2016年1月17日日曜日

ブリッジ・オブ・スパイ

ブリッジ・オブ・スパイ
Bridge of Spies
2015年 アメリカ/ドイツ/インド 142分
監督:スティーヴン・スピルバーグ

1957年、ニューヨークの弁護士事務所でパートナーをしているジェームズ・ドノヴァンはFBIに逮捕されたルドルフ・アベルの国選弁護人を引き受けるが、ルドルフ・アベルの容疑がソ連のスパイで、小学校では核兵器の威力を子供たちに説明してduck & coverなどとやっている時代なので、敵のスパイの弁護をしたということでジェームズ・ドノヴァンは全米から批判を受けることになるが、法理念に忠実なジェームズ・ドノヴァンはまずFBIの過失を発見して証拠の有効性に疑念をはさみ、被告が法的に適性に処理されていないと主張するものの、結論ありきで裁判を進める判事によってこの主張を退けられ、陪審はルドルフ・アベルに有罪を認め、ジェームズ・ドノヴァンは判事の家を訪れてルドルフ・アベルはアメリカの交渉カードであると説得し、判事はジェームズ・ドノヴァンの言葉に理を認めると電気椅子を求める全米の期待に反してルドルフ・アベルに30年の禁固刑を宣告し、ジェームズ・ドノヴァンの家には銃弾が撃ち込まれることになるが、1960年、いわゆるU-2撃墜事件が発生し、フランシス・ゲイリー・パワーズがスパイ容疑で告発を受けて有罪宣告を受けたことから、1962年、ジェームズ・ドノヴァンはCIAから要請を受けてパワーズとアベルの交換交渉をすることになり、西ベルリンの廃屋同然の拠点を与えられてヒルトンに宿泊するCIA職員の指示を受け、壁ができあがったばかりの東ベルリンを単身で訪れると不良グループにコートを奪われ、風邪を引いた状態でソ連大使館で交渉を開始、パワーズに加えて前年に東ベルリンで逮捕されたイェールの学生フレデリック・プライアーの返還も要求すると、ソ連側はプライアーの一件は管轄が違うと主張して東ドイツ側の代表を紹介し、主権国家としてアメリカの承認を求める東ドイツはソ連とは違うことを言い、CIAはCIAでプライアーなど自業自得だから知らないと言い、それでもジェームズ・ドノヴァンは信念にしたがって要求を通し、パワーズとプライアーは開放され、ソ連はルドルフ・アベルを取り戻し、東ドイツは面目を保つ。
ジェームズ・ドノヴァンがトム・ハンクス、ルドルフ・イヴァノヴィチ・アベルがマーク・ライランス。一見して人柄があふれるトム・ハンクスのジェームズ・ドノヴァンもたいへんなものだが、ほとんど表情のないマーク・ライランスの演技がまたすごい。50年代末から60年代初頭のアメリカ、東西ベルリンが精密に再現され、特に東ベルリンのファンタジーっぷりがなんだか『ワン、ツー、スリー』みたいでなかなかに楽しい(しかもそれを映画で見ているだけのこちらはその場に自分がいないことを喜べる)。コーエン兄弟による脚本がよくまとまっているのか、映画の方向性は明瞭で、ヤヌス・カミンスキの撮影はほとんど神がかりと言ってもよく、スピルバーグの演出は2時間半近いこの作品を一気に見せる。すばらしい映画だと思う。ところで大仕事を終えて帰宅したドノヴァン弁護士を迎えた家族がテレビの前で食べていたのはいわゆるテレビディナーだったのではあるまいか。一瞬しか映らなかったので自信はないが。

Tetsuya Sato