2015年9月24日木曜日

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2012年 チリ/アメリカ/フランス/メキシコ 118分
監督:パブロ・ラライン

1973年のクーデターから15年後、ピノチェット政権の信任を問う国民投票がおこなわれることになり、反対勢力にも投票までの27日間、深夜に15分間だけテレビの放送枠が認められたので、潜伏していた革新派勢力は与えられた15分間で弾圧の悲劇を訴えようと考えるが、広告代理店に勤めるレネ・サアベドラは番組の製作を依頼されると革新派勢力の方針を暗いという理由で拒否して明るいCMを作り始め、できあがったコーラのCMのようなしろものを見て革新派勢力の一部は憤激して離脱、しかしレネ・サアベドラは確信にもとづいてCMの製作を続け、すると敗北が決まっていたはずの反対派にいつの間にか支持が集まり、危機感を抱いた政府当局は反対派をまねたCMの作成を始め、そこに反対派への中傷を加えたので双方がネガティブ・キャンペーンを貼る形になり、そうしているうちに国民投票の日が訪れ、ピノチェットの退陣が決まる。 
サンチャゴには広告代理店が一つしかないのか、反対派のCMと賛成派のCMを事実上、同じ会社で作っていて、コーラだろうが独裁政権の信任だろうがなんだろうが、基本的に全部同じ次元、というプロぶりはたぶん誉めるべきなのだろう。そういう仕事をしながらどこかで本心を押し殺しているように見える主人公の広告屋をガエル・ガルシア・ベルナルが演じていい味を出していた。ドキュメンタリー調の絵が80年代のホームムービーを思わせる水準で、理由があってわざとやっているのか、それともただそうなっただけなのか、最後までわからなかったが、素材はきわめて興味深いし、こなれた人物造形とダイアログが非常によくできていて、特に中盤以降は息もつけない展開になる。「賛成派」製作のピノチェット賛歌がまるでどこかの「将軍様」賛歌で、字幕もほうもちゃんと「将軍様」になっていた。 


Tetsuya Sato