2016年4月19日火曜日

トポス(160) 少女は伝説になる。

(160)
 革命派武装勢力の先鋒がオークの軍団と遭遇し、すぐに小競り合いが始まった。双方が戦力を増強すると市街戦に発展した。オークの機銃陣地に向かって革命派の兵士たちが虚しい突撃を繰り返した。オークが戦車を送り込むと革命派の兵士たちは火炎瓶で対抗した。オークは圧倒的な数と力で押しまくり、革命派の兵士たちは劣勢に立った。オークの戦車が革命派の野戦病院に迫っていた。包帯に血をにじませた負傷者が武器を取って抵抗した。戦車が弾を弾いて突き進んだ。希望が失われかけたとき、志願看護師をしていた一人の少女が手榴弾を胸に抱いて飛び出した。たった一人でオークの戦車に突撃した。轟然と起こった爆発とともにオークの戦車が燃え上がった。看護師の少女は伝説になった。伝説によれば、少女は膝丈のスカートをはいていた。腰を下ろしたときに膝小僧が見えたのを覚えている、と男たちは口をそろえた。スカートなんかはいてなかった、と女たちは口をそろえた。それに忙しくて座っている暇など一度もなかった、と女たちは口をそろえた。いずれにしても伝説になった少女は革命派の兵士たちの心に勇気を与えた。革命派は犠牲を顧みずにオークに向かって猛攻を加え、オークの軍勢は拠点を確保して反撃を続け、市街戦は一室一室を取りあう戦いになった。だが最終的にはどちらかが勝利を掴むことになるだろう。そして王宮への進撃を再開することになるだろう。
 クロエは革命派とオークの交戦区域に空爆を命じた。
「しかし、まだ一般市民が」
 参謀たちは反対した。
「選択の余地はありません」
 蒼ざめた顔の参謀が野戦電話のハンドルをまわした。飛行場に待機していた攻撃機が爆弾を抱いて舞い上がった。爆弾が投下され、直撃を受けた家々が爆風とともに瓦礫を飛ばし、家財の破片を吐き出した。町は火の海になり、革命派が吹っ飛び、オークが吹っ飛び、逃げ惑う市民が吹っ飛んだ。野戦病院も吹っ飛んだ。
 電話が鳴り、クロエが取った。
「あなたに」
 クロエが受話器を差し出した。
「誰から?」
 ネロエが受話器を耳にあてた。
 くくくくく、と所長が笑った。

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