2015年5月3日日曜日

Plan-B/ 現場

S5-E05
現場
 土曜日の夜、繁華街の一角にある古いクラブで事件が起こった。連絡を受けた麻薬課の刑事たちはサイレンを鳴らして事件の現場に急行した。暑苦しいネオンの向こうに警察の車や救急車の回転灯が見えてきた。すでに規制線が張られていて、道に野次馬があふれていた。着飾った若者たちが騒いでいる。群衆整理の警官が口にメガホンを当てて叫んでいる。きれいな娘が地面に倒れて救急隊員の手当てを受けていた。パニックの発作を起こしたようだ。刑事たちが目配せをした。なぜか殺人課の連中がいる。鑑識が到着してプラスティック製のオーバーシューズを配り始めた。刑事たちは見栄えのしないそのしろものを靴にはめて、手袋をつけて、クラブの階段を下りていった。なかは暗い。まだブラックライトがついている。地下二階まで下りていくあいだに赤い非常灯に変わったが、暗いことには変わりがない。ダンスフロアの中央になにかが山盛りになっていた。懐中電灯の光がその山をなめて、人間の顔や手足を照らし出した。何十人もが溶け合って、一つの肉のかたまりになっていた。突き出た手足や頭が動いている。苦悶に顔をゆがめている。顔の一つで口が動いて、助けて、とささやいた。誰かがからだを折って吐き始めた。刑事たちには言葉がなかった。

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