2014年10月19日日曜日

いたちあたま (13)


 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 村の男が村の男たちに売り飛ばされて、助けを求めて叫んでいた。古いしきたりにしたがって、村の男たちはほうほうほうと声を上げた。七日に一度、一人を選んで売ることができた。村の男たちはのろしを上げて穴暮らしたちを呼び寄せた。売り飛ばされた男はただれても蛆がたかってもいなかったので、穴暮らしたちは安く買った。
 村の男を売って得た金は村の男たちのあいだで分配された。村の男たちは居酒屋へ出かけていって金がなくなるまで酒を呑んだ。金が尽きると村の男たちは腹を立てた。居酒屋から出て村の女たちを殴り始めた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 村の女たちが村の男たちに殴られて、助けを求めて叫んでいた。髪を掴まれ、引きずり倒され、足蹴にされて助けを求めて叫んでいた。村の男たちは村の女たちの腰帯をほどき、隠しどころにためらいもなく手を入れて村の女たちの金を奪った。金を手に入れた村の男たちは居酒屋に戻って酒盛りを始めた。
 村の男たちがすっかり酔って寝静まったころ、村の女たちは荒れ野へ出かけて、そこで道を誤った旅人を探した。道を誤った旅人を見つけて取り囲み、いっせいに髪留めを抜くと髪を乱してわめきながら針のようにとがった髪留めの先を道を誤った旅人のからだに突き立てた。それから髪留めの血をぬぐい、顔を隠して村へ戻った。闇夜にまぎれて家に駆け込み、戸口に掛け金を下ろして息をひそめた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 道を誤った旅人は穴という穴から血を流しながら、助けを求めて暗い森に踏み込んだ。暗い森には盗賊たちがひそんでいた。道を誤った旅人を見つけると笑いながら襲いかかって、裸に剥いて木に縛りつけた。からだに開いた小さな穴の一つひとつに松脂に浸した松の葉を植え、血がとまったところでやっとこを取り出し、目玉をえぐり、肉をえぐり、耳や鼻をねじり取った。仕事を終えると居酒屋へ出かけて、酔って眠りこける村の男たちを見下ろした。盗賊たちは居酒屋のあるじに金を払って村の男たちを安く買った。村の男たちを森へ運んで服を奪うと、村の男たちになって村へ戻った。村の男たちは居酒屋の戸口の前で腹を立てた。金がないことに気がついて、村の女たちを殴り始めた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 村の女たちが村の男たちに殴られて、助けを求めて叫んでいた。髪を掴まれ、引きずり倒され、足蹴にされて助けを求めて叫んでいた。村の男たちは村の女たちの腰帯をほどき、隠しどころにためらいもなく手を入れて村の女たちの金を奪った。金を手に入れた村の男たちは居酒屋に戻って酒盛りを始めた。
 村の男たちがすっかり酔って寝静まったころ、村の女たちは荒れ野へ出かけて、そこで道を誤った旅人を探した。道を誤った旅人を見つけて取り囲み、いっせいに髪留めを抜くと髪を乱してわめきながら針のようにとがった髪留めの先を道を誤った旅人のからだに突き立てた。それから髪留めの血をぬぐい、顔を隠して村へ戻った。闇夜にまぎれて家に駆け込み、戸口に掛け金を下ろして息をひそめた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 道を誤った旅人は穴という穴から血を流しながら、助けを求めて暗い森に踏み込んだ。暗い森では盗賊たちが裸で眠っていた。酔いから目覚めて道を誤った旅人を見つけると裸に剥いて木に縛りつけた。からだに開いた小さな穴の一つひとつに松脂に浸した松の皮を貼りつけて、血がとまったところでやっとこを取り出し、目玉をえぐり、肉をえぐり、耳や鼻をねじり取った。仕事を終えると居酒屋へ出かけて、酔って眠りこける村の男たちを見下ろした。盗賊たちは居酒屋のあるじに金を払って村の男たちを安く買った。村の男たちを森へ運んで服を奪うと、村の男たちになって村へ戻った。村の男たちは居酒屋の戸口の前で腹を立てた。金がないことに気がついて、村の女たちを殴り始めた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 村の女たちが村の男たちに殴られて、助けを求めて叫んでいた。髪を掴まれ、引きずり倒され、足蹴にされて助けを求めて叫んでいた。村の男たちは村の女たちの腰帯をほどき、隠しどころにためらいもなく手を入れて村の女たちの金を奪った。金を手に入れた村の男たちは居酒屋に戻って酒盛りを始めた。
 村の男たちがすっかり酔って寝静まったころ、村の女たちは荒れ野へ出かけて、そこで道を誤った旅人を探した。荒れ野では眠る者が石を抱いて眠っていた。

 眠る者は眠り続ける。
 森の老人はそう言った。
 眠る者は目覚めを知らない。
 森の老人はそう言った。

 村の女たちは眠る者を囲んで髪留めを抜いた。一人、また一人と眠る者のまわりに横たわって、髪を乱して眠り始めた。村の女たちが寝息を立てると眠る者が目を覚ました。石を捨てて起き上がって、村の女たちの腰帯をほどいた。

 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 村の女たちが大きくふくらんだ腹を抱えて、助けを求めて叫んでいた。村の男たちは軒先を肩にかけると屋根を押し上げ、壁と屋根の隙間から家のなかを覗き込んだ。村の女がふくらんだ腹を抱えて横たわり、苦しみの汗をにじませていた。村の男たちはそれを見て、古いしきたりにしたがってほうほうほうと声を上げた。女が腹をふくらませているのは、眠る者の隣で眠った証拠だった。村の男たちは肩を組んで、声をあわせて地面を踏んだ。村の男たちがそろって足を踏み鳴らすと、地面が震えて家が揺れた。村の男たちがそろって足を踏み鳴らすと、家の壁に亀裂が走り、大地が重たく轟いた。村の女たちの腰の下で砕ける音が響き始めた。村の女の腰の下で、土をかためた床が割れた。一人、また一人と村の女が悲鳴を残して大地の底に落ちていった。



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