2016年4月15日金曜日

トポス(157) ギュンがミュンを批判する。

(157)
「わたしは科学的に考え、そして科学的に行動する」とギュンはいつも話していた。「わたしはヒュンを追って夜の町に入っていった。道を渡り、川にかかった橋を渡り、工場が煙突を並べる一帯へ、いわゆる貧困層が集中して居住している一帯へ入っていった。そこには忘れられた人々がいた。人類の進歩からも、科学の発展からも忘れられた人々がいた。つまり、まったく無用の人々がいた。わたしはこの顔を失った人々のあいだを縫ってヒュンを追いかけ、ヒュンが酒場に入るのを確認した。わたしもその酒場に入ったが、店の中にヒュンの姿を見つけることはできなかった。そこでわたしは店の裏手にまわり、裏口の戸に耳を押し当てた。戸の上に小さな換気窓があるのに気がついて、そこから中を覗き込んだ。徹底して科学者であるわたしには不可能はない。その部屋はいわゆる革命派のアジトだった。部屋の中にヒュンがいた。そして驚くべきことにミュンもいた。刑務所の重禁固監房で呻吟しているはずのミュンがいて、自信に満ちた口ぶりで顔を見たこともない革命的労農大衆について話していた。言うまでもないが、例によってミュンは現実的な視点を失っていた。予言の成就にこだわるあまり、独学者ぞろいの革命家がふりかざす空論にかぶれて現実を見失っていた。ミュンが言うところの革命的労農大衆とは、安酒で憂さを晴らしている無用の人々にほかならない。ミュンは自分のやり方でうまくいくと信じていた。しかし少しばかり科学的に考えてみればわかることだが、そのようなことはあり得ないのだ。言うまでもないが、これはわたしが知っているとおりのミュンだった。ミュンは何一つとして満足に事を運ぶことができないのだ。そしてわたしの利益を損なうのだ。わたしは状況を正常化しなければならないと思った」

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.