2015年10月13日火曜日

『Terracity - テラシティ』 第十三話 栄光のテラシティ

第十三話
栄光のテラシティ
 テラシティの市民はテラシティの平和を覆そうとたくらんだ恐るべき陰謀の存在を知って驚愕した。そして賢明なアダー執政官と勇敢なアダム・ラーの超人的な活躍で陰謀に加担したすべての悪党が捕えられ、恐るべき陰謀が完全に叩きつぶされたことを知って安心した。アダー執政官の特別行政処置によって悪党ども全員に死刑が言い渡されたことを知ると当然のことだと叫んで深くうなずき、悪党どもの処刑が教育的見地にもとづいて市民に公開されることを知ると学習の機会を求めてテラパークに押し寄せた。テラシティ市民の憩いの場、恋人たちの語らいの場、テラパークの円形の広場に鋼鉄の頼もしい輝きを放つ処刑台が置かれ、ぴったりとした金属繊維の服を着た人々は処刑台を囲んで人込みに驚き、人込みのなかから知り合いの顔を探して挨拶を交わし、善と悪、罪と罰について語り合った。そしてそのあいだを氷菓の売り子が、甘草水の売り子が呼び声を上げて練り歩き、人形売りが首に縄のかかった悪党どもの人形をバラやセットで売り歩いた。
「氷菓だよ、できたてのほやほやの氷菓だよ」
「甘草水、甘くて冷たい甘草水はいらないか」
「悪党どもの人形だよ、記念にどうだい? アルタイラとアデライダのセットが人気だよ。アデライダはメイド服を着ているよ」
 処刑台の上に処刑人が現われた。顔をすっかり覆う革の頭巾をかぶった処刑人は処刑台に何本となく下がる首吊りの縄の一つひとつを丹念に調べ、縄の下に置かれた踏み台の一つひとつの位置を調整した。
 明るい陽射しが処刑台と処刑台を囲むテラシティの市民に降り注いだ。金属繊維の服がまばゆいばかりの輝きを放ち、そのざわめく光のせいで多くの市民が頭痛を味わい、めまいを起こして数人が倒れた。日射病で倒れて担架で運ばれる者もいた。
 歴代執政官の銅像が並ぶ道を、灰色のやせ馬に牽かれた一台の馬車が近づいてきた。荷台には鉄製の檻があり、檻のなかでは恐るべき陰謀をたくらんだ悪党どもがそろって後ろ手に縛られて、間もなく訪れる分相応の最期をそれぞれに思い、顔を絶望と悔恨、あるいは憎悪と怒りにゆがめていた。
 アダー執政官によって希代の極悪人と非難されたアルタイラの姿がそこにあった。アルタイラの悪の手先、残忍な殺戮者と非難されたアデライダの姿もそこにあった。テラシティの裏切り者、あらゆる罰に値すると非難されたラグーナの姿もそこにあった。狡猾で破廉恥と非難された金星人の悪党ヴァイパーもいた。火星人の悪党ゴラッグもいた。ヴィゾーもいた。セプテムもいた。トロッグもいた。そして全人類の裏切り者と非難されたロイド博士と白衣をまとう技師たちがいた。いたぞ、と叫んだ警官もいた。
 テラシティの善良な市民が悪党どもに向かってこぶしを振り上げ、罵声を浴びせた。唾を吐きかける者もいた。石を投げつける者もいた。悪党どもを乗せた馬車は市民のあいだへ割って入り、ゆっくりと処刑台に近づいていった。馬車が処刑台の脇にとまった。青いヘルメットをかぶった警官たちが黒い警棒を手にして走り寄り、檻のとびらを開けて悪党どもを引きずり出すと、次から次へと処刑台に追い上げた。
 顔に絶望と悔恨を、あるいは憎悪と怒りを浮かべた悪党どもが処刑台の上に並び、処刑人がその一人ひとりの首に縄をかけ、警官たちが警棒を振って一人ひとりを踏み台に立たせた。処刑人が非情の縄を引き絞ると、悪党どもが爪先で立った。
 恐るべき悪党アルタイラが何かをしきりと叫んでいた。
 残忍な殺戮者アデライダも何かをしきりと叫んでいた。
 全人類の裏切り者ロイド博士も叫んでいた。ラグーナも何かを叫んでいた。ヴァイパーも叫んでいた。セプテムも叫んでいた。ゴラッグもトロッグもヴィゾーも何かを叫んでいたが、悪党の言葉に耳を傾けるような市民はもちろん一人もいなかった。
