2016年1月16日土曜日

トポス(78) 所長の前に復讐の女神が黒衣をまとって現われる。

(78)
 所長は復讐の女神を探して山を下った。囁き続ける歯車の音を耳に聞き、機械油を垂らしながら森の奥へと入っていった。押し寄せる藪をかき分けて、はしばみの枝に顔を打たれ、廃墟と化した神殿を見つけて祭壇の前に足を置いた。
 所長は復讐の女神に向かって呼びかけた。
「復讐の女神よ。俺の前に姿を見せろ。この俺が問いかけ、そしておまえたちが答えるのだ。復讐の女神よ。俺が呼んでいる。俺の前に現われるのだ」
 復讐の女神が黒衣をまとって現われた。
「わたしは復讐の女神だ」と復讐の女神が所長に言った。「おまえの望みはわかっているぞ。おまえの望みは地方官僚的な条件反射とロボットのプログラムにしたがって予防的な措置を講じることだ。それを復讐の女神に求めるのは筋違いというものだ。復讐の女神は復讐をする。おまえが求めているのは復讐ではない。それならばヒュンを、とおまえはいま考えたな。しかしヒュンへの復讐を求めるのも筋違いだ。テレポッドの一件は事故と見なされる。おまえがすべきことを教えてやろう。まず書類を用意して、それから所管の行政機関に労働災害の申請をすることだ。運にめぐまれて、係官が同情的なら認められることだろう。だが管理責任を問われることも覚悟しておいたほうがいいだろう」
「役立たずめ」と所長が叫んだ。「消え失せろ。どうやら呼び出す相手を間違えた。この俺には、何かもっとモダンな相手がふさわしい」

Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.