るのは収容所管理当局だ。これは、別に説得も提案もしなかった。俺たちはいっぱいいたし、武器も俺たちの手にあった。ただ包囲して、襲いかかればよかったんだ。まったく、間抜けなやつらだよ。で、みんなゾンビなったけど、仕事は続けた。正確には、仕事を続けるふりを続けた。それらしい報告書を送りながら、しばらく機会を待つことにしたんだ。ついでにまわりの収容所にもゾンビの作業班を送り込んだ。生産性の高さを実証して、提案を繰り返して仲間を増やして、最後に収容所を乗っ取った。けっこうな数になったところで、俺たちは山を下りることにした」

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