 処刑台を取り巻く市民が歓声を上げた。アダー執政官が処刑台の上に現われ。盛大な拍手で迎えられた。執政官がゆっくりと両手を上げると拍手がやんだ。
「テラシティの善良なる市民諸君」執政官の増幅された声が広場に響いた。「恐るべき陰謀との戦いは終わった。正義が、秩序が、平和が、テラシティが勝利したのだ」
 拍手が起こった。執政官がゆっくりと両手を上げると拍手がやんだ。
「テラシティの善良なる市民諸君」執政官の増幅された声が広場に響いた。「いかにも正義は勝利した。平和は、テラシティは勝利した。しかし、まだ終わりではない」
 執政官が処刑台の上に並ぶ悪党どもを指差した。
「テラシティの善良なる市民諸君」執政官の増幅された声が広場に響いた。「悪党どもはまだ生きている。悪党どもが生きている限り、悪党どもの悪事に終わりはない」
 テラシティの善良な市民が悪党どもに罵声を浴びせた。
 唾を吐きかける者もいた。
 石を投げつける者もいた。
「テラシティの善良なる市民諸君」執政官の増幅された声が広場に響いた。「我々は、悪党どもの悪事を終わらせなければならないのだ。いまこの場で終わらせるのだ」
 拍手が起こった。執政官がゆっくりと両手を上げると拍手がやんだ。
「テラシティの善良なる市民諸君」執政官の増幅された声が広場に響いた。「それではこよれり、処刑を開始する。罪を、死によってつぐなわせるのだ。ふははははは」
 このとき、執政官がおならをした。増幅されたおならの音が広場に響いた。
 テラシティの善良な市民は驚愕した。テラシティの常識からすれば、それはあってはならないことだった。聞こえなかったふりをする者がいた。しかし臭いが漂ってきた。
 アルタイラが何かを叫んでいた。
 テラシティの善良な市民が顔を寄せて囁きを交わした。いったい何が起きたのか、テラシティは地球上のほかの都市と同じ次元に墜ちたのか、テラシティの執政官は結局のところ火星や金星の下品な支配者と変わることがなかったのか。だとすれば、いったいテラシティはどうなるのか。虚飾が砕かれ、真実が暴かれ、常識は覆って単なる非常識となったのか。それでは虚飾の上にあぐらをかいたテラシティの明日はどうなるのか。多くの者が不安をささやき、ささやきはささやきと重なって間もなく大きなざわめきとなり、ざわめきは助けを求める声となって空に大きく響き渡った。
「アダム・ラー、アダム・ラー、こちらテラシティ、聞こえますか。テラシティの危機です。アダー執政官がおならをしました。アダム・ラー、聞こえますか。お願いです。どうか、わたしたちを助けてください」
 テラシティの上空、五千メートル。雲を見下ろす空の高みにテラシティの守護者アダム・ラーの空中要塞テラグローブが浮かんでいた。数々の武器を備えたその球体は直径百五十メートルを超え、輝かしい銀色の光沢をまとって地上の声に耳を傾け、巨大なラッパを備えた聴音機で市民の声を受けとめた。助けを求める市民の声はただちに電気信号に変換され、アダム・ラーの司令室に送られて最新鋭の通信装置テララジオから流れ出た。
「アダム・ラー、アダム・ラー、こちらテラシティ、聞こえますか。テラシティの危機です。アダー執政官がおならをしました。アダム・ラー、聞こえますか。お願いです。どうか、わたしたちを助けてください」
 テラシティの守護者アダム・ラーはテララジオから流れる声を聞いた。救いを求める市民の声に、蒼白の美貌と健やかな肉体を持つ正義の戦士の心が猛った。
