2012年2月11日土曜日

ノベル氏

植民惑星をエイリアンが侵略。通報を受けた地球連邦政府は調査団を派遣する。彼らがそこで見たものは。人類世界を震撼させたナウホワット事件の全貌を豊富な証言で再構成した迫真の「ドキュメンタリー」。(400枚)




『ノベル氏』登場人物
パルパ ・・・・ 宇宙省長官
ヌルミ ・・・・ 宇宙省次官
マルミ ・・・・ 宇宙省次官秘書
ヴオリ ・・・・ 宇宙省特別業務本部本部長
ロベリ ・・・・ 宇宙省ヘルメス計画推進室室長
コックリ ・・・ 宇宙省ヘルメス計画推進室職員、ナウホワット調査団
アルタ ・・・・ 宇宙省文化推進事業室次長
ガバン ・・・・ 宇宙省外来種族管理局局長
ポトフ ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース所長
ノベル ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース副所長、ナウホワット調査団
クラム ・・・・ 宇宙省ムワンザ地区ハローアース職員
ラミジ ・・・・ 宇宙省ムワンザ支局契約課職員
スポッツ ・・・ 宇宙省警備局機材、ナウホワット調査団
コンツ ・・・・ 宇宙省元職員
ヨネン ・・・・ 惑星シトヴラク地球連邦権益代表
ザイン ・・・・ 汎惑星協議会理事、スヴェティマス人
エンデ ・・・・ 保健省次官
ソマリ ・・・・ 保健省検疫官
トコイ ・・・・ ムワンザ宇宙港ボイラー室主任
タルミ ・・・・ ムワンザ大学医学部教授
ペルミ ・・・・ 北アイオワ大学宇宙生物学研究所研究員
バベル ・・・・ 政治学者、『無限無責任統治論』の著者
ハメル ・・・・ 政治学者
カムリ ・・・・ 政治ジャーナリスト
セリカ ・・・・ 科学ジャーナリスト、『約束を守れないロボット』の著者
アッカ ・・・・ 作家、『小説 汎惑星協議会・闇の群像』の著者
ラワン ・・・・ ペタルマ・クラブ広報担当
ノット ・・・・ ミダス社社員
ガラム ・・・・ 宇宙船乗員組合広報担当
バルビ ・・・・ 貨客船マリゴラ2の上席士官
ロスト ・・・・ 貨物船マルットの船長
コスト ・・・・ 貨物船マルットの先任士官
ネスト ・・・・ 貨物船マルットの機関長
ダスト ・・・・ 貨物船マルットの船医、科学士官
テスト ・・・・ 貨物船マルットの甲板員
ペスト ・・・・ 貨物船マルットの甲板員
ラスト ・・・・ 貨物船マルットの機関員
カルタ ・・・・ 興行主
デブリ ・・・・ ナウホワット自治政府評議会議長
ラフト ・・・・ ナウホワット自治政府評議会議長補佐官
メルト ・・・・ モメント市の市長
ボトム ・・・・ モメント空港兼宇宙港の港長
オーガ ・・・・ 秘密警察長官
ヒント ・・・・ 情報処理センター技官
コラム ・・・・ 行政センター管理部機材倉庫の管理人
カルマ ・・・・ 行政センター管理部部長
ウプス ・・・・ ワイルドカード社の社長、メグヴェツテゲット人
オラン ・・・・ ワイルドカード社の株主
トロル ・・・・ ナウホワット相互銀行社長
ラモー ・・・・ ラフトの友人
ワイズ ・・・・ ラモーの友人
クポー ・・・・ ラモーの友人
カポー ・・・・ ラモーの友人
アラゴ ・・・・ トロルの甥
ライラ ・・・・ エルダーの娘
コペイク ・・・ コルサコフの長命者
クロアチアのクマ ・・・・ クロアチアのクマ
ローゼンクランツ ・・・・ モルモット
ギルデンスターン ・・・・ モルモット



