2016年5月14日土曜日

トポス(177) オークの軍勢が再集結する。

(177)
 邪悪な黒い力は生き残ったオークやトロールを掻き集めて火を噴く山のふもとに急がせていた。邪悪な黒い力は、力をたくわえる必要があった。力をたくわえるためには、火を噴く山のふもとの壁に新たな割れ目を作る必要があった。邪悪な黒い力に急かされて、オークたちは走り続けた。オークたちは火を噴く山のふもとにたどり着いて、そこで強力な砲火にさらされた。政府軍が壁を背にして陣地を作り、機銃と大砲を並べていた。接近しようとすると小銃弾や機銃弾が雨のように降り注ぎ、接地信管を備えた榴弾がオークやトロールを吹き飛ばした。壁へ近づくための唯一の道は二つの機銃陣地で守られていて、そこを突破するのは容易ではなかった。オークたちは塹壕を掘り、塹壕の前に土嚢を積み上げ、陣地を作って政府軍と対峙した。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」と邪悪な黒い力が言った。「状況はわたしに不利に働いていた。時間がなかった。力を失えば、影響力を失うことがわかっていた。わたしはオークの指揮官に正面突破を要請したが、オークの指揮官は慎重だった。わたしが急いでいるというのに、オークの指揮官は慎重に事を運ぶべきだと主張した。わたし、邪悪な黒い力は言う。わたしは力を失いつつあった。あきらかに影響力が低下していた」
 オークの指揮官は敵の陣地に向かって対抗壕を掘り始めた。少なくとも二本の対抗壕が敵の機銃陣地に向かって伸びていった。オークもトロールも不眠不休で働いた。過労で倒れるオークもいた。働くオークやトロールの頭上でキャニスター弾が炸裂して無数の散弾をばら撒いた。死者が出た。負傷者が出た。死体は前線に放置されて悪臭を放ち、負傷者は後方の野戦病院に運ばれたが、そこでは医師も医薬品も不足していた。痛みを訴え、水を求める負傷者の叫びは夜になってもやむことはなかった。

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