「なんということだ」深みのある声でそうつぶやくと、テララジオに顔を近づけた。「アダー執政官が市民の前でおならをしたのだ」薄い唇を舐め、丸窓の外に浮かぶ雲を見つめてあとを続けた。「許してはならない」再び通信装置に目を落とした。「わたしはテラシティの守護者、アダム・ラーだ」姿勢を正して青い詰め襟のホックをとめた。青いチュニックの胸を叩き、続いて白い乗馬ズボンを軽く叩く。膝から下は磨き上げられた黒いブーツだ。腰のホルスターに収めた熱線銃MAX9を軽く撫で、最後に白い手袋を手に取った。「アダー執政官を滅ぼすのだ」そう言って机の上に置かれた真紅の発令装置テラアラームに手を伸ばした。テラグローブを揺るがすサイレンが鳴った。
 アダム・ラー出撃の合図だ。テラグローブに足音がこだまする。非番の者もドーナツを捨てて駆け出した。発進ドックでは作業服に身を包んだ浅黒い肌の男たちが声をかけ合い、快速艇テラホークの発進準備に取りかかった。驚異のテラニウムエンジンにテラニウム燃料が充填され、強力無比の熱線砲XH9000に重たげなパワードラムが装填される。アダム・ラーの司令室にタップスとスパークスが飛び込んできた。どちらもアダム・ラーの忠実な仲間だ。アダム・ラーが二人に気づいて振り返り、テラアラームから手を離した。サイレンが鳴りやみ、テラグローブに静寂が戻る。
「出動する」アダム・ラーが二人に告げた。
「了解」タップスとスパークスが敬礼した。
 アダム・ラーが敬礼を返して指令室から飛び出した。タップスとスパークスがあとを追う。円筒形のエレベーターのドアが閉まり、再び開くとそこは驚異のテラファシリティの焼け跡だ。アダム・ラーが二人の仲間を連れて現われると、技師が、科学者が、整備士が、補給係や修理工が、働く手をとめ、足をとめ、顔に喜びを浮かべて敬礼した。そして扇形の発進ドックでは純白の快速艇テラホークが美しい流線形の姿を横たえ、テラシティの守護者アダム・ラーが乗り込むのを待っていた。アダム・ラーは感嘆の吐息をもらし、テラホークに向かって駈け出した。タップスとスパークスがあとを追う。
 しかし、このとき、恐ろしい爆発音が発進ドックに響き渡った。二級整備士のマヌエルが腕を押さえて現われて、痛みにうめきながら横たわった。
「マヌエルっ」
 整備士たちがマヌエルに駆け寄り、助け起こした。
「欠陥タオルが…」
 マヌエルがそうつぶやいて頭を垂れる。
「マヌエルっ、しっかりしろ」
 整備士たちがマヌエルを励ます。アダム・ラーが駆け寄った。
「大丈夫か、重傷なのか?」
 整備士たちが首を振り、アダム・ラーの顔に悲しみが浮かんだ。
「アダム・ラー」
 かすれた声でマヌエルが呼んだ。
「マヌエルっ」
 整備士たちが口々に叫んだ。
「アダム・ラー」マヌエルがかすれた声で繰り返した。「わたしにかまわず、行ってください。わたしなら大丈夫です。たいした怪我ではありません。さあ、早く。テラシティがあなたを必要としているのです」
「マヌエルっ」
 整備士たちが口々に叫び、アダム・ラーの目に涙が浮かんだ。
「わかった」
 アダム・ラーがタップスとスパークスを振りかえった。
「行くぞっ」
 タップスとスパークスがうなずいた。アダム・ラーが身をひるがえし、発進ドックの床を蹴って快速艇テラホークのハッチに飛び込んだ。白いヘルメットをすばやくかぶり、コクピットに進んで操縦席に腰を下ろす。タップスとスパークスがあとに続き、タップスはアダム・ラーの右後方にある機関士席に、スパークスはアダム・ラーの左後方にある通信士席に腰を下ろした。タップスがクリップボードを取ってチェックリストを読み上げると、アダム・ラーが滑らかな手つきでスイッチを動かし、メーター類を指で叩く。かたわらではスパークスがヘッドセットを頭にのせて通信装置をチェックしていく。間もなく発進の準備が整った。
「エンジン始動」アダム・ラーが命令した。
「エンジン始動」タップスが復唱し、スイッチを入れてレバーを動かす。「テラニウムエンジン、出力百パーセント」
「固定装置解除」アダム・ラーが命令した。
