2015年5月15日金曜日

Plan-B/ 墓地

S5-E17
墓地
 戦争が終わってしばらくしてから、男は村にやって来た。ぼろ靴を履いて、継ぎのあたった灰色の兵隊外套を着て、額に汚れた包帯を巻いた姿で無一文でやって来て、いつの間にか村に居ついていた。初めのうちは橋の下で寝ていたが、気の毒に思った神父がいなくなった堂守の後釜にすえることにした。男は教会の脇の小屋をあてがわれ、昼のあいだは神父に言われるままに雑用をして、夜になると小屋で眠った。ある晩、男は物音を聞いて目を覚ました。小屋の外になにかがいた。ランプに火を灯して外に出て、気配を追って闇のなかへ入っていった。教会の裏手には墓地が広がっていて、古い納骨堂が一つあった。背中を丸めて歩く黒い影が納骨堂の入り口をくぐった。男は納骨堂に踏み込んで、影が石棺の背後にまわるのを見た。男はランプを掲げて近づいた。石棺の足下にひとがくぐれるほどの穴が開いていた。穴に顔を寄せると、腐臭がはっきりと漂ってくる。男は腕を伸ばして穴のなかをランプで照らした。光が女の顔を照らし出した。青白い肌をして、光彩がほとんどなくなった目で、男を静かに見上げていた。男が見つめ返すと、女が手を差し出した。女が男の手を握った。女がゆっくり手招くと、男はランプを床に置いて穴のなかへ入っていった。

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