2016年5月21日土曜日

トポス(183) 戦いが終わり、復興が始まる。

(183)
「政府と軍の英雄的な働きによって、国家は危機を克服した」森の中の木にくくりつけられたスピーカーから威嚇的な声が響いた。「反逆者どもの勢力は一掃され、国家の基盤は磐石となった。だが警戒を怠ってはならない。いまこそ国民は一致団結し、いっそうの警戒心を発揮して新たな反逆者の出現に備えるのだ。反逆者はあらゆる場所にひそんでいる。善良な市民の皮をかぶって我々のあいだにひそんでいる。国家を愛する純粋な心にしたがって、卑劣な反逆者どもを発見しよう。同僚を監視し、隣人を監視し、家族を疑い、反逆の種が芽吹く前に発見しよう。そして週末を返上して、国家の復興に奉仕しよう。反逆者どもの蛮行によって国家は著しく荒廃した。国家は復興を必要としている。復興のために全国民の協力を必要としている。すでに全国のすべての学校で学生、生徒、児童による集会が開催され、全会一致で復興債の購入と週末労働への参加が決議された。全国のすべての工場で工員たちの集会が開催され、ここでも全会一致で復興債の購入と週末労働への参加が決議された。エルフの森でも全エルフの集会が開催され、復興債の購入と週末労働への参加が決議された。エルフたちは食料と毛布の拠出も決議した。国家の復興が完了するまで食料も毛布も一切必要としないとエルフたちは宣言した。エルフたちの献身と奉仕に拍手を送ろう。エルフから拠出された食料と毛布は避難民に優先的に供与される。政府はエルフたちの英雄的な決議を記念して、今月を特別復興強化月間に指定した。いまこの瞬間にも全国各地で多数の志願労働者が復興のために働いている。彼らは未踏の森に分け入って復興のために木を伐り出し、泥にまみれて粘土を掘り出し、復興のための煉瓦を焼いている。志願労働者たちは毎日十八時間の労働に耐え、国家に奉仕できることを喜んでいる。志願労働者たちに拍手を送ろう」

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