「固定装置解除」スパークスが復唱してレバーを動かし、着陸用スキッドを発進ドックの固定装置から解放した。
 エンジンが吠え、テラホークが震えた。アダム・ラーが操縦桿を握り締めた。
 タップスが叫ぶ。「エンジン出力、百二十パーセント」
 スパークスが報告する。「固定装置、解除よし」
「発進」
 アダム・ラーが叫び、流線形のテラホークがテラグローブから飛び出した。まばゆいばかりの純白に輝く快速艇がテラシティを目指して一直線に降下していく。コクピットの窓に見る見るうちに地上が迫り、アダム・ラーが操縦桿を一気に引くとテラホークは空を切って金属の光沢をまとう建物をかすめた。地上に揺らめく影を投げかけ、水平飛行で突進する。あまりの速さにスパークスが肝を冷やした。
「アダム・ラー、もっとゆっくりに飛べませんか?」
 スパークスがそう言うと、タップスが笑った。
「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
 アダム・ラーが笑みを浮かべた。
「安心しろ、あと少しだ」
 しかし、このとき、テラニウムエンジンに異状が起こり、タップスの目の前で赤い警告灯が不気味に点滅した。計器をにらんでタップスが叫んだ。
「テラニウムエンジン出力低下、現在八十パーセント」
「何があった?」
「わかりません。出力さらに低下中、六十パーセント」
「なんとかしろ」
「だめです。四十パーセント、推力を維持できません」
 テラホークが傾き、スパークスが悲鳴を上げた。
「そうか、あの欠陥タオルか」タップスが叫んだ。
 マヌエルに傷を負わせた欠陥タオルがテラニウムエンジンを破壊したのだ。
 アダム・ラーが二人に叫んだ。「不時着に備えろ」
 前方にテラパークが見えてきた。銀色に輝く処刑台も見えてきた。テラシティの市民が逃げ惑う。アダー執政官の白いマントが処刑台でひるがえった。アダム・ラーの目が光った。操縦桿をあやつり、テラホークを執政官の背中に向ける。
 タップスが叫んだ。「行けえっ」
 スパークスが叫ぶ。「うわあっ」
 執政官が振り返った。執政官が手を上げた。薬指に金色の指輪が輝いている。ただかざすだけでテラシティのすべてのドアが開き、テラシティのすべてのトイレの便座が上がるあの指輪だ。執政官が指輪をかざした。その瞬間、テラホークがもんどりを打って地面に激突した。
「たいへんだ」市民が叫んだ。「執政官がテラホークを墜落させた」
「たいへんだ」市民が叫んだ。「執政官がアダム・ラーを攻撃した」
「たいへんだ」市民が叫んだ。「執政官はテラシティの敵になった」
「たいへんだ」テラシティの市民が声を合わせた。
 執政官の手に小型の熱線銃が現われた。
「コオロギどもめ」
 執政官はそう叫んで、テラシティの市民多数を消し炭に変えた。
「やめて」アデライダが叫んだ。
「やめて」アルタイラも叫んだ。
「ふははははは、ふははははは」
 執政官が悪魔的に笑っていた。
 テラホークのハッチが開き、アダム・ラーとその仲間が銃を手にして飛び出してきた。不時着の衝撃はすさまじかったが、頑丈なハーネスに守られていたので全員傷一つ負っていない。銃を構えて地面に伏せると、そこへ執政官の赤い光が降り注いだ。熱線銃から放たれた赤い光が地面を焦がし、さらに市民多数を消し炭に変えた。
「やめて」アデライダが叫んだ。
「やめて」アルタイラも叫んだ。
 アダム・ラーが感想を言った。
「すごい攻撃だな」
 タップスがうなずく。
「敵もなかなかやるようです」
 執政官が熱線銃を構えてアダム・ラーを狙っていた。アダム・ラーがそこを指差し、タップスに言った。
「正面からはとても無理だ。なんとかしてやつの背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「やつの背後にまわらせるのだ」
