2016年5月11日水曜日

トポス(174) ミュンは未来に希望をつなぐ。

(174)
「予言が成就しつつある」とミュンが言った。
 ドアを激しく叩く音が室内に響いた。開けろと叫ぶ声が聞こえた。学生たちはドアの前にバリケードを築いていた。シロエとほかの数人は暖炉で書類を焼いていた。荒々しい音とともにドアが裂け、斧の切っ先が顔を出した。切っ先が引っ込み、裂け目の向こうに警察官の目が覗いた。斧が再び振り下ろされ、裂け目が広がり、開けろと叫ぶ声がまた聞こえた。ミュンは胸をふくらませて学生たちに話しかけた。
「諸君、諸君はよく戦った。数々の困難を克服し、不可能を可能にし、あと一歩というところまで、諸君は実によくがんばった。ギュンさえいなければと思う気持ちはやはりどうしても隠せないが、あの愚か者があそこで余計なことをしなければと思うとどうしても怒りがこみ上げてくるが、実際のところなぜあそこで顔を出してきたのかと思うと心が激しく乱れるのだが。だが、これまでだ。我々は強権の前に敗北した。しかしこれで革命の火が消えるわけではない。革命は不滅だ。敗北はしたが屈服はしない。この世に強権がある限り、革命の意志は引き継がれる。諸君が引き継ぎ、そして再び大きな篝火を燃やすのだ。実はこのようなこともあろうかと、暖炉のうしろに脱出路を用意してある。脱出したまえ。連中の目当てはわたしだけだ。諸君が捕まる必要はない。さようなら。諸君とともに行動できたことを誇りに思う」
 学生たちは慌ただしく暖炉の火を消して煉瓦に隠されたドアを開いた。一人また一人と秘密のドアをくぐって逃げ出していく。そうするあいだにも斧が何度となく振り下ろされ、警官たちの怒声が飛ぶ。
「さようなら」
 シロエもそう言って、暖炉の奥に消えていった。煉瓦で隠されたドアが閉ざされると、ミュンは暖炉に火をともした。バリケードが突き崩され、警官たちがなだれ込んだ。
「降伏する」
 両手を上げてミュンが言った。

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