2016年4月9日土曜日

トポス(152) ピュンは町に潜入する。

(152)
「そいつ、ロボットだったんだよ」とピュンが言った。「所長が作った人間そっくりのやつだったけど、邪悪な黒い力はすぐに正体を見破ったらしい。それだけじゃない。邪悪な黒い力ってのは俺たちが考える以上に狡猾だったんだ。所長はロボットを人間そっくりにするために、高度な人工知能を埋め込んでいた。人間そっくりのロボットはただ外見がそっくりっていうだけじゃない、人間的な感情も備えていた。笑うことも悲しむことも、怒ることもできたんだ。邪悪な黒い力はロボットに不安を吹き込んだ。おまえはどこから来てどこへ行くのか、あと何年生きるのか。人工知能で生存本能を強化されて、利己的な思考ができるようになったロボットには、これだけで十分だったんだ。自分はいま何歳なのか、自分はいったいあと何年生きられるのか、ロボットは不安を感じ始めた。そこへ邪悪な黒い力が追い討ちをかけた。答えは所長が知っているって、そう言ったんだ。邪悪な黒い力がどうしてそれを知っていたのか、俺にはさっぱりわからないけど、所長が知っているってのは本当だった。どうかすると人間以上の能力を備えているロボットを、実は所長は恐れていた。だから短命化プログラムを仕込んでいた。人間そっくりのロボットはふつうのロボットよりも寿命が短かったんだ。ロボットは取調室から飛び出した。所長を探して答えを聞き出すつもりだった。もちろん所長はロボットの行動をモニターしていたし、指令から逸脱したロボットを放置できないこともわかっていた。処分するために何台かのロボットを送り込んだけど、返り討ちにあって壊された。奴は危険に気がついて町のどこかに潜伏した。だから所長は俺を呼んだんだんだ。所長の指令は単純だった。俺は人間に化けて町に潜入した」

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