「しかし、どうしてわたしなんですか?」
 スパークスがそう言うと、タップスが笑った。
「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令する。「用意しろ」
「喜んで」
 タップスが勢いよく立ち上がり、熱線銃から放たれる灼熱の光をものともしないでテラホークに飛び込んだ。そしてミニチュア光線の発射管を抱えて戻ると再び地面に伏せてアダム・ラーに敬礼した。
「準備完了です」
「よし、スパークスを縮小しろ」
「喜んで」
 脅えるスパークスに向かってタップスがミニチュア光線を照射した。帯状に注ぐ水色の光線を浴び、スパークスのからだが見る見るうちに小さくなった。五センチほどの大きさにまで縮んだところで、アダム・ラーがスパークスにうなずいた。
「頼むぞ」
 スパークスが駆け出した。小さなからだとすばやい動きで敵から隠れ、熱線銃の攻撃をやすやすとかわして執政官に接近した。そして背後へまわることに成功したが、執政官がくるりと振り返ってスパークスを踏み潰した。
「なんてこった」タップスが叫んだ。「スパークスが殺された」
「このひとでなし」アダム・ラーが罵った。
 このとき、タップスが大きく息をのんだ。
「まさか、アルモン」そうつぶやくと危険もかえりみずに立ち上がり、こぶしを振り上げ、絶叫を放った。「アルモンっ」
 タップスの叫びを聞いて処刑人が笑った。
「はーはっはっはっ。よく見破ったな。そうだ、おれだ、アルモンだ」
 神経に触る軽やかな声でそう言うとアルモンは一瞬の動作で頭を覆う頭巾を取った。黄色い髪が、白い肌が現われ、体型がひとまわり細くなった。
 封印されていた暗い記憶がタップスの胸の底からよみがえった。上下が逆転する。墜落の衝撃。スパークスが悲鳴を上げる。アダム・ラーが叫んでいる。脱出だ。脱出だ。ハーネスをはずす。椅子から解き放たれたからだが天井へ落ちる。ハッチへ。ハッチへ。ハッチから落ちる。赤い光が降り注ぐ。市民が消し炭に変わっていく。すごい攻撃だ。そうだ、ミニチュア光線だ。スパークスを縮小しろ。喜んで。頼むぞ。なんてこった、スパークスが殺された。このひとでなし。まさか、アルモン、アルモン。そうだ、おれだ、アルモンだ。頭巾の下から黄色い髪が、白い肌が現われる。体型がひとまわり細くなる。悲鳴が聞こえる。誰かがどこかですさまじい悲鳴を上げている。
「アルモンっ」
 タップスが雄叫びを放ち、アルモンに向かって飛び出した。アダム・ラーも熱線銃を抜いてあとを追う。アルモンは不敵な笑みを浮かべ、いったいどこから取り出したのか、ロケットパックをすばやく背負った。
「タップス、また会おう」
 そう言うとすさまじい速さで空に向かって飛び立っていった。
「ちくしょう」空を見上げてタップスが叫ぶ。
 アダム・ラーが執政官の鼻先に熱線銃を突きつけた。
「撃つな、アダム・ラー」
 アダム・ラーが引き金を引いた。
 アダー執政官が消し炭に変わった。
 正義の勝利だ。テラシティは危機を免れ、テラシティの守護者アダム・ラーの活躍によってアダー執政官は退治された。テラシティの明日がよみがえり、アダー執政官の悪事が暴かれ、悪党どもは首吊りの縄から解放されて再び自由の身となった。
「わははははは」悪党どもが笑っていた
「ふふふふふふ」ラグーナも笑っていた。
「しかし、諸君」ロイド博士が口を開いた。「安心してはならないのだ。第二、第三の危機が、いつまたテラシティを襲わないとも限らないのだ」
「ねえ」アデライダが言った。「なんだか、おならの臭いがするわ」
「ああ」アルタイラが言った。「ごめん、それ、たぶん、あたしだ」


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