2015年5月20日水曜日

Plan-B/ 火球

S5-E20
火球
 老人が安楽椅子に腰を下ろしてまどろんでいる。遠くで雷が鳴っている。開いた窓から湿った風が吹き込んできて、机の上の紙をなでた。粘るような黄色い光が窓辺に現われ、光る球が窓を抜けて部屋のなかへ入ってきた。机の上の紙が黒く焦げてまくれ上がった。光る球が安楽椅子に近づいて老人の姿を照らし出した。白髪、くたびれた頬、ペイズリー柄の着古したガウン、パジャマのズボンの青い裾、踵がすり減った皮のスリッパ。老人が薄目を開いて顔を上げた。老人のからだが燃え上がった。ガウンが灰に変わり、老人のからだは炎のなかで溶けて縮んで椅子の上に転がった。黄色い球は天井のあたりに漂っていって、そこで染み入るように消えていった。

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