2016年1月3日日曜日

トポス(65) ヒュン、魔法玉を使う。

(65)
 ヒュンとネロエは街道をさらに南へ進んでいった。進むにつれて邪悪な黒い力の影が濃くなっていった。空は暗くなり、野を吹き渡る風も暗くなり、路傍では石が肩を寄せて月曜の朝の暗い心を歌っていた。ネロエは何度も呪文を唱えて、四つの村と二つの町を清浄にした。何百人もの用心棒や売人を善良な市民に入れ替えた。そしていきなり膝を折ると道に倒れて、悲しみがこもった息をもらした。
「恐れていたことが起こりました」ネロエがつぶやくような声で言った。「邪悪な黒い力はあまりにも大きく、そしてわたしは非力でした。わたしはもう、先に進むことができません。力を使い尽くしてしまったのです。あなたにお願いがあります。南の山脈の足もとに、いにしえからエルフが暮らす美しい森があるのです。その森の奥には精霊が住まう泉があり、いつも清らかな水をたたえています。その泉の水を、どうか、わたしのために取ってきてください。精霊の光をたくわえた清らかな水が、わたしに再び力を与えてくれることでしょう」
 ヒュンはネロエを見下ろした。
「また会うこともあるだろうさ」
 そう言って一人で旅を続けた。
 やがて小さな村が見えてきた。
 密売組織の用心棒が湧き出るように現われて道をふさぎ、武器を構えてヒュンを迎えた。ヒュンは剣を抜いて守りを固めて、次々と魔法玉を投げつけた。用心棒が炎に焼かれた。雷に打たれ、鋭い氷柱に貫かれた。
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが叫んだ。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」

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