「緊急連絡ポッドは敵対的なエイリアンの追尾を受ける可能性があります。その可能性にもとづいて、ポッドは地球圏へ到達するまでに三十六回の超空間ジャンプをランダムに実行することになっているのです。しかし、それでも振り切れないかもしれないし、エイリアンがポッドの超空間ジャンプの痕跡を見つけて、そこへやって来るかもしれません。そのとき、そこにたまたま人類の宇宙船がいて、エイリアンに拿捕されて地球の座標を奪われるような事態も想定しておかなければならないのです。だからポッドは途中で遭遇した船舶にウイルスを投入して航法データを消去するようにプログラムされています。ハイヤンの乗組員には同情しますが、ヘルメス計画の実行過程で発生する民間船舶の損害について連邦政府は免責されています。それよりも問題なのは、ポッドのウイルスが陳腐化していて、マリゴラ2のファイアーウォールを突破できなかったことのほうです。ヘルメス衛星はファイアーウォールの進化を予測しながらウイルス・プログラムを自動的に更新する機能を備えているはずなのですが、ポッドが使ったウイルスは百八十年前に作成された母体コードのままでした。衛星のその部分を製造した会社は百年も前になくなっているし、仕様書を調べても何がなんだかわけのわからない有様で、非常に困惑しています。問題はそれだけではありません。ポッドは超空間ジャンプの際にランダムに発生させた座標を使う仕様になっているのですが、実際にはこれがランダムではなく、超空間飛行にかかわるコストを節約するために定期航路にすり寄るようにして設定されていたことがわかったのです。もともとのプログラムがそうなっていたのか、ポッドのAIが勝手にそうしていたのか、原因はまだわかっていません」(本文より)



「もちろん選択肢はあった」遠い目をしてロスト氏は言う。「操縦士だけを残して搭乗員を下ろしてしまえば、もう三人乗せることができたはずだ。銃座から機銃をはずしてしまえば、もう二人乗せることができたはずだ。余分な重量を残らず捨てれば、あと三人は乗せることができたはずだ。たしかに選択肢は存在した。選択肢はあったはずだと、あとからならばいくらでも言える。しかし現実には、目の前にメドヴェド人の大部隊が迫っていた。機銃手は二人とも機銃に貼り付いて銃撃を続けていた。そしてわたしは明確な命令を受けていて、命令を遂行する条件は整っていた。だからわたしは命令にしたがった。もし状況が必要を命じたならば、わたしには現地に残ってメドヴェド人と戦う覚悟があったと、わたしは信じている。必死になって助けを求める人々をあそこに置き去りにしたことでわたしは自分の良心に痛みを感じていると、わたしは信じている。わたしが救出した人々は初めはわたしに感謝し、わたしの判断をやむを得ないものと認めていたが、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。艦載艇の搭乗員はわたしに命令の遂行を求め、わたしに出発を急がせたにもかかわらず、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。艦長はわたしの判断を認め、あれはやむを得ない犠牲であったと最初のうちは言っていたが、間もなくわたしを裏切った、とわたしは信じている。しかし軍法会議はわたしに無罪を言い渡し、わたしの行動に誤りがなかったことを証言と証拠を使って立証した。軍法会議のあと、わたしは除隊を勧められた。勧められたと言えば、選択肢があったかのように聞こえるかもしれないが、あれは事実上の命令だった。結局のところ連邦宇宙軍はわたしを裏切ったのだと、わたしは信じている」(本文より)



「つまりね、あの巨大な宇宙省は宇宙開発にかかわるすべてのことを所轄しているわけですよ。この、宇宙開発にかかわるすべてのこと、というのはですね、実は植民惑星の行政全般までが含まれているのです。これがどういうことかわかりますか? つまりね、植民惑星の経済、文化、教育、保健衛生などの政策に対する指導権限が、ことごとく、宇宙省というたった一つの役所に集中しているということなんですよ。これはほとんど宇宙省帝国と言っても差し支えないような、とんでもない権限を宇宙省は持っている、ということになるわけですが、意外なことに、事実に反して、という保留がついているのです。宇宙省は権限だけは山ほども抱えているのですが、その権限を実際に行使したことはほとんどありません。ほかの役所がある権限を望んだときに、その権限は宇宙省が持っているぞ、と言うためだけに山ほども権限を抱えているのだ、と申し上げても決して過言ではないのです。そこへ来て、今回のナウホワット事件というわけです。もし宇宙省が植民惑星を適切に指導していたならば、おそらくこのような事件は起こらなかったに違いありません。そしてすでに事件が発生して深刻な事態になっているにもかかわらず、宇宙省は表紙を含めて四ページしかない報告書を精査するのに忙しくて具体的な対策を何一つとして講じようとはしないのです。宇宙省のこの対応に煮え切らないものを感じているのは、おそらく政府部内でもわたし一人ではないでしょうね。以前からある宇宙省分割論を安易に支持することはできませんが、宇宙省の機能について根本的に見直す時期が来ていることは間違いないと考えています」(本文より)


Tetsuya Sato